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「! !! !!! !!!!」
瑞希は口をあんぐりと開け、声にならない叫びを上げていた。
「! !! !」
「落ち着け瑞希。何言ってるかわかんないし、顔が軽くムンクしてるぞ」
「~~っ、はあ! はあ、はあ……!」
ようやく呼吸を思い出したのか、何時間も水に潜っていたかのように大きく息を吸い込む。
「おう、ようやく落ち着いたか」
「こ、これが、落ち着いてられる!? 誰よあいつ! あ、あれ、あいつ、まさか、あいつ、が、がぁぁあ……!!」
「なんだ、知らない子か? 見た感じあたしらよりは年下っぽいけど……」
「あああああいつがM.T.かああああああああああああああああああ!!!!」
「うるせえええええええええええええ!!!! だから大声上げるな見つかるし目立つだろ!」
「消してやる! あの女消してやる! すぐ! 今!」
「恐ろしいこと言うな見つからなくても目立つから! いいからちょっとこっち来い!」
「離せええええッ! 消してやる! 刺して! 刻んで! 貫いて! 剥がして、抉って、潰して、絞めて砕いて堕として炙って沈めてやるうううう!」
「おぞましいこと言うな!」
何事かと視線を向けてくる周囲の人達から逃げるようにして、半狂乱の瑞希をひとまず近くの裏路地に引きずり込む。
「はい落ち着け。一旦深呼吸な」
「っ、わかったわよ……。すー、はー、すー、はー……」
「よしよし。これでちょっとは冷静に……」
「すー……。あんの女今すぐにこの手でシメてやるからなああああああああ!!!!」
「吸った息で全力シャウトするなっ!」
……その後七実の再三に渡る説得により、瑞希はようやく最低限の落ち着きを取り戻した。
「……で、あの柚穂ちゃんと一緒にいた子、本当に知らない子なんだな?」
「知らないわ。柚穂の交友関係くらい、ある程度は把握してるつもりよ」
「まあ知らないにしてもだ。友達とか、あとは雰囲気的にただの先輩後輩とかじゃないのか?」
「友達とか先輩後輩とかだったらデートとか口走らないでしょ。私には聞こえたわ」
「恐ろしい地獄耳だな……」
「そもそも柚穂が私以外の前であんな表情するってことが許せないのよ! というわけで、消してくるわ。覚悟しなさいM.T.……!」
「だからちょっと待てい」
鬼のような形相で歩き出した瑞希を再度七実が引き止める。
「止めないで! あいつを殺して私も死ぬ!」
「そんな台詞をまさかリアルで聞く日が来るとは思わなかったが……。そもそもお前は何をそんなに怒ってるんだよ、瑞希」
「何をってそんなの……!」
反射的に言い返しそうになる瑞希だが、しかし途中で口を噤んでしまう。
……柚穂のことを心配するあまり、自分のことをすっかり忘れていた。そういえば、答えはまだ出ていなかったのだ。
「瑞希?」
「……なんでかしらね」
「はあ?」
急に沈んでしまった瑞希に呆気にとられたのか、七実は大仰に首を傾げた。
「……なんでって、お前自分でもわからないで怒ってたのかよ?」
「そうなるわね」
ビルの壁に背中を預け、狭い空をぼんやりと見上げる。
「……私は結局、柚穂のことをどういう意味で好きなのかしら……」
「どういうって、どういうことだ?」
「だから、あんたたちのせいでわからなくなったのよ」
「あたしたちって、……あ……」
そこで七実はようやく瑞希の言おうとしていることがわかったのだろう、ハッとしたような声を上げる。
「……私もね、最初はただ、もっとあの子のお姉ちゃんらしく、普通に仲良くしたいって思ってた。けど、その発端……あの日の事を思い出すと、なんだか、変な気持ちになって……」