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001:生還

「ん?……」

 

 最初に目に入ってきた白い光の眩しさに目が慣れてくると、目覚めたばかりの俺の頭は少しずつ状況を認識し始めた。


「あれ、ここは?」

 俺は小さくそう呟くと、横になった姿勢のまま頭を動かして辺りを見回す。


 最初に目に入ってきたのは、白い部屋と白いカーテン、そして消毒薬独特の臭い……


 まだ醒めきらない頭で状況を整理してみると、俺はどうやら病院のベッドで寝てるらしい……

 俺は目覚めたばかりで覚醒しきっていない頭の中でそう判断した。


 直前までの自分の記憶を遡って何があったのか思い出そうとしてみたが、確か…俺は支援職の欠員募集をしていたパーティに飛び入り参加して、新しく解放されたダンジョンの深層を攻略していたはず…


 戦闘中にモンスターの集団をトレイン(引き連れて)して来た奴に間近で空間転移ワープされ、いわゆるMPK(モンスターを利用した違反行為である[擦りつけ])の被害にあった事を思い出した。


 既に既存の敵を相手にしていたタンク役のパラディン(聖騎士)は予期しない大量の敵の攻撃を受けて見る見るうちにHPが減って行き、それを支援するもう一人のプリースト(聖職者)もMP(魔法力)が相当厳しくなっているのだろう、比較的高価なMP回復薬を使用する青いエフェクトが見えていた。


 俺も被弾する仲間の為に、役割であったブースト(回復支援と体力増強・速度増加などの)魔法に加えて治癒魔法ヒールを多用する事になり、余裕のあったはずのMP(魔法力)残量が厳しくなっていた。


 後ろにポジショニングして大量殲滅役を請け負っていた魔法使い(ウィザード)が横湧きしたモンスターによって被弾すると、一気に膠着していた戦況は大きく悪化した。

 魔法使いの詠唱が被弾によって中断させられたのを見て、俺は彼に付いたモンスターのタゲ(モンスターからの攻撃目標)を取ろう(身代わりになろう)とした時に…….


 ドクン!と痛い程に心臓の鼓動が高鳴り、一瞬にして覚醒途中の頭はパニックになる。

 思わず俺は白い布団を撥ね除けて叫ぶ!


「ヤバイ ヤバイヤバイ、落ちた? ヤバイ、ヤバイって!!」


 [落ちる]とはログオン中のオンラインゲームから何らかの理由によってゲームとの接続が切れることで、パーティを組んで戦っている場合、これは大変なことになる。


 この場合、ゲームの中に於いてキャラクターの姿は周囲にいるオンラインのメンバーには一瞬残っているように見えている。

 しかし、ゲームへのネットワーク接続が切断されている為に、その姿は固まってしまったかのように動かなくなり、やがて一定のタイムラグの後に画面からログアウトするように消えてしまうのだ。


 オンラインゲームの黎明期には頻繁に起きていた事なんだが、仮想現実の世界に没入できるVRMMORPGが全盛となった現在では、まず起きてはならない事故である事は間違い無い。


 俺は、必死でVRマシンを操作して再ログオンをしようとして気付いた、ここがVRネットカフェでは無い事に。


 目の前にあるのはVRマシンの操作パネルでは無く無機質な白いカーテンに仕切られた空間で、頭に装着されているのはVRマシンのヘッドギアではなく、いくつかの検査用と思われる電極線のコードだった。

 腕にも違和感を感じて目を遣ってみれば、そこからは点滴のチューブが延びている。

 ようやく自分の置かれた現実を認識できた俺は、一気に気が抜けてしまった。


「俺は、戻って来られたのか?」


 自分の両手を見つめながら、俺はそう呟くと同時にひどく安心してしまい、力が抜けて視界が徐々にブラックアウトしてゆく。


 今更に思い返して見れば、先ほどまで見ていたモンスターに囲まれた絶体絶命の状況は、まだVR化されていないオンラインゲーム初期の頃の苦い記憶だった事を思い出していた。


 自分が見ていたのが夢だった事に安心すると、再びベッドに倒れ込むように横になって、俺は徐々に意識が薄れていった。


「俺は、紫織の居る世界に戻って来ることが出来たんだ…… 」


 それに少しばかり遅れて集中治療室のスライドドアが乱暴に開かれると、看護師の女性が医師らしき男性と共に病室へ駆け込んで来たのが見えた。


 それが、意識の途絶える直前に俺の目に映った光景だった。

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