白いワンピース
このお話は、シリーズ作として独立させた「異世界の機神 第1章:ドラゴンスレイヤー計画」と連動しています。
ドラゴンスレイヤー計画を読まれた後に、是非お読み下さい。
読まれていない方は、この作品は飛ばして、次作「ミリアムの場合」から読む事をお薦めします。
普段は傍観者に徹していて、あれこれ口を出さない幼女形態のバルがどうしてもと言うので、俺たちは街道から大きく外れた森の中にある場所に来ていた。
辺りを探していて、壊れたエレベーターの跡のような場所を見つけたバルは入り口を塞いでいた瓦礫を一撃で破壊すると先に下へと飛び降りていったので、みんなで慌てて追いかけてきたのだ。
風魔法と反重力魔法を使ってゆっくりと降下してきた先には、バルが破壊したエレベータのスライドドアがあった。
いつも傍観者の立場を貫いているバルが、こんなに積極的に自分から動くのは初めて見た気がするんだが、いったいこの先に何があると言うのだろう。
「いつものバルちゃんじゃ無いみたいだね」
メルの意見に、全員が頷いた。
「まるで、恋しい想い人に逢いに行くかのようじゃの、邪魔する者は馬に蹴られてなんとやらじゃ」
イオナが飄々とした口調でバルの行動を、そう評した。
「入り口は塞がっていたから、恐らく何も危険な魔物は居ないとは思うけど、みんな警戒は怠らないでね」
レイナの指摘に全員が頷き、各自の武器を手にして慎重に先行したバルの足跡を追った。
ドシャッ!と何か金属を叩き潰して破壊するような音がして、行ってみるとスライドドアの入り口を破壊された広い室内に置かれた、カプセルのような物の前にバルは立っていた。
それは半透明の膜に内側から覆われていて、外から中の様子は見えない。
「おいバル、ここの機械は生きてるのか?」
そう問いかける俺の声に、バルは小さく頷いて機械の操作盤に書かれた文字を見ながら操作していた。
見回せば、同じようなカプセルが3つ置かれてるけれど、残りの二つは壊れているらしく表示灯の灯りが点灯していない。
「和也、これミイラになってる」
「こっチのも同ジだね」
アーニャが覗いているカプセルの処に行ってみると、顔だけが干からびてミイラのようになった男性の死体が入っていた。
「レイナ姫よ、おぬし夏物の白いワンピースは持っておるか?」
突然、バルにそう言われてレイナは面食らっていたが、心当たりがあるのか腰に下げたバッグの中から白いワンピースを取りだしてバルに渡していた。
「おいバル、夏物ってもうとっくに季節は秋になってるぜ」
俺はそう言って指摘するんだが、バルは一向に気にしない様子でレイナに借りたワンピースを真剣な目で品定めしていた。
「構わぬ、どうしても夏物の白いワンピースが必要なんじゃ」
そう言うと、バルは突然幼女の姿から17歳くらいの少女に変化すると、その場で着替え始めた。
「わっ、たっ、ちょっと、バル!場所ってものを考えろよ」
慌てて目を逸らす俺、本当にバルは恥じらいってものが無くて困る。
「バルちゃん、駄目よこんな処で着替えちゃ」
メルがいつものようにバルに注意をしているが、どう見ても今はバルの方が年上のお姉さんにしか見えない。
「和也もヴォルコフもティグレノフも、イオナを見習って余所を見てなくちゃ駄目よ」
アーニャも、ヴォルさんとティグさん二人を視線を逸らすのに懸命で、なんだか笑える。
どう見たって、アーニャのほうが保護される対象にしか見えないのに。
それにしてもバルがどうしても来たいと言っていたここは、どうみても旧世界の遺物が眠る研究室か何かの遺跡にしか見えない。
ピッと言う音が聞こえたので、そちらを見てみるとカプセルを覆っていた半透明の薄膜が溶けて行き、その中の様子が見えるようになっていた。
「誰もおらんな」
イオナの冷静な声が、その中の状況を正確に伝えていた。
確かに、そのカプセルは空だった。
その空のカプセルを黙って見つめていたバルは、静かに溜息を吐くと白いワンピースを突然脱ぎ始めた。
「わっ、ちょっ、待てバル、おい」
「すまぬな、レイナ姫よ、ワンピースは返すぞ」
バルは、いきなり幼女の姿に戻ると借りていた白いワンピースを折りたたんでレイナに返した。
「ちょっと、バルちゃん、いつも急に裸になっちゃ駄目だってば」
メルが、いつものように慌ててバルを着替えさせている。
なんか、俺このパターンにも慣れてきたかも……
「どうしたんだよ、バル、誰かを探していたのか?」
俺が、バルの様子を見て想像したことを尋ねてみると、バルは柄にもなく素直に答え始めた。
「ちょっとな、昔の知り合いが居るかと思ったんじゃが、もう目覚めて何処かへ行ったようじゃな」
「それと白いワンピースに、どういう関係があるの?」
メルがそう尋ねると、バルは少し照れたような顔になって言った。
「なあに、奴と最初に出会った時にわしは白いワンピースを着ておったのじゃ、ただそれだけじゃ」
「なんか、バルちゃん寂しそう… 」
メルがアーニャと顔を見合わせて、そう呟いた。
「自分だって事を一目でわかって欲しかったのよね、バル」
レイナは、そう言ってバルの頭を撫でていた。
「長く生きておれば、色んな事があるものよ…… 」
そう言ったきり、バルは黙りこんでしまった。
俺が魔力制御の訓練を終えて、メルの国を目指して旅を始めて約1ヶ月後の、ちょっとした出来事である。




