000:幸せな日常
これは主人公が魔力を得たことで、現実世界から追われて異世界へと辿り着くまでの物語です。
直接の表現はありませんが、中盤の一部に自殺や強姦があった事を匂わせる鬱展開がありますので、苦手な方はお避け下さい。
遙かなる昔、古の神々の争いあり。
遍く全ての生き物の上に火の雨と氷の槍が降り注ぎ、大いなる禍により大地は割れ、山は海となり海は山となり、星は位置を変え空は裂けた。
幾多の生き物が滅び、神々もまた激しい争いの末に滅びたと言う..。
世界が滅びてより幾千年...
すべての文明は失われたかに見えたが、僅かに生き延びた人類の末裔は再び地に根を張り都市を造り再びその数を増やしていった
そんな壮大なプロローグから始まるのが、[ソード&マジックオンラインVR]というネットワークゲームだ。
俺は仮想現実の世界に没入して遊べる最新のネットワークゲームであるそれを、現在のところ相当やりこんでいる。
俺の名は八坂和也。
他人よりちょっと背が高いくらいしか取り柄の無い、ごく普通の、どちらかと言うと地味な高校生だ。
そんな地味な高校生活を送って来た俺だが、普通で無い点が一つだけある!
それはこの夏から超絶可愛い彼女が出来たのだ!
だから目下のところ、俺の人生最大の目標は彼女と手を繋ぐ事だったりする。
付き合い始めて、はや半年が過ぎようと言うのにまだ手も握ったことが無いなんて、なんて不幸な俺。
人生初彼女なのだから、どうやって手を握るところまで持って行けば良いのかまるで判らないのだ。
リアルが充実しているように見えるかもしれないが、口べたな俺には友達が少ないから相談できるような経験豊富な友達も居ないし、彼女が出来るまでは筋金入りのゲーム廃人だったから… いや嘘です今でも立派なゲーム廃人です。
そんな俺に何故彼女が出来たかって?
俺が嵌まっているソード&マジックオンラインVRを彼女もやっていて、ゲームの中で偶然知り合って……
「すみませ~ん、署名にご協力下さ~い」
俺が脳内でとぼけたモノローグを呟きながら通学路を駅へ向かって歩いていると、目の前にいきなり白い紙を挟んだバインダーを突き出された。
「遺伝子改造規制の署名にご協力下さい」
大学生くらいだろうか…… ちょっと年上っぽい黒髪の女性二人組が、署名を求めて俺の前に用紙を突き出してきたのだった。
その突き出された用紙によって、妄想から現実に戻る俺。
ふと周りを見渡してみたら、駅前のロータリー周辺で署名活動を行っている女子大生たちのグループが、いくつか見受けられた。
いやいや遺伝子改造とか言ったって、もうナノマシンによる遺伝子書き換えが難病の治療に実用化されて久しいし、今更何を規制したいのか正直訳が判らない……
そんな事を言ってみたら、もの凄い勢いで神様の存在と人の生き方とその倫理感について説教が始まってしまった。
勘弁してくれ、俺は子供の頃に母親が宗教に嵌まって家を出て行ってからずっと宗教アレルギーなんだ。
そんな事より俺にとって大事なことはただ一つしかない。
今は彼女と一緒に通学するための待ち合わせ場所に遅れない事が、俺の最重要ミッションなのだ。