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アヴェンジャー:世界が俺を拒絶するなら:現世編  作者: 藤谷和美
サイドストーリー第四話 ミッシェルの憂鬱
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ミッシェルの憂鬱: 大召喚

「人間如きが何を使うのかなど興味も無いが、おのれら雑魚どもが直接われと戦えるなどと思っているのなら、思い上がりもはなはだしいわ!」


 二人の心の会話を聞いたのか、バウードは地面に右手を着けると召喚呪文を唱え始めた。


「出でよ! 魔人軍団召喚レギオン!」


 バウードの周囲の地面が黒く染まり、商店街の道路から、商店の壁から屋根から、ボコボコと泥沼からガスが湧き出すように、ぬぅーっと真っ黒な姿の魔族が姿を現し始めた。


 その数は、目測でおよそ50体から60体程。

 体の大きさは、バウードと違って人間とほぼ同じくらいしか無い。


 先程の赤い目の人間たちと比べれば人数は半分程だが、恐らく戦闘能力は比べようもなく高いだろうと思われる魔物たち。


<<ミッシェル・クロフォード: 魔物がおよそ50~60体か、思った程に雑魚キャラじゃ無かったみたいね。

>>ミリアム・エリストス: 全員ぶっ潰すから無問題よ!


<<ミッシェル・クロフォード: じゃあ、こっちも本気で行くわよ!

>>ミリアム・エリストス: 待ってました!


戦闘装備召喚サモン・プロテクター!』

戦闘装備召喚サモン・プロテクター!』


 二人は、ほぼ同時に戦闘装備に身を包んだ。


 ミリアムはライトピンクを基調に金色と青の文様が入った、ハイプリーストのワンピース。

 動きやすいように、ロングスカートには腰までスリットが入っている。

 そして、そのスリットからガーターベルトと黒いストッキングに包まれた足が垣間見えた。


 先程まで栞奈という名だった、高校二年生で黒髪ロングの美少女は、ミッシェルと言うキャラクター名のスナイパーに変身した。


 その上半身をブルーでショート丈の上着に包み、金色の胸当てをしている。

 袖は肩口からカットされていて、腕の自由を妨げないようになっていた。


 腰から下は、ブルーを基調にしたミニスカートと肌色のタイツ、膝上まである紺色のニーソックスに、ハイカットのショートブーツを履いている。

 一見、露出しているように見える腹部も、腕も肌色のタイツで覆っているが、二の腕までは紺色の腕当てに金色の手甲でカバーしていた。


<<ミッシェル・クロフォード: ブーストお願い! 最大レベルで。

>>ミリアム・エリストス:任せて!


身体能力増強ブレッシング!』

身体加速スピードアップ

『MP回復能力向上!』


 ミリアムは決して多くは無いMPを振り絞って自らにスキルを掛けて、少し時間差を置いてミッシェルにも支援魔法を掛けた。


 自分から先にスキルを掛けるのは、先にスキルが切れる事を体感する事で、それによってミッシェルのスキルが切れるのを防ぐ為である。

 僅かに時間をずらしたのは、少しでもMPを回復する時間を作ってからスキルを掛ける為でもあった。


 二人分のスキルを掛けるのは、前衛型なぐりプリであって支援型ではないミリアムにとって、元から多くないMPの早期枯渇を意味する。

 それを補うのは、戦闘装備に予めセットされている複数の魔石に込められた和也のMPであった。


魔法攻撃防御結界アンチ・マジックシールド!』

物理攻撃防御結界アンチ・マテリアルシールド!』


集中力最大強化マキシマム・コンセントレーション!』

打撃力三倍増トリプル・インパクト!』


聖体祝福ベネディクション!』 

武装洗礼バプタイズ!』

慈愛抱擁エンブレイス


 それぞれが、それぞれの防御スキルと攻撃力増強スキルを唱えるが、無詠唱なので一瞬で終わる。


 その間に闇から湧き出してくる敵の数は更に増えていて、およそ150体程にもなっていた。

 まさに、アーケードの通路を黒く埋め尽くす程の悪魔軍団レギオンである。


<<ミッシェル・クロフォード: (敵が散らばる前に)一気に数を減らすよ!

>>ミリアム・エリストス: 任せて!


