078:悪夢の5人パーティ
教団本部の中央部から更に地下深い場所にあるダイクーア神の神殿は、その高い天井を実現するために、地上からは地下五階分程下にある。
神殿が地上に無いのは、ダイクーア神が生と死を司ると教団内では言われている事によるのだと、教団のWEBサイトには書かれていた。
胎内である闇から人は生まれ、日の光の中で堕落し再び死す時に闇に還ると言うのが、教祖独自の思想であり教義らしい。
人々を堕落させる日の光を嫌う事が、その神殿を地下に作る理由と言われている。
大きな室内競技場ほどの広さと高さがある神殿には、奥の壁に巨大なダイクーアの紋章が壁に刻まれている。
その前には黒い大きな翼を広げ、掌を上に向けて両手を腰の高さで左右に広げた、異形の巨大な神の像が置かれていた。
その神は人の顔を持ち、蛇のように周囲に向けて波打つ髪の毛をうねらせて、頭には二本の長い角が生えていた。
そして、その大きな口からは、大きな牙がはみ出している。
それはまるで、現代日本の感覚で言えば魔物か悪魔のような異形の神像だった。
恐らく多くの信徒が集まるのだろう。
規則正しく床に設置された多数の座席が並んでいる神殿の奥に、異形の神像が立つその下に、ウルガスは居た。
横に居るのは、先ほど呼び出されて出て行った幹部らしき男だ。
何かの報告を聞いているのか、何やら耳打ちをされている。
彼の周囲には、護衛をするように取り囲む5人の男女が居た。
いや、その男女は護衛と言うには時代錯誤な格好をしているように見える。
現実世界だから時代錯誤だと表現をしたけれど、それは俺にとって少しばかり馴染みの深い格好だった。
そう、彼らのうち大柄な男二人は、銀色に輝く金属の鎧を身につけて剣を持っていた。
片方の30代らしい小柄な男は両手剣を、もう一人の40代っぽい太ったオジサンは片手剣の他に盾も持っていて、二人でウルガスの両脇に立っている。
向かって右が両手剣、左が片手剣だ。
その後ろには同じようなロッドを持つ男女が居た。
片方は白い聖衣の小柄な女性だ。
だけど、どう見ても40代後半くらいの美しくない、中年の小太りオバさんにしか見えない。
もう一人は、白い聖衣のオバさんとは正反対な黒い衣装に黒マントを羽織っている、痩せた不健康そうな年齢不詳の男だ。
そいつは、枯れ木のような血色の悪い顔をしていた。
少し離れた場所に、弓を持った軽装の中年女性が居る。
それは、どう見ても質の悪いロールプレイングゲームのコスプレをした、中年から初老の5人パーティだった。
悪夢のような、現実世界で見たら笑える格好をした集団の一人、枯れ木のような魔法使いが、見えないはずの俺の方を一瞥してからウルガスに耳打ちをした。
それを聞いて頷くウルガス、何やら指示をするような仕草が見える。
いきなり! 弓手の中年女性が、俺の居る場所へと正確に矢を射てきた。
隠遁結界で見えないはずなのに!
カツンッ!と固い音を立てて、防御結界に進路を遮られた矢が床に落ちる。
そして有り得ない事に、矢が当たると同時に俺の張った防御結界が、モニターに映る画面の不具合のように一瞬だけ揺らいだ。
有り得ない事だが、防御結界を相殺する力が働いた事になる。
これはスキルを使った矢の攻撃なのか、彼奴らもゲームのスキルが使えると言うのか?
どう言うことだ、奴らには俺の位置が見えているのか?
