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瑞希の通う高校より一時間ほど早く放課となった中学校では、柚穂が荷物の片付けをしていた。
「柚穂ちゃん、今日も先輩のところに行くんですか?」
帰り支度をしていると声をかけられた。
柚穂がちらりとそちらを見やると、少し眉をひそめて困ったように微笑んでいる(本人にそのつもりはないらしい)女子生徒が立っていた。クラスメートであり、口数の少ない柚穂の数少ない友人、楠木香澄である。
「……ん」
「そうですかー。"あれ"、順調に書けてますか?」
「…………ん」
柚穂が一瞬間をおいて頷くと、香澄はくすくすと笑った。どうしたのかと首を傾げると、香澄は「ごめんなさい」と謝り、それでも少し笑いながら答えた。
「柚穂ちゃん、なんか照れてるみたな顔してて、可愛いなって」
「…………」
そんな顔をしていただろうか。柚穂はむにむにと自分の顔をいじってみる。あまり自覚はなかった。
普段そういうことを言われることも少ないので反応に困ってしまう。そういえば瑞希以外に自分の表情を指摘されるのは香澄からくらいのような気がする。そんなに自分の表情はわかりづらいのだろうか。
「……もう、行く」
「あ、そうですか。私はお掃除当番なので……」
「……ん。じゃ、」
また……と言いかけた時、教室のドアがガラッと勢い良く開かれた。
「迎えに来たぞ!」
同時に教室内へ響き渡る女子の大声。視線が一斉に集まる。
「ふわっ、先輩です……!」
その中でも香澄は一際目を輝かせていた。視線が集まる中、女子生徒……柚穂の一つ上の二年生である彼女は、堂々とした振る舞いで一直線にこちらへ向かってくる。
「さあ、今日も行くぞ、西園」
「ん……あう」
そして柚穂の手をガシっと掴み、そのままぐいぐいと引っ張っていく。つんのめりそうになりながら、柚穂は彼女の後に続いた。
引きずられながら振り向くと、香澄がグッと手を握り、小さな声で「頑張って」と言っていた。柚穂はほんの少し、本人でさえ気づかないくらい僅かに頬を紅潮させ、小さく頷き返した。