003:シンクロ率
一般ユーザーにはあまり知られていないが、VRMMORPGにはシンクロ率という数値が存在する。
簡単に言ってしまえば、ゲームのキャラクターにどれだけ一体化できるか、という数値である。
VRゲームを楽しむには通常シンクロ率60%以上が必要で有り、中にはVRMMORPGそのものにダイブする事が出来ない人も僅かに存在したのは事実である。
このシンクロ率が高くなればなる程、自分自身とゲームキャラクターの一体感は増して行く。
このシンクロ率はゲームの操作性にも微妙な影響を与えるものであった。
それが100%に近いほど自分が意識せずにキャラクターが思うように(自分自身のように)動いてくれるのだが、シンクロ率が下がる程に自分が意識して動かすという気持ちが必要になる為、とっさの判断の僅かな遅れなどの影響をストレスとして感じる者も居る。
とは言え、それも僅か数ミリ秒の差でしかないのだが……
そんな理由があって、シンクロ率の低い者がその大半を占めるVRゲームは、気にしなければ気にならない程度の微妙な違和感がつきまとう事が当然のこととして扱われていた。
尤も大半の人は70%~80%台のシンクロ率で並んでいるため、ゲーム内での能力に大きな差は生じていない。
その上、今までの2D・3D表現のMMORPGと比べてしまえばゲーム世界との一体感は比べるべきも無い程の体感差があった為に、特別に問題視されるものでは無かった。
しかし、希に90%以上のシンクロ率を記録する者も存在している事が運営側の統計から判っているのだが、それは全体の1%にも満たない人数である。
更に95%をも超えるシンクロ率を記録する者が20数名存在している事は、運営側の公式発表資料には記載される事は無かった。
しかし、それが大きな意味を持っていることが後に判明するまでは、企業秘密の研究対象として扱われているだけだったのである。
そんな高シンクロ率を記録する彼らは、ソード&マジック全体でも極僅かしか存在しない極希な存在であった事を本人達は当然知らない。
しかし、シンクロ率95%以上の存在が有する戦闘能力そのものをシンクロ率70%の者と比較しても、特別に大きな違いは見られていない。
表向きは運営側としても問題にはしておらず、シンクロ率については将来の技術研究テーマとして継続調査という公式見解がゲーム雑誌のインタビューなどでリリースされてる。
後にある女の子に教えて貰った事なのだが、小学校の頃からオンラインゲームに填まってゲーム中毒となっていた俺は接続を始めた当初から高いシンクロ率を示していたらしい。
同様に95%以上のシンクロ率を安定して記録する廃人サーバーの20数名が、ゲームの開発・運営会社であるエリクサー社の極秘研究対象になっていた事を当時の俺たちが知らなかったのは、至極当然と言えるだろう。
しかも、個々のシンクロ率は公表されている数値では無いために、俺たちにとってはキャラクターとの相性が良いという程度の認識にしか過ぎないものだったのだ。