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022:スキルの確認

 俺が書店で購入したのはソード&マジック エンサイクロペディアという攻略本だ。

 かなり厚めで、それなりの価格がするが全職業のスキル解説が載っているという便利な本である。


 最近追加されたスキルについてはネットの攻略サイトを参照する事にして、電車に乗って2時間程掛かる海に行き、少しばかり海を見ながら攻略本を読み帰ってきたら時刻はもう夕方になっていた。


「和兄ぃ、何処行ってたのよご飯冷めちゃうよ」

 家に帰ると美緒がブンプン怒っていたけど、どうやら皆で俺を待っていたようだった。


「ごめんごめん、なんか海が見たくなって…」

「もう心配したんだから、スマホくらい持って出てよ」

 美緒はとりつく縞もない程機嫌が悪い。


「いや、マジちょっと散歩のつもりだったからさ…」

「言い訳は良いから連絡くらいは取れるようにしてよね、和兄ぃの事を心配するのはもう嫌なんだからね」

 見る見るうちに美緒の目から溢れてくる涙を見て俺は大いに慌ててしまう。


「ごめんごめん、ほんとごめん、次から気をつけるからさ、心配させてごめんな美緒」

 そう言って美緒の頭を撫でると、ようやく機嫌が戻ったようで一安心だ。


 そんな様子をレイ婆とイオ爺が笑って見ている。

 親父は、いつものように仕事で遅いんだろう。


 次の日はレイ婆にお弁当を作って貰い、朝から出掛けることにした。


 弁当をショルダーバッグに入れて水筒にスポーツドリンクを満たすと自転車に乗って家を出る。

 筋力の落ちた体では何処にも行けないので、魔力消費型防御結界エナジーコーティング身体能力強化ブレス加速スピードアップと自身に立て続けにブーストを掛けると手元の変速レバーを操作して順次ギアを上げて自転車を加速させてゆく。


 通常の防御結界ではなく魔力消費型防御結界エナジーコーティングを使うのは、単に効果時間が長くて便利だからだ。


 索敵魔法で周囲の状況を把握しつつ交差点の出会い頭で事故を起こさないように注意しつつ時速30km程で巡航していると赤信号に引っかかってしまう。


 渋滞をすり抜けて前に出て、停止線で止まった処で首の後ろに違和感を感じて後ろを振り返ると、やはり上空に飛行船が見える。

 この処、毎日見かける飛行船だった。


 そのまま自転車で走って駅の入り口に着くとレンチですぐに自転車を折り畳み、輪行袋に入れて駅の階段を降りて行く。


 そのまま構内の多目的トイレに自転車を持って入ると鍵を掛ける。


 上を向いて一息つくと、防犯カメラの位置を確認する。

「まずは、アイテムBOXを開いてと…」


 そう念ずると腰元辺りの空間が口を開いたので、自転車を持ち上げて突っ込むと小さな穴に吸い込まれるように消えて行く。

 これは昨夜何度も試した通りだから驚くことではない。


 アイテムBOXを昨夜初めて開ける時は、少々ドキドキした。

 何しろアイテムBOXには様々なアーティファクト級アイテムからイベントアイテムやポーションや素材まで様々な物が放り込んであったから、ゲームの時のまま入っていれば凄い事になるだろうと思ったのだ。


 だがしかし、残念ながらアイテムBOXは空だった。

 ゲームから引き継いで来られたのは魔力とスキルと空のアイテムボックスだけのようだ。


 トイレで手早く自転車をアイテムBOXに仕舞い、昨日出かけて転移ワープポイントとしてメモした海岸まで空間転移ワープしてみると、一瞬のタイムラグも無く自分が昨日来た海岸のトイレの裏手に居る事が判った。

 俺は、それを確認して小さくガッツポーズを作った。


 ここなら、あの気になる飛行船も居ないから余計な心配は無いだろうと一安心した。

 その後は駅からローカル線に乗り換えて30分、終点からバスに乗って1時間程で母親が産まれた町にやってきた。


 小さい頃に母と父に連れられて磯遊びに来た朧気な記憶しか無いが、バス停を降りてしばらく歩くと海へと向かう小道があった。


 その細い道は使われていないかのように雑草が生い茂っているが、記憶を頼りに磯場へと下る崖沿いの獣道のような荒れた通路が見えるが、途中で崩れて先へと進めなくなっていた。


