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049:シンクロ率と陰謀

「シンクロ率って知ってる?」


 アーニャは、突然話題を変えて問い掛けてきた。

 シンクロ率と言えばVRゲームに付きものの、ゲームとの同調率の事だ。


「知ってるさ、VRゲームを楽しめるかどうかに関わる大事な同調率の事だろ、60%以上ないとゲームに入り込めないとかなんとか…… 」


 それはVRゲームの事前説明画面で必ず目にする重要な項目だったから、俺は疑念も無く当然のように応えた。


「和也は何%だったの?シンクロ率」


 唐突にそんな事を聞いてくるが、各自のシンクロ率自体は公にされていないし、同調できればほぼ差が出ないので個々の具体的な数値なんてものは必要とも思われていないはずだ。


「色々とゲーム運営会社を調べていたら資料にやたら出てくるワードがあったの、それがシンクロ率よ」


「シンクロ率がどうだって言うんだ、思わせぶりな言い方じゃなくてハッキリ言ってくれよ」


 意味深な微笑みを浮かべて俺を見るアーニャを見て、何を言いたいのか判らずに俺は苛立っていた。


 判らないなりに、何か大きな事件に巻き込まれている事は理解していた。

 それだけに、アーニャの少しずつネタばらしをする話し方が無性に腹立たしくてもどかしかった。


「ゲームに閉じ込められた人達のシンクロ率を調べてみたら、ある事が判ったの」

「どんな?」


「基本的に閉じ込められた人達のシンクロ率のバラツキは60%から100%まで様々で、そこに偏りは無かったわ」


「別に何でも無いじゃないか! 当事者だった俺をからかってるのか?」

 そう言い放った俺だったが、アーニャが言った次の言葉で絶句してしまった。


「でもね、通常のシンクロ率が95%以上だった人達は一人残らず全員が囚われていたのよ、 それ以外のシンクロ率の人達はランダムに拉致されたであろう確率だったのにね」


「つまり、シンクロ率95%以上の人達が本当のターゲットで、それ以外は誰でも良かったって事なのか?」

「正解!、ビンゴよ」


 俺が思いついたそれを口にしたら、即答で返事が返ってきた。

 もし、あの事件に俺が誰でも良い人物の一人として偶然巻き込まれただけだったとすれば、それ以降に起きた様々な出来事は酷すぎる。


 アーニャは喋り疲れたのか、一旦メロンソーダのストローを口にすると一口飲んで話を続けだした。


「シンクロ率95%以上のターゲットは、具体的には約45万人居る同時接続ユーザーの中でもあなたの居た廃人サーバーが一番多くて、それでも僅か25名だけなの」


「おいおい、廃人って… 」

 関係ない部分に俺は突っ込みを入れてしまったが、それを無視するようにアーニャは話を続けている。


「そして90%以上のシンクロ率も全体から見れば150名に満たない、希有な存在だったのよ」


 この時まで無関係な自分は、たまたま陰謀に巻き込まれただけ、そう思っていた。


「和也、ちなみにあなたのシンクロ率は100%よ」

「えっ、そんな嘘だろ!」


 自分のシンクロ率を聞いたのは、この時が初めてだったが100%ってのは、ネトゲ廃人として誇って良いのか、一般人として極めて恥ずかしい数字なのか微妙過ぎる数字だ。


 それに俺のシンクロ率が100%だとすると、俺は事件に巻き込まれたんじゃない事になる。

 俺を含む10数名を監禁するために、他の人達は目的を隠すダミーとして巻き込まれたって事になるんじゃないか!


 自分は偶然事件に巻き込まれただけ、そんな軽い認識で自分自身の当事者意識は希薄だった。

 それが急に当事者だと言われた俺は、その立場の大きな違いに戸惑ってしまった。


 確かに、昔からゲームに集中すると時間を忘れてしまうくらいに入れ込むタイプだったが、 そのせいでシンクロ率が高くなったとしてもそれは俺のせいじゃ無い。


「じゃあ、その俺を含むシンクロ率95%以上と言う数字にはどんな意味があったんだ?」

 シンクロ率が95%未満の存在との違いに関する俺の疑問に、アーニャは即答した。


「ある条件下に置かれ続けると現実でも魔法が使えるようになる確率が僅かながら存在したの、あなたが実際にそれは身を以て証明しているでしょ」


「確かに…… でも確率は僅かなのに何を根拠にそんな大がかりな事を?」


 そう言われれば、俺自身の存在がその証明となっている事は間違いが無い。

 しかし、その僅かな確率のために、そう無駄に終わるかもしれないのに多くの人を巻き込んで、犯人達のカルト教団自体の存続すら危ぶまれる程の大事件にする必要があったんだろうか?