無意識に腰を落として座席の陰からウルガスの様子を伺う。
しかし今のは只の威嚇攻撃だったようで、続く矢も魔法も無かった。
「待っていたよ、和也くん」
突然、ウルガスにそう呼びかけられた。
やはり、これは罠だったって事だと言う事だったらしい。
行方不明だったウルガスの行動予定が教団のホームページ掲載され、他の幹部達も同じ日に集まるなんて都合が良すぎるとは思って居た。
だけど…… このチャンスを逃したくなくて、俺はその予感を無視してしまった。
イオ爺は決着が着くまで異世界転移を待ってくれると言ってくれたが、俺の方が勝手に焦っていたようだ。
もし彼奴らが俺と同じようにゲームと同じスキルを使えるのなら、5人パーティ対魔法使い1人は絶対的にヤバイ。
その場合は、よほど美味く立ち回らなければ、まず勝てる見込みは無いだろう。
先手必勝で、敵のスキル攻撃を受ける覚悟でウルガスを先に叩くべきか。
それとも、俺の防御結界を信じて敵の出方を見るべきか……
俺はどう動くべきなのか、迷っていた。
物理防御結界はゲームで特別措置として手に入れたスキルだ。
モンスターの物理攻撃は防御するが、同じプレイヤーのスキルを使った攻撃のダメージによって、その防御力は削られる。
魔法防御結界も同じように、スキル攻撃はその攻撃に費やした魔力量で防壁が相殺されるから、彼我に余程のレベル差が無ければスキルで相殺されて無効化されるのだ。
いや、例えレベル差が有ってもスキルによる連続飽和攻撃を受ければ、展開に費やした魔力以上の防御力は維持できない。
今までは単純な物理的パワーによる襲撃を受けていただけだったので、例え銃や大砲で撃たれても結界が崩壊する理由が無かっただけなのだ。
俺が生き残る鍵は、今まで必要を感じていなかったエネルギーコーティングだけなのかもしれない。
エネルギーコーティングは物理・魔法それぞれの防御結界と違って、物理・スキルに関わらず全ての攻撃を、自分の魔力を消費する事で相殺する。
紙装甲と揶揄されるように、防御力が高い装備を身に付けられないようなバランス調整を施された、そんな魔法使いだけに許された防御スキルなのだ。
その代わり、エネルギーコーティングはリスクも併せ持つ。
ゲームの設定では、攻撃1回を相殺するにつき全MPの10%をロストするという、諸刃の剣でもあるのだ。
そしてエネルギーコーティングを維持する最低使用MPは5だ。
攻撃を受け続けて為す術も無くMPが減って行けば、やがてはMPが5以下になり攻撃を相殺できない時が来る。
使用MP値が実数ではなく%なのが落とし穴で、どんなにMP全体量が高くても残量の10%で消費されてしまえば、1回当たりの消費MPが高くなるだけで、MP量の大きさで防御回数はそれほど大きく変わらない。
もっともゲームと違って自身のMP値が判らないリアルの世界では、自分がどれだけの回数を防御する事が出来るのか計算する事は出来ない。
「君は様々な宗教が渦巻き、そして乱れ、争いの絶えないこの腐りきった世界を変えたいとは思わないかね?」
ウルガスが俺に向かってなのだろう、何か語り始めたが俺の返事を待つ気は更々無いようで、一人で勝手に喋っている。
「この世の中が、こんなに不平等で争いに満ち溢れているのは本当に信じるべき本当の神が存在しないからなのではないかな。 この日本という国では神の存在を信じない者まで多く居るという、実に嘆かわしい状況にまでなっているではないか」
こいつの言っている神が一神教であるのなら、きっとその通りだろう。
俺だって、唯一絶対の神なんて信じては居ない。
だけど、初詣には行くし、初日の出にだって手を合わせたりもする。
元々多神教の日本人に一神教の神が馴染まないのは当然だし、それを称して神の存在を信じないというのは、無理がある。
ウルガスは、尚も語り続ける。
俺以外に、誰に聞かせようとしているのか、一際声が大きくなった。
「そして世界には人々を誤った道に導こうとする、邪悪な神と称するものを崇める邪教が満ち溢れている。 私はね、そんな世界を一度リセットすべきだと考えているのだよ。 そう和也君達のような物理法則を超えた力を持つ、偉大なるダイクーア神様の強力なる使徒達の力によってね」
何を言ってるのか良く解らないが、一つだけウルガスが狂信者だと言う事は判った。
こいつは、間違い無く頭がおかしい。
それだけは確実に言える。
こんな奴に、俺の家族は殺されたのかと思うと、何ともやり切れない……
それだけならまだ迷惑な存在で済むが、厄介な事にこいつは狂った思い付きを実行する権力も財力も持っていやがる。
みんなが同じ物を信じて疑う事もせず、同じ方向を向いて同じ事をする社会なんて気味が悪い。
そんな世界は糞食らえだ!
