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042:紫織の寝顔

 俺は紫織の側に行き、結界を解除するとその頬に触れてみた。


 暖かな体温を感じると共に、紫織への愛おしさが胸にこみ上げてくる。

 もう決して自分とは共に歩まないであろうその横顔…… 


 付き合っていた期間は決して長くは無いが、こんなにも他人を、いや目の前の紫織を好きになってしまっていたなんて、自分でも自分の気持ちに折り合いが付かない。


 その美しい横顔を見ていると、もう終わってしまったのだと判っていても、心が激しく揺れ動くのは止める事が出来ない。


 近くで義則も倒れたままだが、恐らく無事だろう。

 正直なところ、身勝手だとは思うが確かめる気にはなれない。


 縛られていた椅子から解放してやり、俺は俯いた紫織の顔を慈しむように眺めながら、床に腰を下ろして消費した魔力の回復を待つ事にした。


 魔力回復力向上を再度発動させて待つ事10数分。


 スキルの効果もあって魔力が充分に回復した俺は、紫織と義則に催眠導入ヒプノスキルを掛けて深く眠らせた。

 次に空間転移魔方ワープポータルを唱えて魔方陣を展開させると、二人を抱えて魔方陣の中心へと歩を進めた。


 紫織の自宅も、義則の自宅も知っている。

 一人は元彼女であり、もう一人は元親友だったのだから当然ではある。


 ワープポータルの出現ポイントは最寄り駅の多目的トイレ、飛ぶ前にワープポイントに対する遠隔監視のスキルで誰も居ない事は確認済みである。


 生憎と空間転移もワープポータルも二人の自宅は登録して無いので、そこからは光学迷彩結界を広く3人分の範囲で掛けて徒歩で移動する事になるが、身体能力向上ブレスが有れば可能だろう。


 左肩に乗せた義則を、最初に自宅の玄関脇に置いて催眠導入ヒプノと光学迷彩結界を解くと、俺は紫織を両腕で抱き上げて再び光学迷彩結界を張り彼女の自宅へと向かった。


 光学迷彩結界の中では、外から見えない紫織の姿は一緒に居る俺にだけ見えている。


 手を繋ぐ事にすら四苦八苦していたと言うのに、今は眠って意識の無い紫織を抱き上げているという矛盾。

 その柔らかく女性らしい体を慈しむように抱えて俺は夜の街を歩いた。


 俗に言う「お姫様抱っこ」の体勢で紫織を抱えたまま20分程歩くと彼女の自宅に到着した。


 彼女の母親が父親と離婚する時に、浮気の慰謝料代わりに貰ったと言う紫織の自宅。


 紫織が以前、母親の仕事の給与では維持するのが大変らしいと言っていたが、それは家族二人だけで住むのには広すぎるであろう二階建ての一軒家だった。


 家族が一人居ないだけで、それまでと違って家がどれだけ広く感じるのかは同じ経験をしている俺にも良く判る。


 時計を見ると、連絡があって美緒と別れてから1時間近くが経過していた。


 早く戻らなければ美緒とレイ婆ちゃんを心配させてしまうだろう。

 そう思うが、力なく俺の腕の中で眠る紫織の顔に目をやると、そこから再び目を離す事ができない。


 俺はそっと紫織を玄関脇に座らせると、自分も腰を下ろして紫織を抱きしめた。

 柔らかな体とミルクのような良い匂いを感じると、頭が痺れたように感情があふれ出して動く事が出来ない。


 いっそキスをしてしまおうかという想いが頭を過ぎるが、頭を振ってそんな雑念を振り切る。

 そして、紫織を抱きしめる腕を緩めて玄関脇にそっと寄り掛からせた。


 二人分の光学迷彩を解いてから自分にだけ掛け直して、玄関のインターホンのスイッチを2回鳴らし、母親らしき人影が近付いてくるのを確認してから、紫織の催眠導入ヒプノを解いた。

 そして、俺はその場を静かに立ち去った。


 空間転移ワープで飛び去る直前に紫織の母親らしき声がインターホンから聞こえたから、それほど遅滞もなく紫織は母親に見つけられるだろう。


 俺は気持ちを切り替えて、美緒が待っている祭り会場へと戻ることにした。

 空間転移ワープ先は祭り会場にも近い公園の多目的トイレ、誰も居ない事はスキルで確認してある。

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