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068:形勢逆転

 「アーニャ!」

 俺が、そう叫ぼうとした瞬間、悲痛な叫び声が俺の耳を貫いた。


 「アナスタァーシアァァァァァ!」


 地面に倒れ伏した金髪虎刈ティグレノフが叫んでいた。


 「グアアァァァァァァッ、アナスターシアァァァァァァ!」


 僅かに遅れて意識を取り戻した灰色の髪をした痩せたヴォルコフも殴り飛ばされたアーニャに向かって、動く方の手を差し出して聞く者の耳に突き刺さるような悲痛な叫び声を上げていた。


 そこには、アーニャの元に動かなくなった右腕をぶら下げながらも必死に走り寄る灰色髪をしたヴォルコフと言う男がいた。

そして、壊れた足を引きずって近づこうとする虎刈りで金髪のティグレノフもいた。


 どちらも自分に迫り来る大型機械人形アームドスーツの事など気が付いていないかのように必死で、血反吐を吐いて倒れたまま動かないアーニャの元に行こうとしている。


 アーニャに追撃を加えようとしている1体のアームドスーツの前に立ちふさがった灰色の痩せた男は、動かない右腕をそのままに左手を握りしめて下に向けてアーニャの前に立ち塞がり、アームドスーツを威嚇する。


 「ウオォォォォォォォ…グワアァァァァア!」

 灰色の髪をした痩せたヴォルコフが空に向かって叫ぶと男の体毛が見る見るうちに濃くなって体躯も逞しく膨らんで行く。


 毛深かった耳の位置も頭の形状の変化に伴って頭の上へと移動し、その容貌も同様に変化して口には明らかに大きな牙が見えた。

 まるで映画で見た狼男の変身のようだ。


 振り下ろされる丸太のような凶器、それを狼男はよろけながらも左手だけで振るわれた凶器の力を殺すように動いて受け止めると、その巨体とパワーに任せて押しつぶそうとするアームドスーツの力を立ち止まったまま受け止めていた。

 先程とは違う力を相殺させるような動きに、今度は凶器を受け止めた腕が折れたりはしなかった。


 それを視認したのか大型機械人形アームドスーツが一体、最初は虎刈りの男に向かっていたのを取り止めて援護に入ろうとしたのか、灰色狼男ヴォルコフに向かって引き返そうとした足を何かに取られたかのように引きずって動きが鈍くなった。


 その左足に絡みついていたのは足を折られた虎刈りの金髪男ティグレノフだった。


 「ガアァァァァァァァァアアア!」


 その獣じみた叫び声と共に金髪で虎刈りの男の巨体も更に膨れ上がり、服に覆われていない部分を金色と黒の体毛が縞模様に覆ってゆく。

 虎刈りの金髪男ティグレノフは、自身の巨体を虎男に変身させていた。


 足を引き寄せようとする大型機械人形アームドスーツの引き足に逆らわず、その左足に絡みついた虎男。

 大型機械人形アームドスーツの金属装甲の太腿に壊れて動かない足を強引に手で引き寄せて両足で挟み込むと右手の脇で大型機械人形アームドスーツの踵の部分を挟み込み、右手の肘から先を大型機械人形アームドスーツの臑に当たる部分へと下から挿し込んで全身を反り返らせて捻った。


 歩き出そうとしていたバランスを崩されて、前方に頭から倒れ込む足を絡め取られた大型機械人形アームドスーツ


 地面に巨体が倒れ込む衝撃音と共に、ギチチチ、バリブチッ、金属が軋む音と何かがねじ切れる音がして倒れたアームドスーツの足首から下が千切れ掛けて火花を上げている。


 虎男はアームドスーツの巨大な踵を右手で極めたまま全身で足首をめていたのだった。

 大きな足は足首を支点とした巨大なテコに成り代わり、ティグレノフによって捻切られたのだろう。


 そして、同時に大型機械人形アームドスーツが前方に倒れた衝撃も手伝って、金属の外骨格が自らの自重と虎男の関節技で足首を粉砕されたのように見えた。


 片や狼男は、力と巨体の重量でねじ伏せようと上から力のし掛かるようにを加えてくるアームドスーツの丸太のような凶器を左手の金属製の手甲で受け止めていたが、次の瞬間体を捻って懐に飛び込むと、押しつぶそうとして伸ばす方向に力を加えていたアームドスーツの右手を動かせる左手だけで逆関節に捕らえた。


 突然力を掛けていた方向に対象物が居なくなって、掛けていた体重の行き場が無くなりバランスを崩した処を肘関節をめたまま背負い投げのように投げ飛ばすヴォルコフという男。


 掴んでいた機械の手を僅かに引いて大型機械人形アームドスーツを頭から地面に叩きつるようにコントロールすると、そのまま背中から地面に倒れる巨体の反動を利用して掴んだままの腕を引き、腕拉ぎ逆十字固めに持ち込んでその右腕の機械のジョイント部分を変形させていた。


 二人とも、異形に変身した後は凄まじい筋力と体力を俺に見せつけた。


 身内がやられた事が衝撃だったのか、俺に聞こえない無線通信で指示でもあったのか、俺に加わる攻撃が一瞬止み、狼男と虎男の元へとアームドスーツが3体向かって行ったのが見えた。


 俺が激しいダメージを受け続けた脳震盪から回復するのには、その数秒で充分だ!

