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046:独りぼっち

 現実感の無いまま慌ただしく親父の葬儀が終わり、地元の火葬場で親父を見送った後、もう二度と来る事もないと思って居た同じ火葬場に俺は立っていた。


 あれからずっと部屋に閉じこもっていた美緒を、俺は1週間もしないうちに同じ場所で見送る事になった。

 あろう事か、俺とレイ婆が家を空けた僅かの時間に、何故か美緒は突然自らの命を絶っていたのだ。


 ここ数日は、元気を取り戻してたように思えただけに、納得が行かなかった。

 クラブ活動も、明日から再開すると元気に言っていた翌日の事だった。

 そんな美緒が、自分から死ぬわけが無いのだ。


 その時、第一発見者となった俺は茫然として何故か涙も、そして声も出なかった。

 元気だった頃の記憶にある美緒と、目の前に吊された物体の整合性が俺には付けられなかった。


 気が付くと、火力の加減を間違えたのか白い灰の中に僅かに残ってた美緒の骨は思いの外脆かった事だけが印象に残っていた気がする。


 死んだらみんな、ただの物になっちゃうんだな…… 

 俺はそんな事を考えていた。


 俺のせいだ、俺の行動が選択がすべて悪いんだ……

 ひたすら自分を責めていたせいか、不思議と親父の事故の加害者たちに対する怒りも希薄だった。


 俺は立て続けに起こった不幸の連鎖で、確実に心を病んでいた。

 しかし、当然の如くその時はそれに気付く事すら出来なかった。


 呆然としたまま、1週間が過ぎた。

 俺はイオ爺に引き取られて、親父の実家で暮らす事になっていた。

 当然のように、紫織が居る高校から転校する事になる。


 こんな事があったというのに、俺は紫織にもう会えなくなるんだなと、真っ先にそんな不謹慎な事を考えていた。

 でも、それも未練を断ち切るには良いんだろうと、そう考える事で自分を納得させた。


 今まで暮らしていた家は売る事になったが、不思議と未練はまったく無い。


 むしろ、この先もあの家に住み続けたくは無かったので、その事にはすぐ同意した。

 気が付けば、久々の登校日から3週間も経過していないと言うのに、俺は二人の家族を失って独りぼっちになってしまった。


 家族と言えば何処で知ったのか、あれから母親が何度か訪問してきて「俺を引き取る」と言ってきたが、考える迄も無く断ってやった。


 レイ婆に聞いてみれば、俺が居ないときにも何度かやって来て追い返されていたらしい。


 何をいまさら家族面して、というのが正直なところだ。

 ボロボロになった俺の心に塩を塗りたくる行為だということが、あの人には理解できないんだろう、きっと。


 勿論、祖父達や曾祖父達とこれから暮らすのだから本当の意味での独りぼっちでは無いのだが、自分の中では「独りぼっち」になったという感覚が強かった。


 祖父達の実家には、小さな頃から冬春夏の長期休みの度に遊びに行っていたから馴染みが無い訳では無いし、第二の故郷と言っても良いくらいに土地に馴染みもある。


 実家があるのは紀州の山の中にある田舎の村だが、元は庄屋だった八坂家は戦後の農地改革で大半を失ったとは言え、それなりにまだ山や畑などの土地もあるだけで無く、半農半業で村で唯一のモータースなども営んでいる。


 モータースとは言っても直すのは農機具が主体らしいが、高校を出たら専門学校に行って家業を継ぐのも良いかもしれないなどと、俺はそんな事まで考え始めていた。


 ゲームに取り込まれて以来俺の生活は、あっという間にそれまでとは一変してしまった。


 大事な存在だった紫織を失い、家族の柱だった父親を失い、可愛がっていた妹までも失った

 留年して学校にも俺の居場所は無いし、ひとりぼっちで家にも居場所が無いように感じる。


 まるでこの世の中全てが俺の存在を拒否しているかのように感じるのは、あの時から変わっていない。

 紀州の山奥に引きこもって、誰とも触れ合わずに生活するのも悪くないかと思うくらいなのだ。


 すべては、俺を支えてくれていた全てを失う事になった、この忌まわしい記憶に塗れた街から出て行ければ良かったのだ。


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