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055:イオナとレイナ

「レイナとわしはな、このメルと同じ異世界から日本にやってきたんじゃ」

「もう、ずいぶんと昔になりますよねぇ」


 ブホッ!、唐突な告白に俺はお茶を気管に入れて咽せてしまった。

「ちょっ、爺ちゃん何をいきなり… 」


 あまりに予想外の展開にメルも呆然としてイオ爺を見ている。


「ここにおる修蔵も千絵も知っておるでな、なんも驚いておらんだろう」

 そう言われてみれば、修蔵爺ちゃんも千絵婆ちゃんも平然とお茶を飲んでいる。


「まあ、知っておるのはこやつらまでじゃ、孫の賢蔵にも泰蔵にも話はしておらんでな」

 泰蔵と言うのは親父の兄で俺の叔父さんに当たる人だが、今では正月くらいしか会う機会は無い。


「わしも聞いた時は驚いたものじゃ」

 そう言って修蔵爺ちゃんはカラカラと笑った。


「本当にね、私も悪い冗談かとあの時は思いましたよ」

 千絵婆ちゃんも、そう言って平然としている。


 メルは、唐突な話に呆然としていた。


 つまりそれが本当なら、イオ爺とレイ婆が異世界人だとすると、修蔵爺ちゃんは100%異世界人の血を引いていて、親父は日本人の千絵婆ちゃんと異世界人の修蔵爺ちゃんとの間に産まれたハーフと言う事になる。


 と言う事は俺は異世界人のクオーターって事になるのか… 


「賢蔵も泰蔵も、わしらの能力は受け継いでおらなかったようでな、要らぬ話はせんことにしたのじゃ」

「隔世遺伝ですかねぇ、和也にはその力が受け継がれていたなんて…… 」


 イオ爺もレイ婆も、そう言うと感慨深げに俺を見ていた。


「えっ、俺、日本人じゃ無いの?、え、力ってこれはゲームで覚醒したはずで…… 」

「和也、お主から感じる魔力は魔素の薄いこの世界にしては規格外に大きなものじゃ」


「転移石を僅かな時間で魔力飽和させて壊しちゃったでしょ、あれはこの世界では有り得ない事なのよ」

「そうじゃな、元宮廷魔法使いじゃったわしですら、この世界では魔力が100分の1くらいまで減った感覚じゃ」


 ちょっと、イオ爺はサラリと言いましたけど、宮廷魔法使いって何だよ!

 メルはなんか理解してるみたいだけど、話が飛躍しすぎて俺には着いていけない。

 と言うことは、イオ爺も魔法が使えるのか?


「そのわしをもってしても転移石を己が魔力でフルに満たすのには、毎日一回も欠かさず続けて1年は掛かる。 もっとも魔力が充填されるのに時間が掛かるでなぁ、毎日連続は正直言って無理じゃ」


 どんだけチートなんだよ俺って。


 と言うか、魔力の発動条件はシンクロ率だけじゃ無くって、個人が保有する魔力の量も関係しているって事なんだろうか?


 つまり、魔力が使えるようになっても、元々持っている魔力量が無ければ魔法は使えないって事なのかもしれない。


 その後も、イオ爺とレイ婆の話は続いた…… 

 それは驚くべき内容だった。


「ちょうど、第二次大戦終戦直後の混乱期じゃったな、わしとレイナがこの世界に転移してきたのは。」

 どこか懐かしむようにイオ爺が語り始めた。


「わしは当時19歳で、水・土・風の3属性と派生の氷と木と雷を操る宮廷魔法使いだったのじゃ。」

「天才って言葉と、筆頭宮廷魔法使いって説明が抜けてますよイオナ」


 レイ婆が、微笑みながらイオ爺の説明に補足を入れた。

 普通は魔法使いでも、使える属性は1つか2つだけなのが大半らしい。


 レイ婆の補足を聞いて、イオ爺が笑う。

「まあ、昔のことじゃ、細かい事は良いじゃろう」


「わたしは当時15歳になったばかりで、転移してくる前はメルと同じように火・水・土・風の4神に使える聖職者だったの」


「ふむ、お前もアルメリア王国の第五王女と言う説明と、聖・火・風の魔法を使う騎士団の副隊長という説明も抜け落ちておるの」


 ていうか、レイ婆も属性3つ使えるって、自分だって天才じゃないの?


