第十話 長い一日の終わり
いつもありがとうございます。
残った食料を持ち、公園を去る。街中は静かだった。
「ねぇ、どうしてこんなに奴らがいないのかな?」
佐治が答える。
「橋だ。この街を出ようとする人で溢れかえってるんだ。そのせいで、無駄に騒ぎが起きてるんだろう・・・そっちに感染者が集中しているおかげで、こっちには来ないけどな」
まぁ、感染者の抑え込みなんて時間の問題だろうがな。
「そっちの方が楽だけどな」
歩いて来た感染者を睨みつける。
「・・・・・・」
バットを思いっ切り振り下ろす。
そのまま二、三度ピクピクしてからそいつは動かなくなった。軽くバットを振って地面に血を払う。
「何か、真鍋君って凄いね」
「何がだ?」
動かなくなった感染者を横目で見た後、倉橋は俺にそう言った。
「だって、この人達を殺すことに何の躊躇いもないから」
「それは・・・」
「うん、分かってる。それが正しいことなんだって・・・こんな対処法しかないなんて、私だって理解してる」
抗体があれば直ぐにでも世界中にばら撒かれてるだろ。
「私は・・・直ぐにはそんなこと出来ないな。だって、今までずっと普通に暮らしてて・・・学校行って、友達と仲良くして、勉強して、家に帰ったらお母さんが美味しいご飯用意してくれてて、お父さんが笑顔で帰って来て、それが私は当たり前だと思ってたの・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
そして、寂しそうに、悲しそうに。
「だから、そんなふうに直ぐには割り切れないよ。私は」
佐治を見ると、同じようなことを思っているのか、少し俯いている。
俺は倉橋とは違う。
こいつのように目標があって、それに向かって頑張っている訳ではない。多少なからず必要はされているが、別にいてもいなくても良い存在。
努力はした。何かを成し得る為に必要なことはやった。だが、結果的には何も得られなかった。
それなりの成果は上げた。
だが、何も思わないし、心何て動きもしなかった。
だからか、何をやるにもやる気なんて出ないし、家に帰ってもやることはゲーム程度。目標もやりたいことも・・・何もない。
「さてと・・・」
いつの間にか日が暮れ、暗くなっていた為、取り合えず一番近かった俺の家に行く事にした。
「ただいま・・・」
俺はそっと家に入る。俺の両親は二人とも海外にいて家には滅多に帰って来ない。安全ちゃー安全だな。
ドアを閉め、鍵をしっかりとかける。
「俺の家は俺しかいない。好きに使ってくれ」
「うん」
「了解」
各自バラバラになる。と言っても俺と佐治はリビングのソファーに座る。
倉橋は恐らく風呂にでも入りに行ったんだろう。電気が点いていられるのも今日ぐらいだ。それに、次に風呂にはいれるのはいつか分からない。
好きに入らせてやるか。
「さてと、どうする?蓮太郎」
「どうするって?」
「コンビニ、スーパーの食料じゃ生き延びられない。それに、民家じゃ、大量に押し寄せられたひとたまりもないからな」
「確かにな・・・」
当分はなんとかなるだろうが、永遠には無理だ。
「自分達で食ってくには、農園とか作るのもいいな。兎に角、何処か広い場所に行くか、ショッピングモールに立て籠もるのもいいな。屋上使えば農園も作れる。土は地味に積み上げればいいし、肥料もある」
「そうだな。それも一つの案だな。だが、長く安全な場所が必要なのは確かだ」
安全な場所か・・。
「溝島ショッピングモールだな・・・あそこなら何でも揃ってる。バットも・・そろそろ変えたいしな」
血が染みついたバットは感染者を殴り続けていたせいか、若干へっこんでいた。これで殴るには少し問題がありそうだ。
「取り合えず、明日は佐治と倉橋の家に行こう。お前も両親が心配だろ?」
「あー、うん」
「どうした?お前にしては歯切れの悪い答え方だな」