矛盾に満ち溢れていても、様々な人が様々な事を思い生きている世界に俺は生きていたいと思う。
俺は俺の考えが、万人に共感して貰える素晴らしい考えだとは思う程に不遜では無いつもりだ。
それでも俺は自分で考え、そして自分で行動して、例え失敗したとしても人に与えられた物じゃない自分の人生を生きて行きたい。
「君はどう思うのだい? 君を拒否し、家族を酷い目に遭わせ、君から大事な家族を奪ったこの世界…」
ウルガスの垂れ流す戯言は、次にどうすべきかを考える時間稼ぎに都合が良いと思って、好きに喋らせておいただけだ。
だけど、この言葉だけは聞き流せない。
「全部、お前がやらせたんじゃないか!」
俺は熱光学迷彩結界を解いて立ち上がる。
そして、ウルガスに右手の人指し指を突きつけて叫んだ。
ようやく俺の姿を目視できて、してやったりとばかりにニヤリとウルガスが笑う。
「ほう、私がやらせたなどと、とんでもない事を言うんだね君は」
相変わらず、この件については白を切るつもりらしい。
こっちとしても、そう簡単に白状するとは思っても居ないけど、やはり腹が立つ。
「何と言い逃れようとも、お前を許すつもりは無い。 俺をゲームに閉じ込めた森多も、親父を殺させた耶麻元も、美緒を自殺に見せかけて殺した比路瀬も、みんな同じ目に遭わせてやったぞ!。」
俺は、一呼吸置いて言い切った。
残す復讐相手は、そう、俺の目の前に居る。
「次はお前だ、ウルガス!」
ウルガスと呼ぶ俺の言葉を聞いて、あくまで白々しく笑っていたウルガスの表情が、一瞬変わったように見えた。
「ほぉ、その名前を何処で聞いたのか、とても興味があるね。 後でゆっくりと聞かせて貰う事にしよう」
そう笑いながら言うと、ウルガスは話を途中で切り上げて、元ゲームプレイヤーだったであろう者達を前に出す。
そして、自らは彼らの後ろに下がった。
「今までの情報を総合すると、君に現代の物理的な攻撃は意味を為さないようだが、魔力を伴ったゲームスキル攻撃はどうだろうね」
「紹介しよう、彼らこそが君と同様にゲームからログアウトせずにやり続ける事で、偉大なるダイクーア神様のご加護を得た貴重なる戦士達の中でも、特に信仰心の厚い者達だ」
俺と同じようにゲームに閉じ込められた戦士達だと…
その言葉を聞いて、動きだそうとしていた俺の体は一瞬フリーズした。
俺は彼らの防具に描かれた、ダイクーアの紋章を見て思い出した。
あのエクソーダス結成の契機となった、悪党パーティの5人組も同じ紋章を付けて、同じ男女構成だった事に……
あの、美少年・美少女揃いのパーティの実態は、この中年オヤジとオバさんたちだったのかと思うと、なんとも言えない気分になる。
そう考えると、エクソーダスの女性陣は若くて美人揃いだ。
男は、まあ俺も含めて見た目はそれなりだが、こいつらには負けていない!
なんだか不思議なことに、俺はそれだけで勝ったような気になってしまった。
それは当然大きな間違いなのだが、そう思えてしまったのだ。
ウルガスが言い終えると同時に、剣を持った二人の戦士が俺に向かって、ダッシュのスキルを使って高速で向かってきた。
いい歳をしてダッシュなんて使ったら、心臓麻痺を起こすんじゃ無いかと、俺は余計な心配をしてしまう。
だけどスキルの効果は素晴らしく有効で、2人は息を切らす事も無く間近まで迫って来た。
二人の戦士が走ってくる途中で、何かに集中していた神官が速度増加スキルを一人ずつ掛けて行く。
それを見て俺は思った、神官のスキルが無詠唱じゃ無い!と。
このパーティと戦う中で、彼らがスキルを使うのに詠唱が必要ならば、俺にも戦い方次第で勝ち目がある。
ステータスを補助するアクセサリーなどの魔道具が存在しないリアル世界では、俺の無詠唱というのが常識外れなのだ。
しかし、彼らがスキルを使うのに詠唱時間が必要ならば、スキルの効果時間を考えて、ウルガスが喋っている間にブーストスキルは掛けておくべだった。
例え短い時間でも詠唱時間があるのなら、スキルは全員同時に掛ける事はできないのだから、その段取りの悪さは長期戦になった場合に致命的である。
こいつらは、真面目にゲームをやり込んでいたとは思えない程、プレイヤースキルが甘いのではないか?