神聖極閃光ホーリー・フラッシュ!』

 ミリアムがドン!と、ソードメイスの柄を地面に叩きつけた。

 ミッシェルはそのスキル名を聞いて、目を瞑り瞬時に身を屈める。


 次の瞬間、ミリアムを中心としてフラッシュの閃光のような、目も眩む強烈な白い光が周囲の魔物たちに浴びせかけられた。


 強烈な浄化の光を浴びて、その黒い表皮を焼け焦げさせ燃え落ちるのは、大きく広がった軍団の最前面に居た多数の魔物たちと、天井付近で二人を狙っていた魔物たちだった。

 その後ろに隠れて居た多くの魔物達も、顔や目を焼かれて悶え苦しんでいる。


打撃力充填チャージングアロー!』

爆散弓撃アローシャワー!』


 ミッシェルの同時に放った、聖属性を帯びた複数の矢が悶え苦しんでいる魔物に次々と突き刺さり、矢によって浄化された体の大部分を光に換えて欠損させて倒れて行く。

 そして地に倒れた魔物どもは、次々と光の粒に変換されて消えていった。


 150体程もあった敵軍団の本体は、ミリアムとミッシェルの初撃で大半を失っていた。


 既に二人とも『見切り』が発動しているが、最大レベルのブレスとスピードアップによって、やや動きが重い程度にしか感じない。

 それは外部から見れば、あたかも神速のごとき動きで敵の攻撃を躱しているように見える、鮮やかで素早い身のこなしである。


 敵魔物の放つ火炎弾を紙一重で擦り抜けて急速接近し、ソードメイスで叩き潰すミリアム。

 雷撃の軌道を読み、最小限度の動きで躱して聖属性念矢の餌食にしてゆくミッシェル。


 火炎弾が直撃した商店からは、すでに何軒からも赤い炎が吹き出して激しく燃えている。

 雷撃が直撃した街灯が、電線を燃やし一斉に灯りが消えた。


 ギチギチギチと金属が軋む嫌な音がしてミッシェルが天井を見ると、鉄骨の接続部分が破壊されて今にも屋根の部材が崩れ落ちそうになっているのが見えた。


<<ミッシェル・クロフォード: まずい、これ以上ここでやると天井が崩落するわ! ミリアム、ここから移動するわよ!


>>ミリアム・エリストス: 何処へ?


<<ミッシェル・クロフォード: 大勢を相手にするには狭いところの方が有利だけど、このままだと被害が大きくなり過ぎるわ。 もっと広い場所に移動しましょ。


 ミッシェルは、アーケードの地面に倒れて居る人達を見て、そうミリアムに告げた。


 心を読まれてしまうと、操られていた人達を利用されかねないから、それを直接考える事はしないで、別の表現をして移動を促す。


 ミッシェルは、碧の家でバウードが心を読んだにもかかわらず、ミリアムの事をミリアムと呼んだ事で、一つの確信を得ていた。

 あいつは、心の表層しか読めていないと。


 言い換えれば、心の中で言葉にした事だけを読めるのだろうと想定していた。

 そうでなければ、ミリアムではなく本当の名前である『杏奈』という呼び方をしているはずなのだ。


 それにバウードを挑発していた時にも、怒らせて情報を引き出そうというミッシェルの真の狙いにも、碧から引きずり出してやろうという狙いにも、どちらにも奴は気付いていなかった。


