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018:シンクロ率95%以上

「鏑木だ… ああ、ゲーム内拉致被害者リストの中からシンクロ率95%以上の者全てに覚醒の兆候が見られるか至急調査を開始してくれ、そうだ局長の許可は下りた、1週間後に報告書を上げてくれ、最優先事項だ」


 鏑木は局長室を出ると廊下で携帯電話を取りだし、歩きながら小声で部下に指示をしていた。


「そうだ、八坂和也については既に覚醒の疑いがある、鮫島にはこちらから指示をだしておく」

「ああ、そちらからも裏にバックアップを2名付けてくれ、あいつはやり過ぎる性向があるから監視を付けてくれ」


 鏑木はこの一件が公安調査部に潜入している調査員からもたらされた時に、荒唐無稽な話と信用せず放置していた。


 法務省直下の公安調査庁に調査部と呼ばれる部署は表向き存在しない事になっているが、国内の治安維持に関する非合法な極秘調査を行う部署として存在している事は、同業組織にとっては概知の事実である。


 公安調査庁調査部も鏑木と同様の判断だったようだが、公安調査庁調査部が内偵しているダイクーア教団幹部に近い筋からも同様の情報がもたらされ、また同じく今回のサイバーテロ(ネットゲーム拉致監禁)事件を主導したマサラ教団内の潜入調査員アンダーカバーからも興味深い情報が上がってきた事で事件は別の展開を見せたのだった。


 無作為に見えたネットゲーム内拉致監禁事件と呼ばれる事件の被害者には、ある共通項があった。


 ゲーム運営会社から警察が押収したゲームの内部資料によると、拉致された被害者は当初レベルも性別も無作為抽出された運の悪い人達であると思われていたが、VRゲーム特有の「シンクロ率」に注目してみると有意な偏差が見られたのだ。


 ゲーム内でのレベルも様々、性別も偏りは無く、ゲーム内での職業も所属ギルドも年齢も居住地域さえも無作為であったが、唯一シンクロ率だけが特定の視点で見ると作為的に集められている事は明白だった。


 一見するとシンクロ率も60%台から100%に至るまでバラバラに集められているように見えるが、これを95%以上の人間にフィルタリングすると当日サーバーに接続していたシンクロ率95%以上の人間は全員(100%)が拉致監禁の被害者となっていたのだった。


 シンクロ率95%以下の被害者は目的を隠す為のダミーであり、犯行の目標がシンクロ率95%以上の人間だった事は明らかだった。


 そのうち事件発生以前からシンクロ率100%を常時記録していたのが1名、常時では無いが一時的に98%~100%を計測した記録が有るのが別に6名、他の95%台の被害者も半年を超えるゲーム内監禁生活の中で一様にシンクロ率が数%の上昇を見せており、解放時までには平均して全員が3%~5%のシンクロ率上昇値を計測されていた。


 そして、常時100%を下回らなかった唯一の被害者というのが、八坂和也と言う高校生であったのだ。


 意図的に95%以上のシンクロ率を示す者が集められたと見ると、この事件の見方は変わる。


 他の者はそれを隠すカムフラージュとしてランダムに拉致されたのであり、今回の目的そのものが表に出ているサイバーテロではなく95%以上のシンクロ率を示す者達に対する、何らかの別の意図をもって行われた事件ではないのかという疑問が浮かぶのである。


 別の意図とは何か…


 95%以上のシンクロ率とは何を意味するのか、何故95%以上のシンクロ率が必要だったのか、そこが問題解決の鍵となる事は容易に想像できる。

 しかし、恐らく95%という区切り自体には大きな意味は無いだろう。


 ゲーム運営会社の内部資料によれば、シンクロ率とその人数から作成されたグラフを見てみると95%を区切りとして100%迄は極端に構成人数が少ない事が判る。

 つまり、シンクロ率が95%以上を示す存在はVRネットゲームに於いて非常にレアな存在という事になる。


 そして、それは既に一つの答えが出ている。

 ある病院の監視カメラの映像が一つの波紋を投げかけたのである。


 ダイクーア教団に潜入している内偵者から入手したその映像は、点滴の針を通さない一人の少年のものであった。

 それだけであれば、次の挿入時には何事も無く針が腕に刺さっているのだから看護師の不手際と言う事もできるだろう。


 しかし、その次に映っていた映像は衝撃的なものだった。


 個室で少年が掌から炎の玉を出したのだ。

 火災警報装置が作動して慌てた少年は火を消すと何事も無かったような振りをしたが、火災報知器が作動すると言う事はそこに物理的に熱源が存在したと言う事になるのだ。


 何処から火を出したのか、出しただけでは無く炎は掌から浮いて存在していたように見える。

 火災報知器が作動する温度であれば少年は掌を火傷しているのが普通であるが、その様子も見られない。

 いや、掌だけで済む熱量では無いのだから、無事でいられる訳が無いのだ。


 映像と火災報知器の動作記録を見れば、八坂和也と言う少年が物理的に火災報知器が感知するだけの熱量のある何かを突如予備動作無しに出現させた、これは事実としか言えない。


 その少年がゲーム内拉致被害者であり、シンクロ率100%を常時記録して居た存在である事になんらかの関連性が有るのか無いのか、本当に事実なのか、それを調査する必要があるのだ。


 他の諜報組織にも同様の情報が流れているのは間違いない。

 ダイクーア教団も何やら、この件で動きを見せている。


 何故この映像がダイクーア教団に存在していたのか、八坂和也が入院してた病院とダイクーア教団の関係も調査が必要であろう。


 全てを疑い出すと、今まで見過ごしてきた事象も再検討が必要になろう。

 人命優先の無償行為として賞賛を浴びていた、運営会社によるいち早い被害者への救命措置も考えて見れば対応が早過ぎると言えるかもしれない。


 全ては早急に再検討が必要なのだ、必要とあれば八坂和也と言う少年の身柄を確保してでも。


 鏑木は、自分の判断ミスにより初動が遅れたことを悔やんだ。

 この遅れは多少の無理を通してでも挽回せねばならない、最優先で!


 鏑木の脳裏に冷酷そうな犬塚局長の顔が浮かぶが、それを振り払うようにして到着した下りエレベータの中に消えて行った。


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