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059:2つ目の復讐

 その夜、エリクサー社の会議室にはまだ灯りが点っていた。


 俺たちを閉じ込めたソード&マジックオンラインVRは、まだ営業を開始できず連日深夜まで会議を続けていたのだ。


 俺は、耶麻元を片付けたその足でエリクサー社へと転移していた。

 時間をおけば警戒される、それだけが心配だった。


 居なければ出直すしか無かったが、幸いにも奴らは居た。

 俺は神ではなく、この僥倖を親父と美緒に感謝した。


 二人のかたきは必ず討つ!

 そして俺を追い込んだことを後悔させてやる!


 やるときは一気にやらなければ、次のチャンスがいつ来るかなど判らないのだ。



 事故以来、あれだけ居たユーザーがほぼ全員VR型オンラインゲームの怖さを知ってユーザー登録を解除して離れていったそうだ。


 それは当然の反応なのだが、ごく一部の熱狂的ユーザーからは未だに営業開始を切望されてることがネットで話題になっていた。


 ログアウト不能でゲーム世界に取り込まれると言う事に、恐怖では無く逆に魅力を感じる人間も一握りの割合で居るらしい。


 俺の2つ目の復讐はゲームの関係者で事の真相を知りながら協力していたダイクーア信者の幹部社員たちと、計画の黒幕である社長の森多を同じ目に遭わせる事だ。


 「何故、2ヶ月以上も経っているのにシンクロ率と覚醒の因果関係が解明できない!、君の頭は何のために付いているんだ?!」

 そう強く幹部社員を無能呼ばわりして叱責しているのは社長の森多だった。


 「シンクロ率が関係していたのは間違い無いのですが、覚醒にはそれ以外の何か別の条件が必要らしく、それがまだ掴めません」


 深く頭を下げて、怒り狂っている森多の方を見ないようにして質問に答えているのは幹部研究員の磐本と言う男だった。


 室内には、テーブルを挟んで社長の森多の他に役員の面々が顔を揃えている。

 この場に居ると言う事は、こいつら全員がグルだったと言う事に他ならない。


 「どうだ、またサーバーを再開させてログアウト不能にしてみるか?」

 「あんな事があったと言うのに、現実逃避したい馬鹿はまだまだ居るようだしなぁ」

 「馬鹿ですな、まったく」


 「ゲームを再開しろと、サポートセンターに相当苦情を入れて来ている連中もいると聞きますな」

 何が可笑しいのか、下品な笑いを浮かべて口々に幹部達はそんな事を言っている。


 あれだけ俺たちを苦しめておいて、まるでまだ他人事のような認識でしか無いようだった。


 俺は全員に催眠誘導ヒプノを掛けてその場で全員を昏倒させた。



 テストルームに並んでいるダイブユニット。

 そのダイブユニットには、先程会議室に居た森多を始めとするエリクサー社の幹部連中が横になっている。


 俺は全員にヘッドギアを装着させた。


 「設定は、あの時と同じだ! 早くしろ!」

 俺は、一人だけ目覚めさせた幹部研究員の磐本いわもとに強い口調で指示をする。


 全員分の初心者用アカウントを作らせるのには少し待つ必要があったが、標準設定のまま名前を指定するだけなので、そう長い時間では無かった。


 誰も居ない空間からの指示に逆らって、耳を僅かに焼かれただけで悲鳴を上げた磐本という男。

 そいつがガクガクと震えながらディスプレイに映る操作画面に黒いコンソールウィンドウを呼び出して、流れるようにキーボードを叩いて作業をしている。


 てっきり、グラフィカルにデザインされた設定画面をマウスで操作するのかと思っていたが、それは違っていた。


 磐本は慣れた手つきでキーボードからウィンドウにコマンドを打ち込み、ゲームの裏設定を呼び出すと、最後にあるコマンドを打ち込んだ。


 >death game /all /endless


 デスゲーム、それがあのときの設定を呼び出すコマンドだった。

コマンドがあらかじめ存在するという事が、ログアウト不能が周到に計画された犯行だった事を示している。



 「こ、これでenterキーを押せばログアウト不能になる」

 「じゃあ押せよ」

 俺の姿を探して、不安そうにあちこちと目線を動かす磐本。

 極めて静かに、俺はそれを促した。


 「お、俺は助けてくれるんだろうな…」

 enterキーの上に薬指を乗せながら磐本が、俺の声のした方に向かって問いかけてくる。


 「押して見ろよ! 本当にログアウト不能のゲームが開始されれば、俺はお前を殺さないと約束する」

 それを聞いて安心したのか、磐本は躊躇ちゅうちょ無くenterキーを押下した。

 ついさっきまでは仲間だったくせに、自分が助かるとなれば残酷なものだ。


 微かな起動音を残してダイブユニットが動作を示す光の点滅を始めだした。

 俺は全員の催眠誘導ヒプノを解除するが、一人残らずゲームにダイブしているのか誰一人として身じろぎもしない。


 「ゲームの中はモニター出来るんだろうな」

 「ああ、もちろんだ。」


 磐本が操作すると、大きなモニターにゲーム最初の都市であるプロメテリアの城壁外にあ る初心者エリアが表示された。


 俺が磐本に指定した通り、彼らは街の中ではなく外に出現していた。

 そこには、ゲームの初期設定のままログオンした森多他8名の男たちが不安そうに佇んでいるのが見える。


 キャラクターを作らずにログオンしたゲームの初期設定は、ヘッドギアがスキャンした本人の顔に他ならない。


 「おい、ここはまさか!」

 「ダメだ、ログアウトできない!」

 悲鳴のような声がスピーカーから聞こえてくる。


 もちろん、ログアウト機能はメニューに存在しない。

 このゲームをやった事も無い全員が、レベル1のノービスなのだ。


 全員の装備品は下着にシャツ一枚と回復用のポーションが10本、武器は特性も何も無い初心者用のナイフ一本だけだ。

当然、このゲーム内で死ねば二度と覚醒する事の無い脳死状態となる事も、あの時と同じだ。


 せいぜい、楽しんで欲しい。


 「もう、帰って良いか?」

 そう磐本が俺の声のする方向を向いて、問いかけてきた。


 「すまなかった、助かったよ」

 そう言って、俺は磐本を石化で石に変えた。


 一刻も早く立ち去ろうと、既に立ち上がりかけていた磐本はそのままバランスを崩し、ゆっくりと固い床に激突して幾つかの大きな破片に砕けて散った。


 「石になるのは死んだ事にはならないからな。 なった後の事までは責任をもてないけど」


 俺はテストルームを含むフロアを物理防御結界で周囲と隔離した。

 エリクサー社はデータセンターのサーバーを借りず、自社に大規模なサーバー管理フロアを有している。

 ここも、俺は周囲から隔離した。


 そうして誰も中に入れないようにして、運営会社を後にする。


 管理用のパスワードは磐本に変えさせたから、外部からゲームのログオン状態を解除する事は出来ない。

 それに、あの時と一つ違うのはログオンしている体を維持する装置が全員に装着されていない事だ。


 水さえも摂らずに人間は4日も生きていられないと聞く……

 遠くないうちに、彼らは彼らの敬愛するダイクーア神の元に浄化されるだろう。


 そうそう、もう一つ違っている事があった。


 モンスターの特性と配置が変わっているのだ!

 それも、初心者には厳しい方向で……


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