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077:荒れ狂う雪嵐

 その日、爺ちゃん達は荷物の整理をしていて、メルはレイ婆の荷造りを手伝っていた。

 修蔵爺ちゃんは、山仕事に出るらしく山刀を手入れしている。

 千絵婆ちゃんは洗濯をしていた。


「じゃ、終わらせてくるよ」


 ことさら大事では無いと言うように、俺は短くそれだけ言って外に出ようとした。

 そんな俺に、イオ爺が何か小さな袋のような物を投げて寄越す。


「念のために、持って行くのじゃ」


 それは、俺が魔力をチャージした魔石を入れた小さな袋だった。

 中を見ると、見慣れた魔石がいくつも入っている。


「よもやお前が魔力切れになるとは思わんが、魔法の無駄撃ちはするでないぞ」

「相手にトドメを刺すまでは油断しては駄目よ、勝ったと思った時が一番危ないの」


「熱くなるなよ和也、冷静にな」

「和也兄ちゃんが帰って来るのを、待ってるよ」


 みんなが、俺に言葉を投げかけて来た。


 イオ爺は下を向いて、異世界へと持って行く様々な現代の専門書をダンボール箱に詰め始めている。

 レイ婆はにこやかに笑いながら、修蔵爺ちゃんは山刀を研ぎながら、メルは異世界で使う予定の弓を射る真似をしながら、それぞれが、それぞれに俺を心配してくれている。


 こんな事で、安っぽく死亡フラグが立つなんて心配はしていない。

 俺は必ずウルガスを倒して、みんなと一緒に異世界へ行くんだ。


 そう心に誓って玄関を出る。


 いつものように熱光学迷彩結界を纏って物理結界を張り、念のために魔力の消費と引き替えに絶対防御を誇るエネルギーコーティングを、防御結界の下に重ね掛けしてから、ダイクーア教団本部にマーキングしてある会議室の一つへとテレポートした。



 教団本部に複数あるミーティングルームの一つ、そこが俺のテレポートしてきた先だ。

 教団本部自体には何度か潜入していて、この部屋の隅に転移先の登録をしてあった。


 広い部屋の中では、幹部たちが集まって雑談めいた会議をしていた。


「しかし、あの偉緒那とか言う老人と玲衣那とか言う老夫婦がですよ、熊3頭を一瞬で切り倒すなんて本当だとしたら人間業じゃありませんよ」


「そうですよ、飢えさせて凶暴になっている3頭が秒殺なんて、普通じゃ有り得ませんよ」

 必死で一人の幹部が失敗の弁解をしているのだが、誰にも信用されていないようだった。

 

「しかしな、派遣した者達が全員首を切られて殺されていた事を考えれば、別の何者かの関与がある可能性は捨てきれないぞ」

「別の何者かと言えば、最近発覚した公安のスパイの事ですか?」


「うちは何かと目立っているからマークもされるだろうが、公安が問答無用で首を切るような乱暴な真似はしないだろう。 ところでその処分はどうなった?」


「はい、自殺に見せかけて死んでもらうのは教団うち十八番おはこですからね、近日中には…」

「その件は、お任せしましょう」


 会話を聞く限りでは、こいつらはイオ爺とレイ婆を狙って返り討ちにあったというような話をしていた。

 こいつらは親父と美緒だけじゃなくて、イオ爺たちも俺から奪おうとしていたのか…


 それにしても熊が3頭だなんて、あの日の夕食の肉とバーベキューで出た謎の味噌漬け肉の正体が判って驚いた。

 その肉の量の多さの理由には納得したが、3頭じゃ村中に分けても食べきれる訳も無い。


 あの人達こそ、この世界の人間から見たら規格外だよな、そう俺は独り呟いた。


「ここで失敗してしまえば、父親と妹を浄化した意味が無いではないか、馬鹿者が!」

 幹部はそう言って激怒しているが、俺はそれを聞いて殺意を抑えるのに苦労した。

 そして、心の中でこう呟いた。


(お前もキッチリ浄化してやるから、覚悟しておけよ…)


