表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

-雨と晴れ-

隣国へ向かうには、城下町から隣国との境目にある関所まで真っ直ぐに通る央道を、ずうっと下っていく必要がある。

城下町から関所まで、央道は徒歩一月程の行程となっている。

馬車を使えばまだ早く、5日から8日では着くらしいけれど、アレスもスタンも、それから魔術師の彼女、エマも徒歩で向かう事を選んだ。

早い討伐を望んでいるわけじゃないのだ。

勿論、被害が大きくなることを望んでいるわけでもない。

「…雨、降ってきたね」

アレスが手を広げて、曇りきった空を見上げる。

柄に冷たい雫が当たるのを感じて、私は思わず少しだけ鳴った(・ ・ ・)

徐々に雨脚は強くなる。

城下町を出て5日目、私達は一つ街を越え、それから次の町へと向かう途中。

幅広に整備されている道は、けれど両脇に荒野を持ち、雨から体を隠す術は無かった。


黙々と3人は歩き続け、やがて雨は視界を白く染める程になった。

広がる荒野に、雨が叩きつけられる。

地面に勢いよく突き刺さる矢の様な雨は、跳ね返っては幻想的にも見える揺らめきで荒野を飾っていた。

歩き、歩き。

私は、冷たい雨が鞘に流れ込んでくるのを感じた。

酷い雨は空を覆い、地に強く打ち付ける。


「ほんと、酷い天気ね」

アレスの直ぐ後ろで、うんざりした様な声が上がった。

「雨季に入ったのかもな」

しんがりを務めるスタンが小さく呟くけれど、叩きつけられる雨でその言葉も直ぐに掻き消えた。

雨季。

雨の季節であり、花の季節の後にくる。

私は、この時期はあまり好きではなかった。

長く続く雨のせいで、森の箱庭へ訪れる小さな訪問者たちの足が途絶えるからだ。

けれど、私の柄に少しだけ手を掛けて、アレスは空を見る。

「じゃあ、雨が止めばもう暖かい時期だね」

しっかりと聞こえていた様で、彼は明るく言った。

そうだ。

今は、訪問者も何も関係無い。

私は、ただ一つきりの剣ではない。

彼の傍にいる、伝説の剣なのだから。

歩き、歩き。

雨は降り、視界を煙らせる。

白く染まった荒野のカーテンに、私は少しだけ暖かい光を見た気がした。




――――――――――――――――――――――――――――




雨は振り続けた。

2日目の夕方に次の町に辿り着いたので、ずぶ濡れのまま宿に転がり込んだ3人は、そのまま揃って風邪を引いていた。

翌朝には、宿の主人が出してくれた薬草が効いたのか、皆元気になっていたけれど。

しかし病み上がりだからかそのまま宿を出る事も無く、降りしきる雨を見ながら宿の部屋でそれぞれ物思いに耽っていた。

ぽつりぽつりと交わされる会話は、どれも上の空での受け答えでしか無くて、静かな雨の日が流れていた。



その日の夜、既に3人共布団に潜り込んでいる中、アレスがぽつりと言った。

「―――魔王は、斬らなくちゃいけない存在かもしれない。 でも全部は、誤解かもしれない」

私は初め、寝言かと思ったけれど、真夜中のその声は確かに、誰の受け答えを待つわけでも無く、アレスの口から発せられていた。

「魔王に苦しめられているって人がいる。 魔王は存在すら許されないって人もいる」

壁に立て掛けられた私は、静かにアレスの言葉を聞いていた。

雨脚は弱くなっていて、小さくさああ、と雨の声が聞こえる。

「魔王を斬る為に勇者がいる。 魔王を斬る為に伝説の剣がある」

アレスはゆっくりと身を起こした。

窓から差し込む月明かりが彼の顔を照らすけど、小さく俯いたその瞳は見る事が出来ない。

「僕は………」

そこで、一度アレスは言葉を止める。

静かな雨音が聞こえるだけの数分が過ぎたけれど、やがて彼は、ゆっくりと立ち上がった。

壁の私の元へ歩み寄り、私の前に立つ。

「僕は、勇者だ。 君は、伝説の剣」

私は、小さく月光を煌めき返す。

「何れ魔王と会って、君を振るわなくちゃいけない」

そっと伸ばされた彼の手は、ひんやりとした私の柄を、包み込む。

「君と、魔王を斬るか。 君と、運命を斬るか」

魔王を斬る。

それはとても嫌だ。

運命を斬る。

勇者としての、魔王を斬らなくてはいけない運命。

魔王の、悪しき者として斬られる運命。

それは。


「考え込むな」


小さな声で、アレスの足元から声がする。

腕を頭の後ろに回し、目を瞑っているスタン。

「難しく考えるな。 何かを斬る為の剣じゃなくて、お前を信じるために剣を振れよ」

そう言うと、それきりスタンは黙り込む。

「……僕を、信じるために」

スタンの言葉を繰り返し、アレスはゆっくりと私を見つめる。

「君には」

まるで、私に意識が有るのを知っているかの様に、アレスは“私”へ向けて言う。

「君には、少しだけ嫌な思いをさせるかもしれない。 でも僕は、勇者じゃなくて、アレスだから」

握り込んで人肌の温かさになった私の柄を、そっと、けれど確かに少しだけ強く握り込んで、アレスは続ける。



「僕に、力を貸して欲しい」



私は、小さく小さく、りぃんと鳴った。






翌日、天気は快晴になった。

3日間降り続いたせいか、雨季の貴重な晴れ間が覗いている。

「じゃ、行こうか」

午前中の柔らかい陽光に照らされながら、私は彼の傍にいて。

微かに雨の匂いの混じる風が吹き、地面の真っ青な水溜りをそっと揺らした。

更新です。

段々と裏の設定が芽を出し始めてます。


摘んでしまうか育てるか、随分悩みどころですが、今回はここまで。

文章少な目ですみません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