ミッシェルの憂鬱: バザール
外では灼熱の日差しが照りつけている中東の民間市場、屋内では何処の言葉なのか聞き取れない言語が飛び交い、何処からか異国の歌が聞こえる。
喧噪の中、年の頃は40代だろうか? 一人の日本人がアクセサリーを物色していた。
店番をしている皺だらけの老婆が何事か話しかけてくるが、言葉が判らないらしい。
「お土産なら、アクセサリーはどうかって言ってます」
現地の人間、恐らくは専任の通訳なのであろう色の浅黒い男が、その日本人の男に日本語で話しかける。
「ああ、プロジェクトも目処が付いたし、娘と妻に何か買って帰ろうと思ってね」
そう言って、男は通訳に品物について質問をするように頼んだ。
店番の老婆の言葉を伝えて価格交渉も終わり、通訳の男は老婆に品物を包んでくれと依頼する。
「お子さんはお嬢さんだって言ってましたね」
店の奥に引っ込んで粗末な梱包をした品物を受け取り、バザールを後にする日本人の中年男と通訳。
「もう単身赴任生活が長いからね、何を買っていったら喜ぶのか、かいもく見当がつかないよ」
そう言って、迷った末に民族衣装を着たアラブ女性の人形を買った中年男性は寂しそうに笑った。