 それに、仮に事件を経験して誰かが魔法が使えるようになったとしても、それを使えるのは犯人達じゃなくて無関係な一般の人じゃないか。


 ましてや、低い確率と言うのなら誰も魔法が使えずに終わる確率の方が圧倒的に高いはずだ。

 そんな危ない橋を渡って、犯人達にどんなメリットがあると言うんだろう。

 それは、犯人達の目的が判らない俺にとって当然の疑問だった。


「本当の理由はまだ判らないけれど、一般人から見て奇跡的な事象を起こせる存在と言うのは拡大期の新興宗教にとって喉から手が出る程貴重な宝とも言えるわよね」

 そう言った後で、アーニャはポツリと独り言のように呟いた…… 


「あるいは、教団関係者にシンクロ率95%以上の存在が居たとか、かな?」


 そう言いながらパフェに突っ込んだスプーンのクリームを舐めるアーニャは、そんな事には興味が無いかのように素っ気ない口調だった。


「いや、だけど、ある条件下ってのは何なんだ?」


 ゲームと無関係なカルト教団の犯人達が、どうやってそんな荒唐無稽な条件に行き着いたと言うんだろう。

 俺は素直に疑問を口にした。


「VRになる前の開発段階でオープンβテストが一時延期になったのは、ヘビーユーザーだった和也なら知ってるわよね」


 確かに、クローズドβテストが無事に終わってオープンβテストが始まる直前の段階で半年程テスト開始が延期された事があったのを俺は思い出した。


「確かにそんな事があったな」

 半年とは言えだいぶ待たされたけど、その分完成度は高かったから結果として不満は正直無かった。


「正確には205日、あなたたちが閉じ込められた期間も同じ205日よ」


 そう、俺たちがログアウト不能になってゲームに閉じ込められていたのは約7ヶ月弱、205日もの間だった。

 ゲーム内では現実時間の4倍で時が流れるから、体感時間では約28ヶ月もの期間閉じ込められていたのだ。


「そんなのは偶然だろう。 まさか偶然じゃ無いのか??」


「ゲーム開発と運営をしてるエリクサー社も、和也たちが入院していた医療法人伽峰会 新井大徳総合病院病院も、そして犯人だとして逮捕されたカルト教団も全部裏でダイクーア教団と関係があるって、さっき話したわよね」


「まさか、みんなグルなのか」

 予想外に大きな裏がありそうな話に、俺は思わず口に湧いた唾液を飲み込んだ。


「グルと言えばそうなるけど、まあ一部の開発陣を含む幹部連中は間違い無くダイクーア教団出身者よ」


「…… 」


 俺は何も言えなかった。

 しかし、続けてアーニャが俺に言った事の方が、より俺にとっては衝撃的で許せない情報だった。

 それが本当だとすれば、だが。


「あなたの友達… 、だったと言うべきかな、加賀見 義則も子供の頃からダイクーアの信者よ、彼の家は父親がダイクーア教団の地区リーダーをやってるわ」


「えっ… 」


 俺も、義則が何かの宗教をやっている事は気付いていた。

 ログアウト不能になったあの日、登校した俺に話しかけてくる義則に対して宗教臭い話を時々する奴、という彼に対する印象を思い浮だした。


 しかし、何も俺を勧誘してこなかったし、彼との付き合いにそんな事は関係が無いと思っていた。

 だからその話が何処に繋がるのか、まだ俺には判らなかった。


「葛西紫織、彼女はまだ信者じゃ無いけど彼女の母親は、最近勤め先の上司の薦めで入信したようね」


 アーニャは極めて事務的に衝撃的な情報を俺に告げてくる、何がどうなってるのかまだ俺には理解できない。

 例え本当だとしても、それがさっきまでのシンクロ率の話にどう繋がってくると言うのか。


 俺がゲームに閉じ込められた事による成り行きが引き起こした、ただの偶然だと思って居た事にまでダイクーア教団というキーワードが絡んでくる意味が判らない。


「もちろん、葛西紫織の母親が最近勤め始めた会社もダイクーア教団のダミー企業が経営しているグループ会社よ」


「いや、ちょっと待ってくれ…… 」

 話し続けるアーニャを止めようとする俺を無視して、金髪の少女は更に言葉を続けた。


「和也の父親を巻き込んで事故を起こしたトラックの運転手も古株の在家信者だし、トラック会社もダイクーア教団の傘下にあるわね」


「ちょっと待て、何を言いたいんだ!!」


 思わず声が大きくなってしまい、周囲の視線が集まってしまったがそんな事はもうどうでも良かった。

 いったい何処までダイクーア教団が俺に関わっていると言うんだ。


「妙蓮寺という和也のクラスに居る頭の悪い子たちも、みんなダイクーア教団の家族ぐるみの信者だと言ったらどうする?」


「じゃあ…… 、それじゃあ俺がゲームに取り込まれたのも、紫織が義則と一緒に俺から離れたのも、親父が事故死したのも、美緒があんな事になったのも、みんなダイクーア教団が関係しているって言うのか!」


 目の前で美味しそうにメロンソーダを飲んでいるアーニャは、俺に向かって人差し指をピンク色の可愛い唇に当てると座るように促した。


 気が付けば、俺はファミレスの座席から立ち上がってアーニャに向かって詰めよっていた。

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