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page8

 既に店を出ていた柚穂たちは、柚穂が家から駅前まで通ってきた道を戻っていっていた。途中で道を曲がったから、家に向かうというわけではないらしい。

「あっちは図書館、よね……?」

「ていうか、結局こそこそ後付けるのかよ」

「町中で言い合うより、どこかで落ち着いて話したほうがいいでしょ」

「……まあ、別にいいけどさ」

 柚穂ともう一人の少女は程なくして図書館に入っていった。瑞希たちもその後に続く。

「あ……!」

 柚穂たちはエレベーターに乗って行ってしまった。別に逃げるということはないだろうが、なんだかひどくもどかしい。

 エレベーターは上の方の階で一度止まり、そのまま降りてくる。戻ってきたエレベーターに乗り、同じ階のボタンを押した。

 降りた先にあったのは、いくつかのテーブルが並び、図書館で借りた本を読んだりできる休憩・談話スペース。他の階に比べて少しだけ賑やかなそのフロアの片隅に、柚穂たちは居た。

「居たわ」

「どうするんだ?」

「別に。正々堂々と声をかけるだけよ」

「あ、ちょ……」

 七実を置いて、瑞希は真っ直ぐと柚穂のいるテーブルへ向かっていった。

「柚穂」

「……? …………あっ」

 傍に立って声をかけると、柚穂は珍しく慌てた様子で、机の上に広げられていたものを片付けようとする。瑞希はその手を止めた。

「柚穂、何してるの? こんなところで」

「あ……う……」

「最近帰りが遅かったり、休みの日にしょっちゅう出かけてたりするけど、どうして私には何も話してくれないの?」

「え、と……う……」

 柚穂は気まずそうに目をそらす。

 瑞希は柚穂が片付けようとしていた、机の上に広げられているものに目を向ける。

 いくつかの本と辞書、そして……あの原稿用紙だった。

「あー、こほん。ちょっといいかな?」

 瑞希が柚穂に質問を続けようとすると、わざとらしい咳払いと共に、向かいに座っていた少女が割り込んできた。

「何?」

「申し訳ないが、貴女はひょっとして西園のお姉さんか?」

「そうよ。柚穂の姉の瑞希。あなたは?」

「私は西園……柚穂さんの先輩だ。彼女と同じ中学の二年生さ」

 七実の言っていたとおり、彼女はどうやら柚穂の先輩らしい。……それにしても、年下のくせにぞんざいな口の利き方である。

「あなたが柚穂を連れ回してたの?」

「連れ回していただなんてとんでもない。私たちはお互い協力していたのさ。そうだろ、西園?」

「……ん」

 こくりと頷き返す柚穂。……嘘をついているわけでも、無理やり言わされているというわけでもなさそうだ。

 ……ならやっぱり、柚穂は彼女のことを……?

「っ……」

 やっぱり、なんだか不愉快だ。

「……じゃあ、あんたがあのM.T.なのね」

「うん? なんだって?」

 白々しく聞き返す少女に、瑞希はこらえきれず大声を上げた。

「だから! あんたがあのM.T.なんでしょ!?」

「ちょ、瑞希!」

「何よ……はっ」

 声を上げてからはっとする瑞希。

 ある程度は賑やかな談話スペースといえど、図書館は図書館。そんな大声を上げては迷惑だ。とりあえず謝り……いや、問題はそこではない。

「……瑞希」

「あ……」

 柚穂が呆然とした様子で瑞希を見上げてくる。

「なん、で、知って……?」

「あ、えっと、あの、それは、その、えっと、あ、ああ……」

 ……つまるところ今の発言は、柚穂の目の前で、柚穂の部屋に忍び込んで書きかけのラブレターを読んだことを白状してしまったようなものである。

「みず……」

「ごめんなさい!」

 柚穂に先回りして、瑞希は腰を直角に折って謝罪した。

「私、柚穂が心配で、何を秘密にしてるのか知りたくて……こっそり部屋に忍び込んじゃってごめんなさい!」

「瑞希……」

「その上勝手に書きかけのラブレターまで読んじゃって、もうお姉ちゃんは、お姉ちゃんは……!」

「え? ……え、と」

「柚穂の部屋で柚穂の匂いくんかくんかしてごめんなさい!」

「え……」

「今日もずっと柚穂の後をつけてちょっとストーカーの快感とかに目覚めかけちゃってごめんなさい!」

「え…………」

「一方的に監視するのってちょっと背徳的な気持ちよさがあるなふへへとか思っちゃったりしてごめんなさい!」

「…………」

「おい瑞希、そのへんにしとけ……」

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 色々と余計なことまで自爆し始めた瑞希を七実がたしなめるが、瑞希は止まらずひたすら謝り続けていた。

 それを止めたのは、ここまで傍観を続けていたもう一人の少女。

「はっはっは。お姉さんもお姉さんで面白いな」

「……何よ。ていうかあんた、まだ名前も聞いてないんだけど?」

「そうだったな、悪かった。けどまあ、ここじゃなんだ。少し場所を変えようじゃないか」

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