009:ゲームでの相性
ずっと固定のパーティやギルドに加入せずやってきた俺だったが、ゲーム内に監禁されている間に出会った、ある人達と縁あって固定のパーティを組む事となった。
これが長い期間となってしまったゲーム内での生活を続けてこられた一番の理由だと思っている。
ゲームとは言え、キャラクターの中身は生身の人間なのだから相性というものは当然のように有る。
パーティを組んでみて、スキルや職業の相性だけでは無く人間としての性格や好みと言った数値にならない相性というのも長く続けるのには大事な物だと思う。
様々な臨時参加のパーティやペアを組んでみて、相性が良ければ次もまたやりたいねと続いて行くし、良くなければ事務的に狩り後の精算を済ませて互いに次の約束も無いまま別れると言うのが実際に良く有るパターンでは無いだろうか。
最悪な場合は狩りの途中で喧嘩別れなんて事も無い訳ではないが、自分の経験からすると大概がこんな感じだった。
ギルドなどに入っていれば一緒に戦う人について好き嫌いは言っていられないのだが、幸いにも俺はギルドには入っていなかった。
ある日の事、偶然にも支援職の募集を掛けていたモンク(修行僧)の人とペアを組んで狩りに出かけたのだけれど、これが今までで一番タイミングというか微妙な間が合う人だった。
やって欲しい時にやって欲しい動きをしてくれるとか、そういうレベルのタイミングでは無い。
いつの間にか気が付かないうちにストレスの溜まる微妙なタイミングのズレというものが、どうやらVRゲームにも存在している。
自分の思考速度や意思決定にピタリ着いて来られる相手というのは、そうそうは居ない。
どうしても自分の動きに対して誰とやっていても僅かな遅れが発生するのだが、それが微妙なストレスに繋がるのだ。
とはいえ、それが誰とやっていても当たり前だったから、それを理由に次の誘いを断ったことは無い。
その上でパンギャさんと言うモンクは俺との相性が抜群に良かった。
精算後の雑談の中でパンギャさんにそんな事を言ってみると、彼も同じ感想だったと言われた。
彼も、ずっと同じ経験をしていて久しぶりにストレスを感じないペアを組ませてもらったと喜んでいた。
これが後に固定パーティを組むことになるリーダーのパンギャさんとの出会いだった。
色々と話してみるとパンギャさんも同じような悩みを抱えていて、様々な人とパーティやペアを組んで遊んできたが、その殆どに対して微妙なズレを感じていたと言うのだ。
パンギャさんは最初自分が変なのかと悩んだことも有ったそうだが、出会う中には俺と同じようにズレを感じない人も居て、そういう人達とは次も遊べるようにフレンド登録をする事にしていると言って、俺にフレンド登録を要請してきた。
「今度、そんな感じで知り合った人達を紹介するよ」
そう言って笑うパンギャさんは、俺に手を差し出してきた。
そんなパンギャさんの知り合いは全員が俺と同じ微妙な違和感を感じていて、自然とそれを感じさせない者同士で遊ぶようになった仲間だと言っていた。
そんなパンギャさんが雑談の最中に、突然俺に右手の掌を向けて軽く目で詫びるような合図をすると会話を制止した。
どうやら脳内チャット(囁き)による呼びかけがあったらしい。
「メイン君、ちょっと一緒に来てくれると嬉しいんだけど、どうかな?」
次に口を開いたパンギャさんはそう言うと理由を説明をしてくれた。
先ほどパンギャさんが言っていた相性の良い仲間という人たちからの救援要請で、変なパーティに絡まれて嫌がらせをされているのだと言う話だった。
臨時で募集した支援職の人が変なパーティの連中に嫌がらせをされて、その知り合いの人達のパーティから抜けて帰っちゃったので支援職の応援が欲しいようだった。
仲間内に支援が出来る人も居るのだが魔法使いも兼ねているので、両方のスキルを使うには流石にMPがきついと言う内容だった。
二つ返事でOKを出した俺はパンギャさんが展開してくれた転移魔方陣に乗ると転移先の街を飛び出して、二人で一緒に仲間が困っているという狩り場へと駆けだしたのだった。
オンラインRPGゲームの中でも、そんな人間関係の軋轢は日常的に存在する。
むしろ、中にいる人間の個人情報が判らないという事で心の奥底に押し隠していた暗黒面に飲み込まれてしまう人は現実の世界よりも圧倒的に多いのだ。
当然、それに飲み込まれない常識人も多いのだが、ちょっとしたトラブルになったときの対応で人の本質と言うものは垣間見えてしまう。