魔法使いにしても、事前に詠唱を終えておいて攻撃開始の合図を待つべきなのだ。
そうでなければ、戦士達のアタックと同時に牽制の援護攻撃もできず、剣士達のアタックリスクを増やすだけだ。
もちろん、俺はウルガスが無駄話をしている間にブーストスキルも掛け終わっているし、防御スキルもエナジーコーティングも掛け直している。
しかも、話し終わるまでの間に使ったMPの回復だって、ゲームと同じ仕様なら出来ている事になる。
スキル攻撃に備えて、俺は魔法・物理の防御結界を念入りに、それぞれを5重に床へ設置した。
魔法防御を外側に、その内側に物理防御を張り、その順番で交互にそれぞれを5枚ずつ張る事で、攻撃のスキル分を最初に相殺し残った物理攻撃をその次の物理防壁で受ける算段である。
床へ防御結界を設置したのは、アームドスーツとの戦いで体に纏うタイプの結界は体ごと吹っ飛ばされる事で、脳や内臓への衝撃までは緩和できない事が判ったからである。
床に設置する固定タイプの結界により、敵の初撃をあえて受けるリスクは有るが、どの程度の魔力による攻撃なのか、何枚の防壁を破ってくるのか、それを最初に知っておきたかったので過剰とも言える5枚ずつの障壁設置をしたという訳である。
枯れ木の魔法使いと小太りの弓手にも牽制のスキルを撃っておきたかったが、それを許さなかったのは二人の中年剣士の動きが予想外に速かったからで、完全にその点は俺のミスだ。
ウルガスの言葉を最後まで聞かずに、MPが回復した時点で問答無用の攻撃を仕掛けて、俺のペースに持ち込むべきだった。
だけどこの期に及んで、どうしても直接の恨みが無い5人組に無慈悲な攻撃を仕掛ける事に、僅かな抵抗があったのだ。
急接近する二人の中年剣士に石化スキルを仕掛けるが、効かなかった。
やはりゲーム内でのレベルが高く、体力値も状態異常への抵抗値も高いのだろう。
無関係の人は殺したくないという消極的な俺の弱気が、逆に俺を窮地に陥れていた。
レイ婆ちゃんに見られたら、また説教をされてしまうのは間違いがない。
俺は自ら招いた窮地に焦って、彼らの速度を緩めようと沼地を召喚しようとするが、彼らの素早い動きに対して僅かに間に合わなかった。
そして、最初のアタックが来た。
最初の攻撃は剣ではなく、枯れ木魔法使いの魔法攻撃だった。
ドドドドドドドドドドンッ!と、火炎連弾の10連発が防御結界に突き刺さる。
それで、掛けておいた魔法障壁が1枚削られた。
枯れ木男の魔法攻撃力は、俺の想定よりも弱いようだ。
そこに剣技スキルの『スラッシュ』と『ブレイク』なのだろう、ほぼ同時に剣が一閃すると、同じ箇所に続けて攻撃が叩き込まれた。
それなりに、見事な連携だ。
魔法防壁は更に1枚相殺されて消え、物理防壁が1枚消える。
こいつらの攻撃力は、思ったよりも強かった。
魔法使いの魔力は、イオ爺が言うように魔素の無いこの世界では、自前の魔力に左右されるのだろう。
それほどの威力では無いようだ。
しかし、剣士の剣技はヤバイ!
