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057:魔法力制御

 俺は朝早くからイオ爺に連れられて、裏山を少し登った場所にある特訓場所へ来ていた。


 そこは周囲を太い檜の森に囲まれた50m四方程の平地で、元々は畑だったが今は休作地になっている。


 子供の頃は、この更に先にあるくぬぎの林でカブトムシやクワガタを採った想い出がある。

 そんな休作地の畑で、俺は朝からずっと掌に魔力玉を作る特訓をしている。


 イオ爺の出した条件は三つだけ、魔力は圧縮しない、大きさは1cm程の真球を作る事、それが出来たら次は6mm程に小さくして同じ事を繰り返す、ただそれだけなのだ。


 しかし、やってみるとこれが難しい。

 見事に毎回作り出す魔力玉の大きさが違うのだ。


 以前、スキルのテストで海に放った魔力玉は圧縮をしていたので、作り出す玉の大きさは目で見ながら調整が出来た。

 つまり、玉の中に込める魔力が大きければ圧縮を強めて小さくし、少なければ圧縮を弱めて調整をしていたのだ。


 しかし、圧縮無しだと自分が一発で絞り出す魔力量によって大きさが決まってしまう。

 それは寿司職人が一掴みで掌に握る米の量が、毎回同じだというレベルに近い事をやらされている事になる。


 単純に見えて、これは凄く高度なコントロールが必要になる。

 俺は30分もしないうちに、疲労で頭が痛くなってきた。


「最初はゆっくりと大きくで良いが、慣れてきたら小さく速くじゃぞ」


 イオ爺は木陰にパイプ椅子を置いて、のんびりと水筒のお茶を飲んでいる。

 俺も、一休みしたい…… 


「ほれ、使う魔法に必要な分量だけ正確に魔力を絞り出すのじゃ」

「いいか和也、使われなかった魔力の大部分は威力の上乗せ分に還元され、僅かに使い切れなかった分が体から自然と漏れるのじゃ」


 イオ爺が言うには、感知される魔力とはコントロールが甘くて漏れている魔力の事らしい。

 異世界で魔力を使うときに感知されたくなければ、基礎をみっちりやれという事だった。


「使うべき時に必要なだけ正確に魔力を調整出来るなら、無駄に魔力を使い過ぎて早々にガス欠する事は無いからの」

 どんなに魔力があっても、魔力コントロールが甘い奴はギリギリの戦いには勝てない、それがイオ爺の持論だった。



 昼になってレイ婆の作った弁当で腹ごしらえをした後は、イオ爺から俺の知らないゲームには無かった魔法スキルを教えて貰う。


「和也の使える魔法は、極端に攻撃魔法が多いのぉ」

「まあ、基本ゲームの魔法だから生活魔法とかは無いよ」


 言われてそう答えるのだが、確かにゲームの魔法は攻撃と防御、その二つに偏っている。

 例外は、汚れ落としと転移魔法くらいだろうか…… 


 魔法職以外の魔法スキルならば聖職者や製造や錬金術など多彩なのだが、純粋に職業としての魔法使いが使えるスキルとしてはイオ爺の言うとおりだった。


「魔法は既に使えるのじゃから、和也の言うゲーム漬けの日々によって魔力回路は通っておる」


 あとは魔法の名称と結果のイメージが俺の中で真に結びつけば魔法は使えるのだとイオ爺は言う。

 魔法の名称と結果のイメージを自分の中で結びつけるために、自己暗示として必要なのが詠唱なのだそうだ。


「長い詠唱行為には、元々少ない魔力を確実に積み上げて威力のかさ上げをする効果もある。 じゃから魔力の高い高位の魔法使いほど詠唱が短くても発動が出来るのじゃ」


 実際に、空中浮揚や物品引き寄せのような派手なものから、空中からお湯を出す、水をお湯に変えるなどなど、地味な魔法まで沢山教えて貰った。


 晩ご飯を食べた後もイオ爺の特訓が待っている。


 夜は夜で、魔方陣の丸暗記が待っていた。

