025:一本の電話
「もしもしメイン君?、今大丈夫かな?」
大丈夫と言えば大丈夫、取り込み中と言えば取り込み中とも言える絶妙なタイミングで、シリアスで非現実な雰囲気から一気に日常生活の雰囲気に戻ってしまって、なんか笑える。
「メイン君、どうしたの何か楽しいことでもあったの?」
「いや、パンギャさん、マジ助かりました、ベストタイミングですよ」
「え?、どう言うことなのか判らないけど、まあいいや。 一度会って話がしたいんだけど 今日とか明日とか時間取れるかな」
「えっ、今日って言っても、これからだと夜になっちゃいますよ」
「うん、実はねもうメイン君の住んでいる町の駅前にホテルを取って向かってるんだよ」
「どういう事ですか?そんな急に」
まさかパンギャさんまで俺を狙ってる奴らの仲間だったりするのかな?とふと思ってしまったが、次の言葉を聞いて会いたいという理由が判ってしまった。
「メイン君さ、オフ会の返事に冗談だとは思うけど、魔法が使えるようになったって書いて あったじゃない、あれってやっぱり冗談だよね」
なにやらパンギャさん、恐る恐るという雰囲気でまさか本気にしないだろうという部分に突っ込んでくる。
「え~、何本気にしてんすかぁ、魔法とか使えたら便利で良いですよねー」
え?、普通本気にしないネタを半信半疑とは言え、真面目に聞いてくるという事はパンギャさんにも何かゲームのスキルが使えるというような事が起きているのだろうか?
「まさか、パンギャさんゲームにのめり込み過ぎてモンクとかニンジャのスキルが使えるようになっちゃたりして~」
「……」
俺の冗談っぽい鎌掛けに応えず、黙り込むパンギャさん。
「ちょっ、何黙っちゃうんですかマジで信じちゃいますよ」
「どうしてメイン君は信じられるの?、普通信じないでしょ」
逆に、同じ疑問をパンギャさんに持たれてしまったようだ。
これは、もしかするともしかするのかも……
「すみません、パンギャさんの仰りたい事は判ります、オフ会の打合せなら明日ホテルに伺うのは申し訳無いので、後で連絡します」
あの誘拐未遂騒動の後だけに、なんだかこのままパンギャさんと機微な内容を電話で話すのはヤバイという気がしたのだ。
「オフ会、ああそうだったね打合せしないとね」
「会った時にお話します、それじゃ家に帰らないと家族が心配しますので。」
そう言って、電話を切るとビル陰にある狭い路地裏に入り、自宅の部屋へと空間転移した。
部屋に帰ると突然現れた俺に驚きもせず、バルはベッドの上で香箱を作って待っていた。
さっそく恒例のお腹フニフニをして癒やされると、バルを肩に乗せて階下へと降りて行く。
あの電話の様子と、急に会いに来たという状況と合わせて考えて見ると、恐らくスキル絡みで何かがあったのかもしれない。
自分だけが特別なんて思って居ないから、もしかするとゲームに閉じ込められた人達すべてが魔法やスキルを使えるようになっているなんて事だって有り得るかもしれないのだ。
寧ろ、自分だけでなく全員がそうなっているとしたら大騒ぎだろう。
もしかすると、俺を拉致しようとした人達も俺のスキルが目的だったりするのかもしれないと考えると、ある意味納得が行く。
そうでも無ければ、俺なんて狙われる筈が無いのだから。
しかし、何処でバレてしまったのか……
あるとすれば病院で火事騒ぎを起こした時だろうか、あの時は使える事が嬉しくて試してみたくて我慢が出来なかったのだ。
まさか火災報知器が作動するとは思って居なかったけど、それくらいしか表で目立つ事をした覚えは無い、筈なのだが……
ところが、そう思って居るのは和也だけで実際は部屋を外部からサーモグラフィーで監視されており、携帯電話の通話やメールは勿論の事、街中にある監視カメラの映像は当然のようにモニターされており、昼間は空に飛行船、軌道上からは監視衛星が家を監視していたという事を知らないだけなのであった。
その日、俺はスマートフォンから紫織と義則を着信拒否にしてアドレス帳から二人を削除した。




