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065:紋章の正体

 「うーん、幹部を先に殺ったのは失敗だったかなぁ…」

 俺はPCの前に座ったまま、教団のWEBサイトを覗いていた。


 幹部暗殺以前から教祖の動きはWEBサイトに記載されることが少なかったのだが、あれ以来一切の行動予定や行事予定などの情報から教祖の事が消えてしまったのだ。


 当然と言えば当然なのだが、警戒されている事は間違いが無いだろう。

 元々は教団が仕掛けて来たことなのだから、当然俺が復讐に走った事も承知しているだろう。


 いや、むしろ幹部の死亡が事故ではなく復讐であることを思い知ってもらうために、次は教祖だというメッセージを込めて、彼らには親父や美緒と同じ方法で死んでもらったのだ。



 ダイクーア教団の最高幹部と呼ばれている3名には、奴らが俺と俺の家族にやったのと同じ方法で相応の死に方をしてもらった。

 そのやり方は人間ひととして狂っていると言われるかも知れないが、俺は反省する気も無いし後悔もしていない。


 さっさと残る教祖に復讐を実行して、心置き無くイオ爺たちと異世界へ移住すると心に決めているのだ。

 俺を拒絶するこんな世界に、もう未練など無いのだ。


 俺は何度目かになるWikipediaの検索で、そこに記載されているダイクーア教団について読み返してみた。


 ダイクーア教団

 教祖の名前は瓜生雅守うりゅう まさもり

 戦後に発生した有象無象のカルト宗教の中で異例の発展を遂げた新興宗教の一つ。

 仏教系でもなくキリスト教系でも無い独自の破壊による浄化という特殊な宗教観を持ち、血と死による再生を意味する紋章と独自の暗黒神を崇めるきわめて特殊な宗教であると書かれている。


 俺がWikipediaで教団の事を再確認していると、黒い翼を背景に十文字に光る真っ赤な光芒をイメージした教団の紋章を何処かで見たような気がして、その朧な記憶を辿ってみた。


 あれは伊勢海いせみ神社の境内でメルと出会った時に、彼女を追いかけてきた革鎧の男達が身に着けていた紋章と似ている気がしたのだが、それだけではなく何処かで以前にそれを見た記憶があった。

 しかしあの時は突然の出来事で記憶も曖昧だったので、俺はメルを呼んで確認してみる事にした。


 最初は見知らぬ世界に放り出されて元気の無かったメルだったが、今ではすっかりこちらの生活にも慣れて、特に気に入った日本の料理を毎日料理上手な婆ちゃん達に習っているようだった。


 今までは自分で料理などというものをやったことが無かったらしいが、まあお姫様だと言うのだからそれも当たり前なのだろう。


 「どうしたの?、和也兄ちゃん」


 メルは実家に連れてきて以来、俺の事を和也兄ちゃんと呼んでいる。

 その呼ばれ方は、ちょっぴり妹の美緒を思い出して気持ちが少しばかり切なくなるが、可愛い子に懐かれるのは悪い気はしない。


 いや、正直言えば荒んだ今の俺の気持ちを和ませてくれる貴重な存在と言っても良かった。


 メルだって、一刻も早く元居た世界に帰りたいだろうに俺の我が儘で異世界へと旅立つ日が先延ばしになっている事に対して、文句の一つも言わず笑いかけてくれる。


 メルには本当に感謝しているから、異世界に行ったら彼女の身の安全は俺が守ってやろうと思っている。

 なんとしても、メルの故国へと無事に送り届けてやりたいのだ。


 「メル、この紋章って見覚えないか?」

 そう言って、指さす俺の手元を見たメルが不思議そうに言った。


 「これはダイコクア教国の紋章だけど、何故こっちの世界にあるの?」

 「メルを追ってきた、あの男達が身に付けていた紋章と同じだよな?」


 そう訪ねる俺に、メルは頷いた。

 「うん、あいつらはダイコクア教国の暗殺者たちだもん」


 そんな俺たちの会話を聞きつけてレイ婆が俺のPCのモニターを覗きこんできた。

 「まあまあ、二人とも何を仲良く見ているのかしらね」


 そう言って笑っていたレイ婆の笑顔が凍り付いたように真顔になるのを俺は見逃さなかった。


 「偉緒那、ちょっとこれを見て!」

 レイ婆が指し示すWEBサイトの中央上段には教団の紋章が大きく描かれていた。


 「これは……!」

 レイ婆に呼ばれて、指し示された画像を見たイオ爺の顔色が変わった。


 この紋章を二人は知っているのか?


 「何故この紋章が、こんな処に……」

 そんなイオ爺の呟きに意味が判らない俺は、その紋章を知っているのかと尋ねた。


 「知っておるとも……、この紋章には、わしらを何処までも追ってきた奴の嫌な記憶しか無いわい」

 「しつこい男でしたからねぇ」


 苦々しげに語るイオ爺の言葉を受けて、レイ婆も嫌そうな顔をしてそう言った。

 二人を追っていたウルガスと言う男の執念深さは、相当なものだったのだろう。


 「魔力切れギリギリじゃったので殺してはおらぬだろうが、転移する直前にわしの雷撃いかづちを顔に喰らわせてやったからの、さぞかし女にモテる顔になっておることじゃろう」

 ふと楽しいことを思い出したかのように、イオ爺が嬉しそうな顔になった。


 「配下の者ばかりを前に出して自分は後ろに隠れている卑怯な奴でしたからねぇ、あの時はスッとしましたね」

 レイ婆も先程迄の苦い顔はどこへやら、一転して嬉しそうな顔になっていた。


 イオ爺とレイ婆、そしてメルの話を総合すると、あのダイクーア教団のWEBサイトで使われている紋章は、ダイトクア教国の教皇一派が使っている紋章らしい。


 その紋章を使えるのは教皇以外には親族である貴族と、その熱狂的親衛隊だけだと言う事だった。

 何故、その紋章がリアル(現代世界)に存在するのか…


 「あれから70年以上経っておるのに、またこの紋章を目にするとは思わなんだわい」

 「そうですねぇ…」


 イオ爺はそう言って再び真剣な顔になると黙り込んでしまった。

 レイ婆も、さっきまでの笑顔が想像できないような真剣な顔をしている。


 「どうやら、わしの想像が当たっておるのかもしれぬな…」


 そう言ってレイ婆を見るイオ爺の視線に応えてレイ婆も頷いた。

 「この世界が、私たちが来た世界の遠い過去なんじゃないかって、以前そう言ってたわね」


 「うむ、あるいは何処かで枝分かれしたパラレルワールドの遠い過去のどちらかじゃろうな」

 イオ爺は以前話してくれた異世界=終末戦争後の未来世界論を、再び話し始めた。


 もし、この世界の歴史の果てにイオ爺たちが居た異世界があるのなら、ダイクーアの紋章がこの世に存在すると言う意味は、この世界とイオ爺たちが居た異世界との連続性を意味する事になる。


 イオ爺は神話の話として神々の争いで世界は一旦滅びたと言っているけど、それはこれから先の未来の何処かでこの世界が大規模な戦争によって滅びかけると言う事を暗示しているのかもしれない。


 既に、世界を何度か破滅させるだけの核兵器が存在していると言うが、その戦争は遠い未来なのだろうか…

 それとも、紫織たちがまだ生きているであろう近い未来なのだろうか?


 ダイクーア教団について、もうひとつ調べることが出来てしまった。

 まずは、教祖の行方を掴むことが先決だ。


 このまま行方が知れないのであれば、力尽くでも……


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