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「……っくしゅん」

 柚穂は小さくくしゃみをした。夏風邪だろうかと首を傾げつつ、とことこと目的地へ向かっていく。

 しばらく歩くと駅前広場にたどり着く。そこにあるオブジェの前に立ち止まりぼーっと上を見上げた。

 オブジェの一部となっている時計の針は、午後一時を少し過ぎたあたりを指し示している。どうやら少し遅れてしまったようだ。

 ……しかし。

「……いない」

 周囲を見渡しても、待ち人の姿はない。遅刻に怒って帰ってしまったのだろうかとも思ったが、すぐ"あの人"はそんな人では無いだろうと確信する。

 そう思った矢先だった。

「やあすまない西園。待たせたか?」

 時計を見上げていた柚穂の後ろから、一人の少女が声をかけてきた。振り向くと、思った通りの人物がそこに立っている。

「……待ってない。わたしも、今来た」

「そうかそうか。……うん? つまりそれは西園も遅刻したということか?」

「……ん」

「はっはっは! 正直だな、西園は」

 笑いながら柚穂の背中をばしばしと叩いてくる。

「……痛い」

「ふふ、悪かった」

 柚穂が無表情のままに抗議すると、少女は笑い続けながらも手を止めた。

 未だにやにやと笑っている彼女は柚穂の一つ上の学校の先輩。先日教室に柚穂を迎えに来たのも彼女である。

「しかし、なんだ。今のやり取りはまさにデートのようだと思わないか、西園」

「……デート。…………」

「ふっ、まあいい。時間が惜しい、早く行くとしよう」

「……ん」

 自ら待ち合わせに遅刻しながら柚穂を急かす先輩に、柚穂は特に不満を言う事もなく頷き返す。

「さあ、まずはどこへ行こうか」

「どこ……。……行く先、決まってる」

 柚穂の一歩前を歩きながら問いかけてくる雨音に、柚穂は首を傾げながら返す。

「何、せっかくの機会だ。ぶらぶらと寄り道しながらでもいいじゃないか」

「……ん」

 彼女の答えによくわからないながらも頷き返し、彼女に従うことに決めた。

「そうだな、じゃあまずは……服屋でも行くか?」

「……服、買うの?」

「らしくないと思うか? だが、私は何時いかなる時もあらゆることを経験しようと試みている。西園もこういう”デートらしいこと”の経験を積んでおいて損は無いぞ。……何、すぐに役に立つ時が来るだろう」

「…………。……ん」

 不敵な笑みを浮かべる彼女に柚穂はやはりしばらく首を傾げていたが、やがて頷き返した。

「さ、行くぞ」

 彼女は自然に柚穂の手を握り、駅前のブティックへと足を進めていった。

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