表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/129

007:ログアウト不能

 山裾まで続く深い森と背の低い草が生い茂る草原の境界から30m程離れた場所に、見たところ人の姿は見えない。


 その草原の一角に、注意深く見ると何やら空間の小さな歪みのようなものが見受けられた。

 それは、極注意深く見つめていないと見逃してしまうくらい小さな空間の揺らぎだった。


 その揺らぎに近付いて見ると直径3m四方程度の大きさに、空間がドーム状に歪んでいるのが僅かに見受けられる。

 見受けられると言っても、ごく僅かにドーム形状の輪郭に沿って微かな空間の歪みのようなものが時折見られるとうだけで、普通は気が付かないだろう。


『シオリン、来たよ…』

 メインがメッセージ通信で脳内に直接話しかけると、顔を動かさずにシオリンが答える。


『うん…』


 短くそう言って、細く小さな両手でその大きな両手剣を握り直す可憐な姿を横目で見て俺は思わず自分の脳内でだけ呟く。

 ( MMORPGの女性キャラって何故みんな露出が多いんだろうなあ…まあ嬉しいけど )


 当然、大きく空いた胸元から豊かな乳房の大半が申し訳程度に隠された防具の上からはみ出しているのだ。

 触れそうな程に近い距離に居て、健全な男子であれば其処に目が行かない訳は無い(と思う)。

 そう、これは本能的な行為であって、意識しても防げない自然な視線の瞬間的な移動なのだ。


『何見てんのよ!』


 不意にシオリンが、こちらを向いて不満そうに口を小さく尖らせる。

 ヤバヤバです、俺狼狽えまくりです。


『ほ、ほら急に動くと気配に気付かれちゃうって』


 そう言って慌ててメインは目線を逸らすと、森の入り口から周囲を警戒するように辺りを見回しながら近づいてくる河馬に似た巨大なモンスター「ガルバル」の親子を指さし、小さく息を漏らす。


( ほんと、女性って体を見られてるって事に関しては超絶的に感が鋭いよなぁ、ヤバイヤバイ…… )


 二人が隠れているのはゲーム内で俗に「光学迷彩結界」と呼ばれる隠遁結界スキルで、大元は肉体防御力の弱い支援職と魔法職専用のイベント取得スキルである防御結界と言う物があり、そのレベルを上げた先に取得できる上位スキルである。


 そしてこれは、ある有名アニメ作品とのコラボ企画イベントの際に専用パッケージを購入すると難易度の高いイベントをクリアしなくても手に入れる事も出来る有料のスキルでもあった。

 勿論、俺がイベントでそれを取得したのは言うまでも無い。


 その性能は、中に居るにキャラクター以外の背景を透過する事で背景そのものと同化するので、見た目では存在をほぼ消すことが出来る。


 元になった隠遁結界スキルが敵に見つかりにくいと言うだけだったに対して、これはゲーム中の第三者からも見えなくなるという、強力な視覚効果を付け加えた物であった。


 しかし、それでも結界に生じる光の透過が僅かに不安定となる味付けがされており、時折揺らぎにも似た輪郭や背景のの歪みが小さく生じるので、勘が良い者には違和感を感じるように出来ている。


 一度展開すれMPの追加消費が無い通常の隠遁結界に比べると、発動した後も一定時間毎にMPを消費する設定のために、MPに余裕のある職業であっても使い勝手は良くない。

 要は、便利すぎないようにバランス調整がされているのである。


 緊急時のパーティ立て直しだけで無く待ち伏せや奇襲にも便利であり、直接戦闘を主とする接近職などからは、例え短時間でも敵に忍び寄るのに便利な為に垂涎の的となっていて、未取得者からクレームの出たスキルでもある。


 しかし光学的な誤魔化しだけでは、熱を感知する器官のあるモンスターには気が付かれてしまうが、今日の獲物はそんな器官は付いていないので安心して隠れていられる。


 これが自分だけであれば光学迷彩を身に纏って移動することも出来るが、今はシオリンと一緒なので固定設置型の結界として使っているという状況と思って欲しい。


 この結界は空気を通すので、時折吹く風がシオリンの髪の毛を小さく揺らす…

 彼女の側に居るだけで何か胸が熱くなるような、幸せで脳内が満たされるような不思議な気持ちになるが、シオリンは今この時をどう感じているのだろう…


『行くわよ…』

 その時、シオリンの声がメインである俺の脳内に囁いた。


 思わず妄想から我に返った俺だったが、こんな集中力の無さでは支援職として失格だなと自嘲気味に笑って、あらためてシオリンへの支援スキルを準備した。

 予想より長く結界を維持していたが魔力と詠唱時間に特化した俺のMP量に問題は無い。

 今日の俺の装備は防御力と共にMP回復力増強にも主点を置いた装備でもあるのだ。


「今だ!」


 ガルバルが目の前を通り過ぎようとしたその瞬間に俺は結界を解除し、身体能力増強ブレス加速スピードアップのスキルをシオリンに続けて掛ける。


 それと同時にシオリンが下半身にMPを集中させると、スタートの反動で豊かな乳房をプルンと大きく反動で揺らしながらも、大剣を横手に持ってダッシュスキルを使い瞬時に俺の横から消えた。


