010:エクソーダス結成秘話
二人がその狩り場に着いてみると、1組のパーティが多数の高レベルモンスターに囲まれて崖を背に苦戦している。
よほど無茶なモンスターの誘導でもして集めなければ、これほどの状態にはならないはずだと俺は思った。
そのパーティ構成は5名で、ハイウィザードらしき格好の人が今は支援職も兼ねているようで、MP回復ポーションの青いエフェクトを胸の辺りで連発しながら散発的にヒールをダメージを受けた仲間へと飛ばしていた。
別の一人は小柄な女性のハイプリーストのようだが、メイスをモンスターに叩きつけて相当な高ダメージを示す数字が上がっていた。
それを見る限り、彼女は職業こそ支援職のハイプリーストでありながらも、支援に必要なステータスよりも前衛として必要な数値を極端に上げている事が判る。
つまり、彼女の示す攻撃力の高さは逆に支援能力が高く無い事を示しているのだ。
彼女は極めて特殊な育て方をされた、殴り専業のハイプリーストだった。
続いて前衛に立っているのは大きな盾を持つ大柄なパラディンらしき男性重騎士とソードマスターっぽい刀を持った女性剣士が着実にモンスターを片付けているのだが、殴りハイプリーストと合わせて前衛3名で3方を受け持つには余りに敵の数が多過ぎるように見えた。
パーティの後方、崖の手前には女性スナイパーが遠距離攻撃を仕掛けてくるモンスターにエフェクトの付いた矢を放っているのが見える。
その隣でハイウィザードの衣装を着た赤い髪の女性が支援魔法を使っていた。
おそらく、彼女がハイウィザードとしての役割を果たせる状況であれば、こんなに苦戦はしていないのだろう。
個々が示す攻撃力(モンスターの被ダメージ)の大きな数値と回避能力や受けるダメージの数値を見れば実力者揃いなのが判る。
プリーストがパーティを抜けてハイウィザードの彼女が攻撃に参加できず支援スキルの行使に偏らざるを得ない状況が、今のこのピンチを生んでいる事は明らかだった。
この狩り場のこの場所でこんなに大量のモンスターがPOPしてくるなんて言う通常ではあり得ない状況を見て、ここに来る前にパンギャさんが言っていた「嫌がらせ」という言葉が頭に浮かんだ。
俺は既に走り出しているパンギャさんに支援魔法のフルセットを掛けると、自分も走りながら崖の前に固まっているパンギャさんの仲間たちが居る直下の地面に回復支援聖域を設置した。
彼らが居る範囲の足下ギリギリに設置された回復支援聖域は、パンギャさんの仲間たちだけを対象に連続してヒールを掛けているように生命力を一定時間連続して回復させてゆく。
パンギャさんは走りながら、気功術を唱えて気功球と呼ばれるエネルギーボールを自分の周囲に複数浮遊させてゆくのが見えた。
俺も、エネルギーコーティングと防御結界を重複展開して後を追う。
突然俺に[いつか還る日まで..]と言うリリカルな名前のパーティへの加入要請が飛び込んでくると同時にパンギャさんから「入って!」と短いメッセージが届いた。
それを即時承認するのと同時に、目の前で苦戦しているパンギャさんの仲間たちの名前とHPの状態がキャラクターの頭上に表示される。
ハイウィザードのアモンさん(♀)はMP回復ポーションを連打していたと言うのにMPが半分を切って黄色くなっているし、重騎士のハイドさん(♂)のHPは三分の一まで減っていた。
殴りプリーストのミリアムさん(♀)のHPは真っ赤になっている。
スナイパーのミッシェルさん(♀)のMPは、スキルの使い過ぎなのか既に枯渇していた。
ソードマスターのジュディスさん(♀)もスキルの使いすぎか、MPの残量が厳しそうだった。
俺はそのままMP回復力増強を発動、パンギャさんと俺を含めた7名から一斉にスキル発動のエフェクトが発生したのを確認するとHPの少ないハイドさんに最大レベルの回復量を誇るエクストラヒールを連発して、ちょっとしたボスモンスター並の膨大なHPを充填してゆく。
それに気付いたのか、ハイドさんが笑顔で俺に剣を持つ方の片手を突き出して親指を立てて来る。