 俺はアーニャの元へと空間転移して、彼女を中心とした地面に設置型の防御結界を展開した。


 すぐさまアーニャに最大治癒魔法エクストラヒールを掛けると、その効果も確認せずに満身創痍の虎男と狼男に身体能力増強と速度上昇のスキルを最大レベルで掛け、続けて物理防御結界を二人に纏わせる。


 二人に、その場に残っていた1体と増援の3体が迫る。


 俺が二人に治癒スキルを発動しようとした刹那、彼らの元に到達したアームドスーツの丸太のような凶器によって再び彼らは吹き飛ばされて森との境界にある大きな檜の幹に向かって吹っ飛んでしまった。


 しかし、彼らが吹っ飛ばされて空中に居る間に発動した、俺の治癒魔法ヒールで瞬時に彼らは回復していたのだ。

 ヴォルコフとティグレノフの二人は、空中で体操選手のように体を捻って難なく地面に着地した。


 彼らは、自分の身に何が起きたのか当初判っていないようだったが、完全回復した己が体と信じがたいほどにパワーアップしている身体能力と加速スピードアップによって得た、溢れる程の強大な力に少し戸惑っているようだった。


 俺を攻撃していた大型機械人形アームドスーツも、彼らの目の前から転移魔法でアーニャの元に移動して消えた俺をようやく発見したらしく、3体がこちらに向かって来た


 その3体のアームドスーツに相対すべく俺も自らに身体強化ブレス加速スピードアップを掛け、物理防御結界アンチマテリアルを重ねて身に纏う。


 無詠唱の恩恵で準備が瞬時に整った俺は、アーニャの周囲に張った結界から空間転移で離れた場所に飛び出した。


 そこから、灰色狼男ヴォルコフ金髪虎男ティグレノフの二人が装着している手甲に雷属性を付与し、物理硬化を最大レベルで付与した。


 彼らの現在のパワーなら、大型機械人形アームドスーツの装甲板でも破壊する事が出来るだろう。


 アーニャの処に向かって居た大型機械人形アームドスーツは3体のうち胸に小さく紅い何かのマークが描かれている1体がそのままアーニャの元に向かい、残り二体が俺の方に引き返してきた。

 そして、獣人二人に向かった3体のうち1体も俺に向かってくる。


 獣人二人にアームドスーツが2体、アーニャに1体、俺にはご丁寧に4体も割り当てられたようだった。


 どうやら、あの残り7体のどれかに指揮官が搭乗しているらしいが、どう見ても生身でアームドスーツを破壊した獣人の能力を過小評価しているとしか思えない。


 ましてや、今は俺の支援魔法で強化された超強化獣人である。

 それに対して大型機械人形アームドスーツ1体ずつと言うのは、どう考えても無茶な気がする……


 俺は迫ってくる4体の直前に、お得意の沼地召喚で泥沼を作ってやる。


 4体は面白いように泥沼に嵌まって行動速度が極端に落ちる。

 そのパワーが機械仕掛けとは言え、足を取られてしまえば転ばないように動くのがやっとなのだろう


 そして、生み出した僅かな時間に罠を仕掛けアームドスーツの接近を待とうと思った瞬間、 ライフル銃のように構えられた丸太のような凶器から、轟音と共に黒い何かが発射さた。


 瞬時にスローモーションに切り替わる視界の中で、それは閃光と轟音を発して俺の目と耳を一瞬奪った。


 数秒後に超回復スキルで視力と耳が元に戻るが、その時には別のアームドスーツが発射したゴム弾が空中でヒトデのような形に開くと俺の体を包むように数発が直撃して後ろに弾き飛ばされていた。


 「くはっ!、まだまだ甘いか…」


 俺は直撃を喰らった衝撃で再び意識が遠のきそうになるが、堪えてなんとか立ち上がろうとして膝から崩れ落ちる。

 脳へのダメージがまだ回復しきっていないようだ。


 仮に防御スキル無しであれを喰らって身体的ダメージがあったなら、恐らく肋骨の4本や5本は楽に折られそうな強烈な衝撃だった。


 あれは、暴徒鎮圧用のゴム弾とか言う物なのだろうか、それとも俺を捕獲するための特殊なゴム弾なのだろうか。


 防御結界のお陰で表面上の怪我は無いが、内臓を激しくシェイクされて気持ちが悪い。

 俺は僅かに口に戻った胃液を地面に吐いた。

 少しだけ、その泡が混じった胃液には血が混じっていた……


 気が付けば俺がダメージから回復する間に、4体のアームドスーツは召喚した沼地から既に脱出していた。


 速い!、その移動速度はゆっくりとした動きに見えるが3m近い巨体を考えると歩幅が広く速い。

 彼らは走り出すとすぐに俺の直前まで迫っていた。


 そして予め打ち合わせていたかのように、一斉に丸太のような殴打武器を振り上げている。


 あれを喰らい続けるのは防御スキルがあってもマズイ!

 先ほどの、衝撃を喰らい続けて頭が朦朧とした記憶が俺に危険を知らせる。


 いきなり発生した多面攻撃とアーニャたちの負傷で気が動転していたからか、先ほど迄の俺はひたすら防御に追われていた。

 しかし、余りに理不尽な攻撃とアーニャの悲惨な姿ににいささか腹が立っていた。


 「もう、いい加減にしろよ……」


 俺は大型機械人形アームドスーツに強烈な突風をぶつけて動きを阻害しながら、ゆっくりと立ち上がった。


 「お前ら、何度も何度も本当にしつこいんだよ!」


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