佐治は更に唸る。
「まー、いや。何でもない」
すると、倉橋が上がって来た。
そこで一つ考えが浮かんで来た。
「あっ、倉橋着替えどうするんだろな?」
「むぅぅぅ・・」
「そんなに怒るなよ。お前が考えもなしに勝手に風呂に入るからだろ?」
「だって・・・女物ぐらいあると思ったから・・」
今現在倉橋は膨れ面で正座している。体にバスタオル巻いて。
男子高校生的には随分と過激だが今はそういっている状況ではない。
「ほら、制服を洗って乾燥機にかけてやる。多少なりと傷つくが、別にいいだろ?」
「まぁ・・・」
「それと、明日はお前と佐治の家に行く。それでいいよな?」
「うん・・分かった」
倉橋はそう頷いた。
制服が渇き、倉橋は制服にチェンジした。その状態で三人揃ってカップ麺を啜ってる。今後の方針も兼ねてだ。
「多分、今はこの溝島市と隣の青原市を繋いでいる大河大橋に集中しているんだろう。前にも言ったが、皆、この街から脱出しようとしているんだ。青原市には自衛隊の基地もある。そっちの方が安全だと思ったんだろうな」
俺は今の状況を確認した。
「自衛隊がそう簡単に殺られるとは思っていないが、受け入れる人数は限られて来る訳だ。いくら自衛隊でも物資には限りがあるからな」
「・・・兎に角、明日は佐治と倉橋の家に行こう」
「そうだね」
「了解すた」
見れば倉橋は欠伸をしている。
そうだな・・・今日一日で色々あったからな。
「取り合えず寝よう。明日は今日よりももっと色々動かなくちゃならないからな」
俺はそう言った。
「んじゃ、倉橋は二階の奥の部屋使ってくれ。押入れに布団がある筈だから。俺と佐治はリビングで寝る。何かあったら直ぐに言えよ」
「うん、分かった。ありがとう」
「んじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
倉橋が階段を上がり切るのを見ると、俺はリビングに戻る。
玄関の前に奴らはいない。
大丈夫だ。
「さてと、俺らも寝るか」
「ん」
いつもならまだゲームでもやってる時間だが、明日はたくさん動かないといかなさそうなので、今日はもう眠ることにした。
学校の授業じゃないんだ。
しっかりと休まなければ。
「消すぞ」
電気を消し、リビングにひいた布団の上に寝転がる。
「・・・なぁ、蓮太郎」
「ん?」
天井を向いた状態で佐治が俺に問い掛けて来た。
「あの女、大丈夫なのか?」
あの女とは倉橋のことか。倉橋は・・。
「大丈夫だろ。対人格闘だって、ほら、見ただろ?それなりに戦えてるじゃん」
「まぁ、男一人背負い投げするなんて、女子高生のすることとは思えないがな。俺より喧嘩強そう・・・」
「はは、佐治は武器持たなきゃやってられないからな。まっ、俺もだけど」
「信頼度的には?」
と、佐治が言った。
戦闘力どこうではなく、ここも肝心な部分だ。
「蓮太郎の、率直な意見を聞きたい」
「・・・・正直に言えば分からん。まだ、出会って一日も経ってない。そんな奴をそう簡単には信用出来んさ。元々、俺らとは違う世界の人間なんだから」
「そうだな」
「まぁ・・・別に全然使用してないって訳じゃない。けど、俺達と行動しているなんて、今だけさ。自分の仲間が見つかれば・・・・」
「・・・・そだな」
別にこれが彼女の選択というなら、俺にそれを止める権利はない。確かに助けたのは俺達だが、ついてくるかどうかは彼女が決めることだ。
「明日は速い。俺はそろそろ寝るぞ」
そう言って佐治は眠りについた。
・・・俺も寝るか。
今日は・・・ちょっと色々あり過ぎたからな。ゆっくりと重い瞼を閉ざしていき、その意識は徐々に大海へと飲み込まれていった。
誤字脱字があればご報告お願いします。いやぁ、もう直ぐ夏休みですね。けど、受験のほうが・・・・でも頑張ります(/・ω・)/次回もよろしくお願いします\(゜ロ\)(/ロ゜)/