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048:美少女からの誘い

「ねぇ、和也はあたしの国に来ない?」

「えっ?!」


 突然の金髪ゴスロリ美少女からの勧誘。

 俺はすぐに意味が理解出来ず、冷たいウーロン茶を飲んでいたストローを口に咥えたまま、軽く摘まんでいた右手で折りそうになった。


「和也は、自分が色んな国から狙われてるのを知らないの?」


 アーニャは、パフェのクリームを口に運びながら当たり前のように、非常識な言葉を投げかけてきた。


「俺なんかを何で… 」


 有り得ないでしょ!

 普通の高校生の俺なんかを何故、と言いかけて思い至った。

 あ、でも俺って全然普通の高校生じゃ無くなってたんだっけ。


 色んな国から狙われている?

 そう言えば、忌まわしい祭りの夜に俺を呼び出した奴らは間違い無く日本人じゃ無かったよ。


「思い当たる節があるわよね、普通なら」


 事も無げにパフェのクリームを口に入れながらそんな事を話すアーニャは、何処から見ても中学生くらいの子供にしか見えないが、その口調は見かけに似合わず大人のそれだった。


「俺の周りで何が起きてるんだ?… 」


 思わず、低い声でアーニャを睨み付けながら俺はドスの効いた(と自分で思う)声で問い掛けた。


「祭りの夜に俺を呼び出したあの騒ぎも、お前が噛んでるのか?」


「お前じゃ無い!」

 そう言ってプイと膨れて横を向く仕草は、どう見ても年相応の子供にしか見えなくて、問い詰めようとする俺の調子が狂ってしまう。


「アーニャ、教えてくれ何が起きているんだ?」

「ふふふ、どうしようかな?、ケーキも頼んでくれるなら教えてあげてもよくってよ」


「おまっ… 、いやアーニャさん?、これはお菓子で釣られるような軽い事柄なのかよ」

 まったく子供なのか大人なのか、調子が狂ってしまう。


 アーニャは、結局ミックスベリーショートケーキで手を打ってくれた。

 これで俺の周りで起きている何かのヒントが掴めるのかと、俺は飲み物にも手が着かずケーキが届くのを待っていた。


「和也は日本に居ても誰も守ってくれないし、身内が居ても一般人には和也を守れる力も無いわ、寧ろ危険な事に巻き込んでしまうわよ」


「クリームが着いてる口で、そんなシリアスな事を言われてもなぁ…… 」

 話の内容に動揺しているくせに、つい突っ込みを入れてしまう俺。

 どうしてもこの状況でシリアスになり切れない。


 だが、構わずに続けるアーニャには先ほどまで見せていた少女の雰囲気は微塵も無かった。



「あなたの不思議な力は、もう概知の事実として知られているわ」

 極めて当たり前のように、アーニャは嫌な事をサラリと言った。


 俺は無言で次の言葉を促す。


「初めはね、火を掌から出せる不思議な現象が研究対象として興味を惹いたの」

「何処でそれを… 」


 当然の疑問だ、俺は人に見つかるような事はしていないはずなのだ。

 倉庫でも全員を石にしたから証人は居ないはず… 


 いや、石にした人が残ってる事を失念していたが、それは火の話じゃ無い。

 掌から火を出したのは…… 


「あなた、病室で火を出して火災報知器を鳴らしたでしょ」

 思い当たって、俺は頷いた。


「ああ、そんな事があったな。 それを誰かに見られていたのか?」


「監視カメラって物を知らない訳?、あなた」

「なんで病室にそんな物が有るんだよ、プライバシーの侵害だろ」


「そう言う一般常識の範疇で語られるような平和な問題じゃ無いのよ、あなたの事は」

つい一般人の常識で反論する俺の甘さを指摘するように、冷たくアーニャは言い放った。


「だって、入院患者を盗撮してただなんて問題になるだろ」

 そう反論しながらも俺は判っていた、そう言う常識が通じる存在を相手にしているのでは無い事に、確信は無いものの想像はついていた。


「最初に各組織で話題になったのは、その監視カメラの映像よ」

「何処からそんな物を…… 」


「あなたが入院していた病院は、ある巨大カルト教団が経営しているって知ってた?」


「いや、でも宗教団体が副業をやってるのは、何処でもある事じゃないのか?」


 そう、宗教法人は様々な副業をやっている事は高校生の俺だって知ってる。

 ネット時代なら常識と言っても良い、ありふれたネタだ。


「ダイクーア教団って、聞いた事あるでしょ」


 その宗教団体の名前には聞き覚えがあった。

 確か、俺たちをゲームに閉じ込めたテロ組織のカルト教団がダイクーア教の派生組織だったはず。


「それがどう関係してるんだ?」

「あなたたちが入院した病院も、あなたたちが閉じ込められたVRゲームの運営会社もダイクーア教団の運営だとしたら?」


「あなたたち?、俺以外の被害者が入院した病院も同じ宗教団体の経営だって言うのか?」

 少し熱くなって詰め寄る俺を、闘牛士が突進する牛をフワリといなすようにアーニャは唐突に話題を元に戻した。


「ダイクーアはね、色んな国に支部を出していて危険なカルト教団として各国の諜報機関からマークされてるの。 知ってた?」


「いや、大きな宗教団体だとは知ってるけど、そんな話は初耳だよ」


 少なくとも自分から近寄りたいとは思わないが、危険だなんて認識は無い。

 それは日本人のほぼ全員が同意見だと思う、そもそも信教の自由は保障されてるし…… 


「でね、色んな国の公安組織だとかカウンターテロの組織がスパイを潜り込ませてるのよダイクーア内部に」


 なんだかドラマだとか映画のストーリーのような手垢の付いた何処かで聞いたような話だったが、自分が関係しているだけに俺は黙ってアーニャの話を聞くしか無かった。


「そんな中で、何処かの組織が手に入れてきたのが、和也が掌から火を出している映像なの」


 ……なるほど、さっきの話はここに繋がるのか…… 


「何処の組織にも二重スパイって存在が居るのは否定できない事実よ」


 自嘲するかのように、事も無げに軽く言うアーニャの話に、俺は何を彼女が話そうとしているのか、その全貌が掴めずに次を促すように無言で見つめるだけだった。


「でも、それだけにしてはダイクーア側の動きが妙だったの… 、映像だけ切り取って見れば、ただの手品でも再現は出来るようにも見えるわ」


 彼女は何を言いたいと言うのだろう、俺たちがゲームの中に監禁された事件と何か関係があるとでも言うのだろうか?


 確かに化学の原理を使った手品のネタで、掌に乗せた物を一瞬のうちに炎に変えて消してしまうような物があったと思うが、どうしてそんなありふれた場面が各国で話題になったと言うのだろう。


「その映像を見て何処よりも大騒ぎをしたのがダイクーア教団なのよ、そこにみんな違和感を持ったの、これは手品じゃ無い何かがあるって」


「何かって?」

 本当に俺は、彼女が何を言いたいのか判らずに聞き返してしまった。

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