「しかし、大幹部3名が変死してから初ですね、こうして本部に集まるのも…」

「瓜生様が出ていらっしゃれば、我々だけが隠れている訳にもいきませんよ」


 そんな喧噪の中、ガチャリとノックもせずにドアが開き、白い僧衣を着た幹部の一人が、部下を叱責していた上席らしい男を呼びに来た。

 

伊島琉いしる様、例の者が到着致しました」

「うむ、処置は済ませてあるだろうな」


 伊島琉いしると呼ばれた幹部は、ドアを開けて呼びに来た男にそう問い掛けた。

「はい、ご指示の通りに…」


 それを聞いてニヤリと笑った伊島琉いしるという幹部は、神殿に行って教祖様に報告してくると言うと、呼びに来た男と一緒に部屋を慌ただしく出て行った。

 後に残された5名の男達は、あからさまにホッとした表情を見せている。


「処置って、あれか?」

「あれだろうなあ、えげつないよなぁ」


「でも、あれって本当に効くのか?」

「それはもう…首をれと言われれば素直に…」


「でも、体は指示に従うけど本人の意思はあるんだろ?」

「ああ、体は自分の自由にはならないが、意思だけはあるな」


「あの美緒とか言う小娘の時も、なまじ意思があるもんだから、言う事を聞かない自分の体に涙を流してな。 嫌だ嫌だって言いながらも、首をロープに…」


 刹那、身振り手振りで下卑た顔をして得意げに話していた男の頭が、熟れたトマトが地面に落ちたように一瞬で弾け飛んだ。


 飛び散った真っ赤な肉塊を浴びた周囲の男達は何が起きたのか理解できずに茫然としている。

 頭を突然失ったその男は、石榴が弾けたような顎から上の部分の断面を、残りの者達の眼前に晒していた。


 先程まで饒舌に話していた男は、静かにゆっくりと、そしてあたかも棒が倒れるように無抵抗で、ドンと音をさせて固い化粧合板張りの床に倒れ伏した。


「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」


 それを切っ掛けに、周囲の男達は自分に降りかかった物が何で有るのか突然理解したように恐慌に陥って叫び出す。


「ひぃいいぃぃぃぃ!」

「うぎゃぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ひぃひぃえぇぇぇぇぇぇああぁぁあ!」


 阿鼻叫喚とは、このような情景を言うのだろうか。

 俺は熱光学迷彩結界を解いて姿を現す。


 腰を抜かして立ち上がれずに、突然死体になってしまった仲間から少しでも離れようと藻掻いている見苦しい男達に向けて、俺は無言でスキルを発動させた。


 範囲魔法は単体魔法に比べて魔力の消費が大きいが、俺の家族に手を出した奴らに容赦をする気は無い。

 突如男達を巻き込んで発動した大きな魔方陣は、極低温の猛吹雪と身を切り裂く突風を、その場に出現させた。


 猛吹雪に包まれた男達は、瞬時に凍り付く。


 凍り付いた男達は、次に荒れ狂う突風に巻き込まれて互いが激突し合い、その身を覆った氷が砕けると、また凍り付き砕け散る。

 そんな事を繰り返して、最後には真っ赤な粉々の氷の粒になって行った。


 俺が発動させたのは氷属性の上級範囲魔法『極冷氷牙滅却ハイパーブリザード』。


 その発動範囲の中にあるもの全てを絶対零度で凍り付かせて、荒れ狂う雪嵐と氷の礫により、互いに激突し再び凍り付く事を繰り返しながら、蓄積してゆくダメージによって、最後は小さな氷の破片となって砕け散る。

 ゲームの中でも火属性相手に多用していた高ダメージが期待できる範囲魔法だった。


 部屋の中だったので効果範囲を通常よりも狭めて使ったが、その効果時間を終えて跡に残ったのは無数の赤い氷片だけだった。


 俺は、その一つを足で踏みつぶして粉々にすると部屋を出て幹部を追う事にした。

 やつが行く先は教祖の居る神殿と言っていた。


 まだ行方を眩ましていた教祖には会えていないが、すでに連日の潜入で建物の間取りは凡そ判っている。

 俺は再び熱光学迷彩結界を纏うと、記憶を頼りに神殿へと急いだ。

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