「うそん…」

 人目に付かない海岸を探してここへ来たと言うのに、通行止めになっている通路から海岸までは60m~70mくらいはありそうだ。

 風魔法で浮揚してみようかと思ったが、リアルで使ったことの無い魔法の使い勝手に自信が持てないから止めて実績のある空間転移をしてみる事にした。


 空間転移は周辺ランダム、目視した場所への移動、メモした場所への移動と3種の移動法がある。

 いささか遠いが、眼下にある海岸の岩場へ空間転移する事にしたのだ。


 集中して上が比較的平らになっている大きな岩を出現ポイントに選び、脳内に移動先をイメージして確定させる。


 無事に岩の上に降り立つと一安心して座り込んでしまったが、とりあえずこの大きな岩の上を空間転移用に座標メモしておこう。


 ここは周囲を高い崖に遮られていて、海側は沖に漁船の姿も見えない一面の岩場が広がる磯場で、道路が崩れてたから人も来る心配がない。

 ここで魔法のテストをするのだ。


 ここなら、誰にも見つかることは無いだろう。

 周囲を警戒するように見渡してみると、目視でも索敵スキルでも引っかかる存在は無い。


 少し離れた崖の近くに何を祀っているのか判らない、古ぼけた御幣で囲われた小さな岩を彫って作られたような祠があるだけだ。

 ここに来る道が崩れているから、今は誰も手入れをする人も居ないのだろう。


 安心して俺は魔法のテストをする事にした。

 まずは射程の確認だ。


 初級のファイヤーボルトを単発で5mほど先に落としてみる。

 ボシュン!という音がして岩の上に落ちたファイアーボルトは一瞬激しく燃え上がると消える。

 炎が消えた跡には一部が蒸発して欠けたブスブスと赤熱する岩が残っていた。


 次は10m、問題無い。

 では15m、20mと少しずつ距離を離して行く。

 50mまで離れると些か様子が判りにくくなるが、まったく威力も変化が無いようだ。


 一気に100m程離れた大岩を狙ってみるが全然問題が無い。

 空間転移で近づいて確認してみるが同じような溶け方をしている。

 距離で威力が落ちるという事は無いようだ。


 試しに誰も居ないことを空間転移と生体索敵能力を使って確認後に、1km程先にある大きな岩を狙って見たが威力は変わらなかった。


 これ以上は自分の目が付いていかないので射程についてはテストを取りやめて、魔法そのものの威力を試してみる事にした。


 30m程の距離にある大岩に向けて赤い初級ファイアーボルトを10発落としてみると、ボボボボボボボボボボッと言う炸裂音の後に岩が蒸発して溶岩が発する黒煙だけが残っていた。

 これはヤバイ、こんなの使う機会そのものが無い程の威力だ。


 続けてコールドボルトを落としてみると赤熱していた溶岩が一瞬で凍り付いて砕け散ってしまった。

 その他の魔法も順次試してみたが、まったく問題無く使えてしまう。

 問題と言えば、その威力がありすぎて実際に使えないだろうという事が判った事だ。


 なんだかMPも相当使ったようで、ちょっと疲れたので最後に取っておきを試して弁当を食べることにした。


 これはゲームの時と同じであるなら威力がヤバイので海に向けて放つ事にして、掌に魔力を集中させて行くと掌の上に見る見る赤い玉のような火属性の魔力が凝縮された物が生成されてゆく。


 余り大きくすると洒落にならないので、ビー玉くらいの大きさになった処で海に向けて発射する。

 一瞬で30mほど離れた海中に突き刺さった魔力玉は水中で大爆発を起こして盛大な水柱が上がった。


 ちょっと近すぎたようだ、俺は噴き上げられた海水が豪雨のように降ってきてずぶ濡れになってしまった。

 こんなもの例え戦争でも、使ったらヤバイでしょ。


 なんか自分の能力にワクワクしつつも人間じゃ無くなったような不安も同時にこみあげてくるんだが、どうすりゃ良いんだ俺。

 広範囲大魔法とか威力がありすぎて試せる訳無いし、なんか逆に困った感じがする。


 ゲーム内での魔法の威力は10段階でコントロールをしていたんだが、最弱レベルでもこの威力では更に10分の1、100分の1レベルで魔力のコントロールをしないと駄目なんだろうな。


 俺はレイ婆ちゃんが作ってくれたお握りを食べながら、そんな事を考えていた。

 便利に使えるのは空間転移ワープくらいかなー、でもそれも他人に見られないようにって考えると微妙だよな。


 ふと気が付くと爆発の破片が飛んで来て引き千切ってしまったのか、少し離れた場所にあった祠に取り付けられた御幣がつけられていた縄が切れて垂れ下がっていた。


「やばっ、罰が当たったら困るな」

 そう思ったので、なんとか古びた縄を結ぼうとしたが縄は古く劣化していて、俺が触ると逆に崩れて却って収拾が付かなくなってしまった。


 よく見れば縄は中央部と両端の太さが異なっていて注連縄のようになっていたが、もうどうしようも無いくらいに崩れてしまっていた。


 同時刻、衛星軌道上にある某国の監視衛星が日本上空を通過中に高熱源反応を感知していた事を和也は知らなかった。

 和也の魔法による爆熱は岩が蒸発する程のものだったので、確実に感知され情報は地上の監視基地に即時届けられていた。


 注連縄を周囲にある草で結んで繋ぎ合わせる事が出来たので、安心して岩の上に腰掛け保温ボトルからスポーツドリンクを飲んでまったりしていると、スマホからメールの着信音がした。


 紫織の着信音だと気付き、慌ててバッグからスマホを取り出してメールチェックを行う。

 本文の内容は「会って話したい事がある」という用件と日時を指定した短い内容だった。


 すぐに折り返し承諾の返信メールを送ったが返事は無い。

 直接紫織の番号に電話を掛けてみるがコールは虚しく鳴り続けるだけだった。


 どうしたって言うんだろう、何かが紫織に起きている事は間違いが無いようだ。

 紫織の身に何か悪いことでも起きたのだろうか?


 何があっても彼女の力にならなくては、そう思って俺は拳を握り締めた。


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