 遅れて自分にも同じスキルを掛けながら駆け出すが、臆病な親ガルバルはすでに反転して逃げようとしているのが見える。


 すかさず速度低下のスキルを親ガルバルに発動すると5秒間だけ親ガルバルの動きが緩慢になった。

 

 それは親ガルバルにとって致命的な遅れとなり、斬!と空気を切り裂いてシオリンの大剣が首に致命傷を負わせる。

 見れば子供ガルバル達は、すでに森の中に逃げ込んで行く処だった。


 親ガルバルが光の粒子となって消え去った跡には2m四方程度のガルバルの皮と、青いアクアマリンのような色をした野球のボール大の[ガルバルの涙]が残されていた。


 ガルバルの皮は堅く火属性への耐性が30%増加する為、防具の材料にする者が多く、高く売れる。

 しかし、臆病で用心深く逃げ足も速いため中々狩り場に出てこないので、強さとは別の意味でゲットするのがレアなアイテムでもある。


 しかし、シオリンの目的は[ガルバルの涙]の方なので、皮は俺がもらう事になっている。

 後ほど生産職にジョブチェンジした時に、このガルバルの革でシオリンの装備に似合う色彩のマントを造ってプレゼントしようと思っているのだ。

 何故なら、彼女の露出の多い姿を例えアバターと言えども、他の男どもには見せたくないのだが、この気持ちを判って貰えるだろうか?


「ありがとう、これで必要なアイテムは全部揃っちゃった」

 そう嬉しそうに言うシオリンを見ると俺も満足だ。


「このまま、ゲフェルニアへ移動してアイテムを作って貰うなら、付き合うよ」

 そう誘って見るが、シオリンは残念そうに答えた。


「本当は一気にそうしたい処なんだけど、母さんが頑張ってるから帰って夕食の支度をしないとね… 」

 下を向いて紫織、いやシオリンは残念そうに言った。


「だから、これからスーパーにも寄って買い物してって考えると、そろそろ戻らないと間に合わなくなるかもなんだよね」

そう言葉を続けるシオリンの事情は俺も判っているから、無理に引き止めることはしない。


 名残惜しそうなシオリンに微笑みながら、最近彼女の母親が知人の紹介で比較的大きな会社に転職して働き始めたと言っていたのを思い出した。


「そう言えば、働き次第で正社員になれるかもって言ってたね。」

 俺は紫織が必要以上に気を遣わないで済むように、そう言った。

 彼女が今優先するべき事は、ゲームでは無いのだから……


「うん、上司の人が色々良くしてくれて、その上渋くて凄い良い男なんだって」

 そう言って母親が惚気のろけるんだよと意味深に笑って見せる紫織。


「じゃあ、また明日付き合うね。 疲れて帰ってくるお母さんに暖かいご飯を作ってあげるのがシオリンの仕事だって、前に言ってたもんね。」

 まるで紫織が抜けることを気にしていないように、シオリンのログアウトをさり気なく促す俺。


「じゃあ、一緒にログアウトして帰ろうか」

 シオリンにクリーンナップの魔法を掛けて、ガルバルの血と潰した草の汁で汚れた装備と体を綺麗にすると、[ワープポータル]の魔方陣を地面に発動させる。


 レベルがカンスト(設定上限に到達)している今の俺にとっては、ゲームに接する時間よりも紫織との時間の方が、誰よりも何よりも大事なのは当然なのだ。


「ありがとう、先に行って待ってるね」


 その転移魔方陣の中心部に乗ると、光の奔流と共に吸い込まれるように消えるシオリン。

 それを見送ってから、続いて俺も発動時間の残り少なくなった転移魔方陣の中心に足を踏み込んでシオリンの後を追う。


 プロメテリアの南門付近にある宿屋の前に、シオリンと俺は転移した。


 狩り場でログアウトすると、次にログオンした時にモンスターに囲まれていたなんて事もあるので、特別な事情が無い限りは街に戻ってログアウトするのが基本なのだ。


 その場でいつものように一緒に帰る事を約束して、シオリンは俺をしばらく見つめている。


「…じゃあ、先に落ちるね」


 そう言って眩しそうに目を細めて微笑みながら小さく手を振ると、効果音と共に光の粒となって消え去りログアウトしてゆく。


 その可愛い仕草に現実の紫織を重ねて俺は一瞬目眩がしたような感覚に囚われたが、慌てて紫織を追いかけてログアウトするために視界内にコントロールパネルの画面を呼び出した。

 そして、俺は選択できるメニューの中からログアウトの項目を探していつものように終了しようとしたのだが……


「ちょっ、嘘だろ洒落になんねぇーつーの、このタイミングでログアウトメニューが無いとか、ふざけんな!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングタグを設置しました
「良かったよ」と思ってくれた方は、下記のリンクから投票してくれると嬉しいです

ファンタジー部門
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