二人の同時に放った一撃で、魔法と物理の防壁が1枚ずつ相殺されていた。
魔法防壁は最初の火炎連弾でダメージを受けていたと考えられるので、1枚の損傷ならば剣技スキルによるダメージはたいした事は無いと考えられる。
だけど剣士たちの物理攻撃力は、相当のものがあると考えるべきだろう。
俺は、ゲームイベントで行われた数少ない対人戦の記憶を呼び起こしてみた。
被ダメージの具合から換算して、こいつらの攻撃力はカンストレベルとまでは行かないまでも、それなりに高い。
幸いなのは、エクソーダスのメンバーが言っていたように、魔力そのものがゲームの時よりも高くない事だ。
ただ一人、俺の魔力量は例外だったけどな。
やはりこのリアル世界では、例え覚醒したとしても、その魔力値は高くないのだろう。
そう考えると、異世界人の血を引く俺の魔力値が、恐らくリアル世界では異常なのだ。
続けて、嫌らしいタイミングで放たれた矢が、防壁を少しずつ削ってくる。
更に防壁を追加して攻撃に転じようとするが、剣士達の連撃が止まらない。
誘うように、防壁の外へと動いた俺に、矢の雨がシャワーのように降り注ぐ。
アローシャワーと言う、弓手の範囲攻撃スキルだ。
俺は上空の空気を、高速で回転させた。
同時に、剣士達の足下に火炎防壁を立ち上げる。
降り注ぐ無数の矢は、高速回転する空気の渦に巻き込まれて四散していった。
2人の剣士も、突如出現した火炎防壁に弾き飛ばされて、後方にある机や椅子を巻き込んで吹っ飛んでゆく。
そこを目がけて、俺の放ったコールドボルトが突き刺さる。
次の瞬間、俺が放った物では無い火炎防壁が2人の剣士を守るように立ち塞がった。
水に焼けた金属を突っ込んだような、そんな連続音が鳴り響き、コールドボルトは相殺されて消える。
当然のように敵の火炎防壁も、俺のコールドボルトが突き刺さった場所だけ消えて隙間が出来ていた。
俺は水で出来た8体の大蛇、『八岐大蛇』を発動して剣士達が倒れて居る場所へと、叩き込む。
相手の倒れている処へ、水属性の大蛇が口を開けて喰らいつく直前で、3体の火炎龍が床から飛び出して迎撃された。
3体が蒸散させられて、大量の水蒸気がその場に発生する。
火炎龍も相殺されて消えていた。
残る5体の水大蛇を魔法使いの方へと飛ばす。
しかしそれは、放たれた属性矢の直撃を受けて霧散した。
魔力はこちらの方が上のようだが、複数を相手にする事で、その実力差を削られてしまっている。
魔法職である自分にとって厄介なのは、接近職である剣士2人だ。
だけど、本当に厄介なのは、支援職と魔法職の2人に間違い無い。
そして地味に弓手の攻撃が痛い。
ダメージを受ける事を覚悟で、セオリー通り支援職と魔法職を倒すべきだろう。
ギリギリのタイミングとは言え、奴らの詠唱も迎撃に間に合う程度には短いようだ。
辺りに立ちこめる霧を晴らす為に、俺は周囲の物を切り刻む『斬撃波』を左右から2つ投げつけた。
『斬撃波』の巻き起こす旋風によって、立ちこめていた霧が晴れてゆく。
次の瞬間、いきなり霧の動きがスローモーションに切り替わった。
晴れてゆく霧の中から、俺を挟み撃ちにするように、剣士2人が左右から突っ込んできていた。
俺の危険察知スキルは、この部屋に入った最初からずっと反応しっぱなしで、こんな状況では役には立たない。
ガツンッ!と言う重い衝撃によって体が後ろの壁に叩きつけられ、魔力が一気に減るのを感じた。
見えている映像はゆっくりだが、俺の動きもその分重いのだ。
ブーストスキルのお陰で、ギリギリ後ろに飛び退くことには成功していた。
しかし両手剣による打撃が、避ける俺の胴を横殴りに直撃していたのは間違いが無い。
ついに纏っていた障壁がすべて破られて。エナジーコーティングだけになったようだ。
打撃を受けた瞬間に魔力が減った感覚で、俺はそれを理解した。
後何回耐えられるか解らないが、耐えられるうちに不利な状況をひっくり返す手を打たなければ…
俺は、叩きつけられた壁から起き上がりながら、そう考えていた。
魔法の威力自体が強い物では無いとしても、魔力を組み込んだ物理攻撃は今まで以上に俺を追い詰めている。
とにかく飛び道具を先に何とかしないと、いくら無詠唱とは言えども集中できなければ、有効なスキルは使えない。
俺の目の前の世界は、防御スキルの『見切り』が発動して、スローモーションに切り替わっている。
しかし、一旦受けに回ってしまうと、連続する複数からの攻撃に対して、ひたすら回避するしかないのが悔しい。
ガツガツと弓が炸裂したかと思えば剣が俺の体を吹き飛ばし、時折魔法が直撃する。
唯一の救いは、魔法に詠唱が必要な為に、連続して魔法攻撃を受けないで済む事だろうか…
それでも、避けきれずに俺のMPがガンガン減っていくのが解る。
なんとか、この窮地を打開しなければと、俺は焦っていた。