「細かい事は、良いのよ」

 レイ婆は、イオ爺の突っ込みをサラリと流して笑ってお茶を一口飲んだ。



 レイ婆が言うには神殿にかしづいているよりも、馬に乗って剣を振っている方が性に合っていたそうだ。

 そう言う意味で、メルの話に自分を重ねて聞いていたらしい。


 まあ、確かにあのビンタの速度と威力は半端なかったし、妙蓮寺たち男5人を相手にして自分はかすり傷ひとつ負わずに相手をグチャグチャにしたのも、確かに普通の人じゃ無理だ。


 おれは、その光景を想像して妙に納得がいったと共に、何故か妙蓮寺たちに少し同情した。

 あいつらは、本来なら俺がボロボロにすべき相手なのだが、教団地区本部で聞いた「引きこもっている」という近況に、妙蓮寺たちがどれほどの恐怖を味わったのかと想像をしてしまったのだ。



 レイナが10歳の時にイオナは14歳、イオナは10歳にして王立魔法学院を主席で卒業し宮廷魔法使いとしてお転婆なレイナの魔法教師であり遊び相手として国王に抜擢され、彼女を指導している内に年齢の近さもあってか、互いに何時の間にか恋に落ちたらしい。


 しかし、レイナには遠く離れた隣国との政略結婚の話が着々と進んでいたという、どこかメルの姉の話とも重なるような内容だった。


「泣いて嫌がったんだけど、わたしが15歳の誕生日の日に嫁ぐ事が決まってね、そしたらイオナが身分を捨てて一緒に逃げようって言ってくれたの」

 レイ婆はイオ爺を見て、そう言った。


「早くに両親を亡くし、苦労して魔法学校に入って才を認められて、若くして筆頭にまで登り詰めた地位を捨てるって言うのよ、馬鹿でしょ」

 そういうレイ婆は当時を思い出したのか、どこか嬉しそうだった。


「馬鹿と言うが、こうして今のわしは幸せじゃぞ。 つまりは正解じゃったと言う事じゃの」

 イオ爺もそう言うと、湯飲みに口をつけてお茶を飲んで喉を潤した。


 要するに、二人は手に手を取りあって祖国を脱出して駆け落ちをしたそうです。

 それに、メルが二人を憧れたように見つめる目がヤバイです。


 しばらくは人里離れた土地で隠れて暮らしていたが、やがて追っ手に見つかり逃げる事になったそうだ。

 イオナを目の敵にして、二人を執拗に追っていたのはウルガスと言う隣国の第三王子、これがレイナに一目惚れしたらしく執拗に何処までも追ってきたそうだ。


「さすがに多勢に無勢、いよいよわしらは追い詰められてのぉ、規格外とまで言われた魔力も使い果たして絶体絶命という時に、神殿からレイナが持ち出して来た転移石を発動させて逃げたのじゃ。」


「それが、当時終戦直後で混乱していた日本だったのよ」

 イオ爺のちょっと脚色されたような魔力バトルストーリーを、その一言で締めるレイ婆。


「植物も動物もまったく姿の違う異世界なのに、何故か言葉が通じたのには驚かされたのぉ」

「まあ、おかげで然程さほど苦労せずに生きてこられましたけどね」


 たしかに波瀾万丈で面白い話なのだが、、俺が二人の話を完全に信じ切れなかった理由はそこにある。

 だって、違う世界から来て言葉が通じるなんて都合が良すぎないだろうか?


 二人は、まだ何か本当の事を隠しているのでは無いか、そんな疑念が払拭出来なかった。


 言葉が通じるのを良い事に、魔装具により髪の毛と瞳の色だけでなく容貌すらも、ちょっと彫りの深い日本人風に変えた事もあって、二人を疑う者は戸籍も混乱し食べる事で精一杯だった当時の日本には居なかったらしい。


 丁度戦争で息子を失った八坂家で働く内に当主に認められ、イオナは請われて養子となり八坂 偉緒那となった。


 レイナは偉緒那と結婚するために、一旦八坂家の縁者の家に形だけの養子となり玲衣那として八坂家に嫁入りして正式な夫婦となったのだそうだ。


「しかしな、現世に来て驚いたのは魔法の力が異世界に居た時に比べて、著しく落ちている事じゃった」

「どうやら、この世界には元居た世界と比べて魔素が希薄だったみたいですね」


 イオ爺の説明によると、魔素は魔力の元になるもので自然に生まれるものと自らの体内で生み出す物があると言う。

 それを体内に溜め込める最大値を魔力量と言い、周囲から吸収する魔素と体内で生み出す魔素の単位時間当たりの量を魔力回復量と呼ぶらしい。


 異世界では、魔素は世界に充満しており植物が生み出していると考えられているらしかった。

 それに、魔力の多い生き物は寿命も長く、優秀な魔法使いなら軽く200年は生きる事もあると言っていた。

 つまり、イオ爺とレイ婆がいつまでも若々しいのは、そのせいらしい。


 俺の、この彫りの深い悪党顔は異世界人の血が濃く現れたせいだと聞いて、少しは納得できた。


 子供の頃から、この顔にはコンプレックスを抱いてきただけに、自分のルーツが判ったのは少し嬉しかった。

 もっとも、自分が日本人じゃ無かったと判ったのはそれなりにショックがあるが…… 


 話が一段落付いて半信半疑な俺に向かって、イオ爺は驚くべき事を言い出した。


「わしはな、異世界と言うのはこの世界の遠い未来なんじゃ無いかと思っておるのじゃ」


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