 とにかく意味も判らずに魔方陣を頭の中に叩き込んで同じ物が画けるようになるまで繰り返した。

 意味も判らず同じ物が画けるようになったら、やっと意味の解説が始まった。


 これだけで、もう2週間は費やしている。

 もう鼻と目と口と耳から魔法文字が漏れてきそうだ。


 異世界へ行けば勉強しなくて済むと思っていた俺が甘かったようだ。


 魔方陣を完璧に脳内でイメージできれば、それを他の物体に刻印することができる。

 掌を対象物に当てて、魔方陣をイメージするだけだ。


 これで対象をマーキングして現在位置を把握したり、離れた場所から荷物を引き寄せたりする事も出来る便利スキルなのだ。


 ゲームの魔法では、魔方陣は魔法とセットになって俺の中にイメージが固定しているから、 イオ爺に教えて貰った魔法も魔方陣とセットで頭に入れなければならない。


 とても覚えきれるものでは無かったが、俺は復讐という目的のために必死で新しい魔法や魔方陣を頭に叩き込んだ。


 夜はこれだけで解放される訳が無かった。

 寝る前には、イオ爺が異世界から持って来た沢山の小さな魔石に魔力を込める練習が待っているのだ。


 魔力を魔石に込めすぎれば簡単に割れてしまう。

 足りなければ色が充分に変わらない。


 少しずつ、俺にとって極微量な魔力を僅かな時間だけ瞬間的に込めて、魔力を魔石に溜めてゆく。

 これが、異世界へ行ってからの資金源になるのだとイオ爺は言っていた。


 魔力が充分に込められた魔石は、貴重で高く売れるらしい。

 お陰で、様々な属性の魔力石を毎日少しずつ作らされている。


 魔法力が少ない魔法使いの魔力増強に、魔道具の貴重な動力源にと、需要はあるのだと言っていた。

 もっともイオ爺の記憶は70年前のものだから、これから行く異世界で需要があるのかどうかは判らないなと、そう俺は少し思っている。


 本当は異世界へ行くために、鍛冶師と錬金術師のスキルで防具や武器も作りたいと思っている。

 レイ婆には防具と剣を、イオ爺には魔力を増幅させるロッドを、修蔵爺ちゃんには餞別に山刀を作るつもりだ。


 もう会えなくなるエクソーダスのみんなにも、俺がリアル(この世界)に居たあかしとして最高の魔法を付与した最高の武器と防具を作って、オフ会の日に贈りたいと思っている。


 もう、俺の魔法なんか通じないくらいの最強の武器と防具を作ってあげたい。

 それを見て、一緒にゲームの中で戦った長い日々を、俺という仲間が居たことをずっと覚えていて欲しいのだ。


 あの日、ゲームの中に置いてきてしまった装備を俺からのサプライズプレゼントにしようと、そんな馬鹿なことを俺は考えていた。


 一日の最後に、ネットを使って教団のホームページへ行き、各幹部連中と教祖の行動予定を調べた。

 これが毎日の日課なのだ。


 次の日も、同じ事を朝から繰り返す。

 だいぶ慣れてきたが、まだまだコントロールは難しい。


 新しい魔法の実験で、俺は自分の中で名称と効果のイメージが具体的に直結している、ある魔法を試してみた。

 それはアニメの主人公が使う魔法。


 アニメで具体的に術の名称と効果が頭の中に入っているので、すんなりと魔法となって発動する。


「現代世界の魔法使いならではの術じゃの、異世界では使える者はおるまい…… 」

 イオ爺も、その魔法を見て呆れていた。


「じゃが、異世界では使い処が無いの。 」


 俺は、衣装だけが魔法少女に変身していた。

 いや、まあ、そうだけど…… 



 特訓開始から2週間後の深夜、俺は熱工学迷彩を身にまとって姿を隠し、ダイクーアの幹部の一人である耶麻元伊月やまもと いつきの運転する車の屋根に魔力で貼り付いていた。


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