俗に言うサムズアップと言う奴だ。
アモンさんからも、人差し指と中指の二本を立てて頭の横からこちらに向けて振るお礼の挨拶が短く飛んできた。
他の人達からも、『ありがとう!』『助かった!』と言うお礼の囁きが飛んでくる。
いち早く敵の群れに到達したパンギャさんが、範囲攻撃スキルの[爆裂掌]と[地爆脚]を使って、仲間を取り囲んでいるモンスターの大群をまとめて弾き飛ばしている
俺もアーススパイクを最大レベルで発動させて、手前の効果範囲内に居るモンスターの壁を地面からタケノコのように無数に突き出した石の巨大な棘で串刺しにして崩しに掛かった。
そのままテレポートでメンバーの中に飛び込もうとするが、密集していて隙間がなさそうなので火炎防壁を俺の進行方向に対して縦向きに平行して2つ、モンスターの壁の中に発動させて火炎防壁の両側にいるモンスターをノックバック効果を利用してはじき飛ばした。
2つの火炎防壁の間に取り残されたモンスターは、片側の火炎防壁で反対側へと弾き飛ばされるとその反対側の防壁に衝突して逆に弾き返され、二つの火炎防壁の間を高速でキャッチボールを繰り返すようにダダダダダダダダとダメージを連続で数え切れない程の回数受けると、エフェクトを残して消えて行った。
その火炎防壁で開いた通路を通って、俺はパーティメンバーの元へ走り込んだ。
続けてパーティメンバーの左右と前へ囲うように火炎防壁を二重に設置して突破されるまでの僅かな時間でMP回復力向上を再び掛け直し、全員に支援魔法と防御魔法をフルセットで掛けてから、MPが黄色かったアモンさんとミッシェルさんに魔法力譲渡で二人のMPを満タンにしてやると、カスカスになった自分のMPを回復するためにMP回復ポーションを5本飲み干して少し腰を落とした。
ポーションを飲む前は、流石に俺のMP残量を示すバーも黄色から少し赤入る辺りに減っていたから、少々やり過ぎたかもしれない。
俺という支援職が来たことで、アモンさんは攻撃に特化することが出来たので、鬱憤を晴らすように雷を落とすわ隕石を落とすわ火炎弾を落とすわと圧倒的に攻めまくる。
パンギャさんと言う前衛が一人増えたことと、支援魔法でフルパワーになり全員が立ち直った事もあり、前衛陣もここぞとばかりにスキルを使って一気に攻めまくる。
スナイパーのミッシェルさんも範囲攻撃で高速に矢を放ちまくるという、先程までとは真逆な展開になった。
力の均衡が僅かに崩れていた事からの決壊だったので、二人増えて攻勢に出てしまえばレベルカンスト揃いの7人パーティ、怖い物はそうそう無いという、当たり前な状況になる。
殲滅祭りが終わってようやく片が付きそうな処へ、モンスターを大量に引き連れて別のパーティがやってきた。
全員が同じギルドらしく、オリジナルデザインらしきギルドマークが見える。
それは、黒い翼に血のように赤くて下が上に比べて長めの十字を模した星形が重なる、陰気なデザインの紋章のようだった。
「もしかして変なパーティに絡まれたって、あいつら?」
そうアモンさんに問いかけると、アモンさんが答える前に前衛にいた殴りプリーストのミリアムさんが答えてきた。
「そうなのよ、冗談じゃ無いわよ! レアなドロップ品が出たら横から寄越せっていちゃもんつけてきてさ、断ったらこっちが攻撃しているモンスターにヒールを掛けるわ支援魔法を掛けるわで、最後は集団で擦り付けよ。なにあいつらマジむかつく!!」
街で募集したプリーストさんは、その嫌がらせを受けてパーティを解除して逃げてしまったらしい。
そのプリーストさんが言うには、目を付けられるとしつこく嫌がらせをされる事で有名な極悪ギルドらしい。
言われてみれば、そんな人達が居るというのは噂では聞いたことがあったが、まさか実際に目にするとは思わなかった。
俺はそれを聞いて、範囲内で5秒間だけ一切の魔法が使えなくなるマジックプロテクトを奴らの進んでくる前方に設置した。
5... 4...
