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043:怜依奈の怒り

 紫織を送り届け、程なくして祭りの会場に戻った俺は美緒を探した。

 当たり前だが、離れる時に居た場所には美緒の影も形も無い。


 レイ婆と一緒に居るのだろうと判断し、二人に合流するために美緒に連絡をする事にした。


 美緒のスマホに連絡をして見るが呼び出し音が鳴っているのに、いつまで経っても美緒は電話に出ない。

 祭りの騒音で呼び出し音が聞こえないのか、バイブにしているのか、どうしたって言うんだろう。

 漠とした不安が、俺の胸を過ぎった。


 レイ婆と一緒に居るのかと思い、レイ婆を呼び出してみるとレイ婆が電話に出た。

「もしもし和也かい、あんた何処に居たの?」

 問い詰めるような、きつい口調だ。


「婆ちゃん、まさか美緒は一緒じゃ無いの?」

 婆ちゃんの第一声を聞いて、俺は婆ちゃんを待たずに美緒を置いて行動した事を後悔した。


「出掛ける時に爺ちゃんから電話があってね、ちょっと家を出るのが遅れちゃったんだよ。 あたしが来た時には美緒は居なくてね、それで場所を聞き間違えたかと思ってちょっと辺りを探していたんだけどねぇ… 」


 スマホのスピーカーを通して聞こえるレイ婆の声のトーンが、急に変わった……




 時間は、和也が倉庫で戦っていた頃に、少し巻き戻る…… 


「お願い、帰して…… 」

 美緒の顔が、これから起こるであろう事への恐怖で強張っていた。


「それじゃ、頂いちゃいますね~」

「ひゃはぁ~楽しみぃ~ん」

 そう妙蓮寺たちが言って自らの腰に巻かれたベルトに手を掛けた瞬間、激しい音と共に作業小屋の引き戸が室内に向けて吹っ飛んだ。


「美緒!、ここに居るの?!」

 そう言って、作業小屋に飛び込んできたのはバルを左手に抱いて、右手にスマートフォンを持ったレイ婆だった。


「フゥゥゥゥ-…… 」


 レイ婆、いや八坂やさか怜依奈れいなの胸に抱かれたバルが、全身の毛を逆立てて威嚇音を発すると、自分から床に飛び降りた。

 逆立てた長い尻尾の太さは通常時の3倍ほどに膨れあがり、狸の尻尾のように太く見えている。


「な、なんだお前!」

「何でここが… ?」


 レイ婆が無言で発する凄まじい気迫に押された妙蓮寺たちが、意味も無く問いかける。

 それを聞いたからと言って、何がどうなるものでも無い。


 怜依奈が無言で妙蓮寺たちに示したのはスマートフォンの画面であった。

 そこには、インターネット地図アプリが稼働していた。


「GPSか…… 」

 妙蓮寺たちの中の一人がそう呟くと、他の全員が美緒の方を振り返った。


 レイ婆は妙蓮寺達に向かって、あまりにも静かな口調で言い放った。

「私の可愛い美緒は返してもらうわよ、」


 静かな語り口とは裏腹に、とんでもないプレッシャーを感じて妙蓮寺たちは一歩引いてしまった。

 戦前生まれだという年齢を考えれば凄まじいプレッシャーだ!


「美緒、大丈夫?」

 怜依奈は美緒の衣服の様子を見て、まだ事が始まっていなかった事に胸をなで下ろした。


 美緒はまだ襲われそうになったショックから立ち直れず、妙蓮寺たちに放り投げられた場所に座り込んだままだった。


 その哀れな美緒の姿を見て、怜依奈は妙蓮寺たちを無視して美緒の座り込んでいる場所へと無人の野を行くように、平然と歩を進めた。


「婆ぁ、舐めた真似してんじゃねーよ!」


 虚を突かれた放心状態から、状況を把握した妙蓮寺が怜依奈に向かって叫ぶが、怜依奈は意に介さず美緒に手を差し出している。


 妙蓮寺は床に落ちている鉄パイプを拾い上げると、仲間に目配せをした。

 仲間も一斉に、床の鉄パイプを拾い上げて、怜依奈に向けて構える。


「このまま、帰す訳がねぇだろうがぁ、クソ婆あ!」

 妙蓮寺が仲間の先頭を切って、鉄パイプを怜依奈の後頭部に向けて振り下ろした。


 刹那、怜依奈は後ろに目があるかのように振り返ると、自分の頭に向かって振り下ろされた鉄パイプに半歩踏み込むと、パイプの根元に外側から左手を添えて軽く横方向に押した。


 力の方向をズラされた鉄パイプは、アッサリと怜依奈の頭から軌道が逸れ、その勢いのまま合板の床に叩きつけられる。

 床の合板を打ちつける、激しい金属音がした。


 カランカランッ… !

 床を思い切り打ってしまった反動で、妙蓮寺は手に伝わる衝撃に耐えきれずに鉄パイプを手離してしまった。

 一歩引く妙蓮寺、鉄パイプは床を跳ねて怜依奈の足下に転がった。


「剣とは勝手が違うけど… お仕置きして上げましょうかしらね、坊やたち」

 そう言うと怜依奈は、軽々と1mはあろうかと言う鉄パイプを右手で一振りした。


 その作業小屋から鈍い音と共に、肉と骨の潰れるような濁った嫌な音が続けて聞こえた。

 しかし、祭りで賑わう中央通路から離れた場所にある作業小屋の周囲には他に人の気配もなく、誰もそれを聞くものは居なかった。




 レイ婆の連絡を受けて作業小屋に駆けつけた俺は、レイ婆に無言で頬を一発張られた…… 

 バッチィーン!といい音をさせて、超回復をもってしても俺は脳震盪を起こしそうになったくらいの凄い衝撃だった。


「何も無かったから良かったものの、最後まで面倒が見られないなら女の子を夜に連れ出すんじゃないよ!」

「ごめんレイ婆、俺…… 」


 後片付けを俺に任せたと言って、レイ婆はスマートフォンでタクシーを呼ぶとショックで何も喋らなくなった美緒を優しく抱きかかえて、資材置き場の小屋を出て行った。


 美緒は最後まで、放心したように無言だった。


 充分懲らしめたから警察には知らせなくても良いと、レイ婆は言って帰ったけれど、小屋の中の様子を見れば、懲らしめたという言葉の意味は充分に判った。


 小屋の中には、血だらけになって手足が変な方向に折れ曲がった妙蓮寺たちが転がっていたからだ。

 レイ婆は、切れると怖いとイオ爺が言っていた意味が俺にも良く理解できた。

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