 つまり、奴は心の中で言葉にさえしなければ、真の狙いなど読めはしないという事なのだ。


「貴様ら、いったい何者なのだ! どうしてそんな力を持っている!」


 まだ半数近く残っている軍団の後ろから、バウードが叫ぶ。

 彼が知っている人間という者は、もっと矮小で無能で無力な存在だったはずなのだ。


「行くわよ、ミリアム」

「オッケー判った」


 バウードの問いかけには答えず、二人はブーストの掛かった体をフルに生かして、常人の何倍もの速度で疾走する。

 本人達にしてみれば、水の中を移動しているようなゆっくりした負荷の掛かっている感覚なのだが、実際の速度は高速道路を走行中の自動車並に速い。


 急旋回の負荷にも、魔法戦闘装備として作られた二人の靴が、地面に対するグリップを失う事は無い。

 二人は商店街を抜けて、町中を高速で疾走する。


 目的地はショッピングセンターの広い駐車場である。

 多数を相手にするのに、広い場所というのは絶対的に不利である事は承知しているが、多くの人間を巻き添えにしてしまう事も避けたかった。


 二人が100人前後の犠牲を惜しんで負けてしまえば、魔王が復活して規模の違う犠牲が出てしまう事も判ってはいる。

 しかし、それでも目の前に見知った人達が倒れている商店街で、これ以上戦う事は出来なかった。


 日曜日の夕方を過ぎて夜ともなれば、地方都市のショッピングセンターは、土曜日の夜とは違って停まっている車が数える程しか無かった。


 雲間に見える月は途切れる程に細くなっていて、今日が新月である事を教えている。


 駅前の商店街から、ここまで約3kmと少し。

 女性の足でゆっくりと歩けば、1時間近くかかる距離である。

 ちなみに、駅までの途中にある碧の家まで約2.5km以上は離れていた。


 その碧の家に、次々と栞奈のクラスメイトで合格品と呼ばれた女性達と、碧の取り巻きとなった男子たちが入って行くが、それを栞奈ミッシェルはまだ知らない。



 ミッシェルの目に、商店街の方向から炎の色が小さく空を照らしているのが見えた。

 あれ以上あそこに居なくて良かったと、ミッシェルは息を整えながら思う。


 ミリアムも、軽く跳ねてステップを踏みながら、少し乱れた息を整えている。


 二人の到着からやや遅れて、炎で明るくなった夜空を黒く塗りつぶすように、空から無数の魔族が飛来してくるのが見えた。

 どうやら、またバウードが魔族を召喚したらしい。


「あいつから叩かないと、たぶん切りが無いわね」

「あのアホ魔人は、絶対にあたしにやらせてね!」


 ミッシェルの言葉に、ミリアムがソードメイスを握り締めて答える。

 かなり、貧乳と呼ばれたのを根に持っているようだ。


 新月の時刻は、刻一刻と迫っていた……


 碧の家では、広い居間にあった調度品が全て片付けられて、床に描かれた魔法陣の中心に魔像が置かれていた。


 その周囲には、魔像を中心とした同心円状に、頭を魔像側に向けて女生徒たちが静かに横たわっている。

 その女生徒たちの衣類を一枚ずつ剥いでいるのは、碧の取り巻きとなった男子生徒たちだった。


 女生徒の数は全部で11体、同心円状に横たえられた女生徒たちの下になる床には、それぞれ異形の文字が描かれている。

 しかし、そこには1体分のスペースが埋められずに空いたままになっていた。


「間もなく時が満ちると言うのに、バウードの無能めが! 一人足りないではないか」

 碧の母親が、吐き捨てるように呟いた。


「まだ、あやつには荷が勝ちすぎたか…… これ以上待つ訳にも行くまい。 時が過ぎる前に始めるぞ」

 碧の父親がそう言うと、魔法陣の中心に置かれた魔像がビリリと震えた。


「うむ、少なくとも最強の三魔人様たちは目覚めさせることができよう。 そうなれば次の大召喚の時が満ちるまでに、新たな生け贄を集めれば良いだけの事」


「ふふふふ、黒髪黒目の勇者とその従者どもとの戦いに敗れ、魔王さまと共に三魔人様たちが魔像に封印されてより二千と百有余年、振り返ればあっという間よなぁ…… 」


「我らが機転を利かせて、魔像と共にこの地に時空転移して来なければ、魔像ごと破壊されていたであろうな」


「まことに! 憎きはあのゴリラの仮面を着けた黒髪黒目の勇者と、そのパーティよな」


「今でも、はらわたが煮えくりかえるわ! 銀髪の超人イオナにレイナ、ヴォルコフとティグレノフとか言う桁外れの超獣人とアーニャとか言うプラチナブロンドの美獣にもしてやられたな」


「お主、プラチナブロンドと言えば、一番恐ろしいのはアレであろう」

「バル…… 」

「うむ!」


「うむむ、だがそれだけでは無い、我ら悪魔族が根こそぎ壊滅させられた要因の一つは、イクシマとか言う暗黒竜殺しドラゴンスレイヤーがゴリラ勇者に協力したからよ」

「なにやら、バルとか言うプラチナブロンドと深い因縁があったようだな」


「あれも、ゴリラ勇者と同じく、桁外れの化け物よなぁ…… 」


「あやつらが結託して、我らの創造主マスターたる神人の都市を滅ぼしてからは、ようやく我らの天下と思ったが…… 」

「もう言うな、この世界にあの者達はおらぬ。 時が満ちる前にソウルドレインと大召喚の儀式を始めるぞ」


 それが合図であったかのように、室内の灯りが消える。

 その薄暗い室内で魔像の放つ赤い光だけが、淫靡な色で女生徒の横たわる裸体を照らし出していた。


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