その因縁をつけてきたパーティのメンバーは5人。
片手剣と大きな盾を持った剣士と両手剣を持った騎士、スナイパーの下位職であるアーチャーとウィザードとプリーストの組み合わせだった。
3...
全員が若く、どう見ても10代と思われる派手な年格好をしたパーティだった。
重ねて言うが、全員が若くスラリとしたスタイルで美男美女揃いである。
2...
まあ、美男美女が多いのはゲーム全体の傾向ではあるのだが、こいつらは極端に若くてプロポーションの良い人間離れした美形が揃っていた。
1...
残り1秒で全員がそのエリアに入った。
もう俺たちの間近までモンスターを引き連れて来ていて、その攻撃に耐えている殿の剣士はかなりダメージを受けているように見える。
「ほれ、次のお代わりを持ってきてやったぞ!」
「アヒャヒャヒャ...、な、何?」
「ちょっと、なにこれ飛べないじゃない!」
「馬鹿、ふざけるな!!」
マジックプロテクトエリアが消滅する前に、彼らのアイテム使用を含むテレポートの使用が妨害されて彼らはその場に取り残された。
そう、間後ろに多くのモンスターを引き連れたままである。
派手な血しぶきのエフェクトを上げて盾を持った片手剣の美少年が沈むと、耐えきれずに一気にその美形揃いのパーティは自分たちが引き連れてきたモンスターたちの波にのまれて見えなくなった。
俺たちは、それを横目に見ながら展開し終わった転移魔方陣に全員が飛び乗ってプロメテリアの街に戻ってきたのだった。
「派手に沈んでたね~痛快痛快!」
「まあ、今は仕様変更でHPが1以下にならないから死ぬことは無いけど、仮死状態判定で所持しているアイテムはドロップしちゃうから、今頃激怒かもよ」
「まあ、当然の報いよね」「だな!」「メインくん、ありがとね」
そんな会話が交わされた後も縁があって、何度かお誘いを受けて彼らのパーティに参加して狩りに行ってみたけれど、パンギャさんが[相性の良い仲間]と言っていたメンバー全員が俺とも相性の良いプレイヤーたちだと言うことが解ったのだった。
それを切っ掛けに、ほぼ固定メンバーのようになって狩りに出るようになり、ログアウトできる日まで全員で正式に固定パーティを組むことがパンギャさんから提案されて、俺が断る理由も無く固定パーティのメンバーとなった。
そのパーティの名称は、全員一致でパンギャさんの提案した「エクソーダス」と決まった。
それから最後の日まで、ずっと相性の良いこの7名でパーティを組んで狩りをしたり、雑談したり遊んだりもした。
だから俺は、ログアウトの日までの長い月日で正気を失わずに生きて来られたのだと思う。
パーティ名「エクソーダス」(年齢は退院時のもの)
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パンギャ・パンチョス
大國 剛
/リーダー
/20歳♂/モンク/陰陽師
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ミリアム・エリストス
秋吉 杏奈
/ツンデレ姫
/15歳♀/殴りハイプリースト/魔法剣士
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ハイド・イシュタル
太田 柊也
/おっさん
/19歳♂/重騎士/大剣剣士
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ミシェル・クロフォード
後藤 栞奈
/クールビューティ
/17歳♀/スナイパー/召喚術士
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ジュディス・エスター
森元 美由紀
/お師匠さん
/20歳♀/アサシン/ソードマスター
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アモン・ナッツミー
亜門 菜都美
/姐さん
/26歳♀/ハイウィザード/ハイビショップ
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メイン・マンドレーク
八坂 和也
/廃人くん
/18歳♂/ウィザードロード/ビショップマスター
/その他、取得した職業有り過ぎ!
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