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050:99の真実と1つの嘘

「話は戻るけど、オープンβテストの延期が何故7ヶ月もの長期間に渡ったのかと言う話をするね」


 我に返って座席に座り直した俺は、黙ってアーニャの話を聞く事にした。

 俺が巻き込まれている事件は、俺なんかが想像しているよりも大きな話になりそうだったから、とにかく話を聞く事にした。


 当然、一方の側だけの話を鵜呑みにする気は無いが、目の前の美少女が嘘を言っているようにも思えなかった。


 オープンβテストの延期の真実は、開発途中だったVRゲームプログラムのバグによりクローズドβテストのメンバーが全員ログアウト不能になったからだと言うのだ。


 通常VRゲームへの連続アクセス時間は4時間迄と法律で決められている為、それ以上の時間接続する事は例えテストであっても有り得ないのだが、それが約7ヶ月もの長期間に渡って起きていたのだ。


 ようやくログアウトする事が出来た社内テスターの中に、僅かながら不思議な力を持つ者が現れてた事が今回の事件の発端となったと言うのだ。


 それは魔法と呼ぶには弱いものだったらしいが、明らかに非現実的な事象を発現させる事が出来るようになったテスターの存在が開発会社からダイクーア教団に報告され、教祖が大いに興味を示した結果として発現条件の精査が行われ、そしてシンクロ率95%以上という数値が割り引きだされたのだと言う。


 95%以上のシンクロ率を持つ者がすべて非現実な力を発現できた訳ではなく、その理由を探るためにも長期間のログアウト不能状態を作り出すべく事件の計画は練られたのだそうだ。


 そう考えれば、ログアウト不能に陥ってからの運営会社の対応は素早かったと思う。


 VRネットカフェへ派遣する延命措置の対応など、その拉致被害者の数を考えれば神業に近いと言えるだろう。

 しかし、予めターゲットが決まっていたとすれば、それは不思議でも美談でも無い話になる。


 そして、立て続けに発生した家族への不幸も仕組まれたものだと思える話を聞いた。

 偶然巻き込まれただとか、悪い方に転んだだけだとか、たまたま運が悪かったとか、そんな話では無かった。


 俺がどのような決断を下していたとしても、紫織の事も親父の事も、そして美緒の事も、これらは避けられない悪意のある必然だったのかもしれないのだ。


 アーニャの持っている情報に、ダイクーア教団と教祖の直接的関与を示す証拠は何も無かった。


 だが、それは何としても知りたかった。

 いや納得するためにも、これは俺が自分で調べるしか無いと思った。


 アーニャが話してくれた情報は、様々な組織も大なり小なり同じような内容を掴んで動いているらしいと言う事だった。


「そう言えば港湾倉庫での一件以来、コレと言ってちょっかいを出されていないんだが、どういう事なんだ?」


 そう、それだけの組織が俺を同様に狙ってるのなら、あれだけで終わる筈が無いのだ。

 アーニャが策を弄さずにストレートに俺を勧誘してきたのは、ある意味嬉しかった。


 おそらく、アーニャの裏にいる国を考えると、もっと粗暴な手段だって可能なイメージがあったからなのだが。


「それは、和也が研究対象としてではなくて危険人物として、迂闊に手を出せない存在になったからよ」

「危険人物って、国家ぐるみで来られたら一個人なんてなんも出来ないぞ」


「それは、普通の人の話。港湾倉庫の一件で、あなたは超危険人物になってしまったのよ」

「いや、あれは正当防衛だろ」


 紫織に危害を加えられそうになって我を忘れそうにはなったが、事実身の危険を感じたし正当防衛だろうと言うのが俺の正直な感想だ、それをもって危険人物とか酷い言い種じゃないだろうか。


 それを言うなら、あのパワードスーツは反則だろ。


「和也は、ついこの間まで掌から炎を発現できる珍しい力を持った研究対象として、各国からターゲットに指定されていたの、でも隠してる力はそれだけじゃ無かったでしょ」


 俺が監視の目を空間転移や光学迷彩で逃れた事、拉致しようとした車を跡形無く破壊した事、鮫島の手を破壊した事、それらの事実と防犯カメラの映像から俺の能力は何なのかマークされていたと言う。


「そして港湾倉庫での出来事は、すべてが監視カメラの映像として記録されていたわ」


 その結果として、俺の使った能力はすべて知られる事になったらしい…… 

「それがそうなら、こそこそと隠していたのが馬鹿みたいだな」


 自嘲気味に俺が言うと、それが当然のようにアーニャが応えた。

「そうね、一気に証拠と一緒に倉庫ごと吹っ飛ばせば良かったのかもしれないわね」


 見た目は子リスのようにストローを加えている美少女なのだが、こいつは本当に美緒と同じくらいの年齢なのか?

 大人びた受け答えを聞いていると、そんな疑問が浮かんでくる。


「つまり、俺は持っているのが線香花火程度だと思われていたけど、実際は核兵器を持っている事が判ったから簡単に手を出せなくなったって事か?」


「うーん、まあ近いわね、でも危険すぎる武器を持つ者は逆に排除対象にもなり得るわよ」

「サラッと怖い事言うねー」


「だからそうなる前に勧誘しに来たの、あたしと一緒に来ない?」

 俺を見つめる目は真剣そのものだった、彼女が俺を心配しているのは本当に思える。


 これが演技だったら、俺は間違い無く女性不信になる自信がある。


「う~ん、そんな話を聞いてすぐに答えは出せないけど、なんで俺なんだ?」

それは当たり前だ、即答なんてできる話じゃ無い。


 今更この世界に未練は無いけど、今聞いた話だけじゃ肝心の事がハッキリしないし、それにダイクーア教団と義則や紫織との関わりだって本当なのか一方的な話だけじゃ判断が付かない。


 あの事件に教団や教祖が何処まで関わっていたのかさえ判らない状況じゃあ、誰に俺の怒りをぶつければ良いのか確信が持てなくて、余計にモヤモヤしてしまう。


「一つは和也が全接続者中一人だけのシンクロ率100%を達成者で、尚且つ最も力が強く発現しているからよ」

「その言い方は、それ以外の理由があるみたいだな」


 そう言えば、こんな大事な情報を当事者に流してアーニャは大丈夫なのだろうか、そんな疑問も浮かんでくる。

 組織として勝手に情報を漏らすのって、良く判らないけどヤバいんじゃないだろうか。


 そんな俺の疑問にアーニャが示したのは、離れた位置から俺のウーロン茶のグラスに挿してあるストローを触れずに曲げる事だった。


「うわあっ!」


 思わず、目の前で折り曲げられたストローから飛び退くように座席の後ろへと反射的に逃げてしまった。

 目の前で誰も触れていないストローが突然折れ曲がったのだから、それは驚くと言うものだろう。


「あなた程じゃないけど私も化け物の一人なのよ、離れた位置から心臓くらいなら止められるわ」

 とっさに自分の心臓に両手を当てて守るようにアーニャを見るが、それを見て可笑しそうに笑っている。


「あなたには、私の力は効かなかったわ」


「って、やっぱあの時に試したのかよ!」


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