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-伝説の剣-

「――普段は人知れぬ森の小さな箱庭に封印されているが、魔王が現れ世界に危機が訪れた時、勇者の前に姿を見せる」

しわがれた声でも、その声ははっきりと私まで聞こえていた。

ゆっくりとした声で語られるその文章は、大昔から語り継がれていることらしい。

「その剣は意志を持ち、自らが認めた物にだけ、その柄を握り、引き抜く栄誉を与える」

「じゃあ、やっぱりこれが…」

私の柄を握ったままの彼が、息を飲む様にして問い返した。

私は彼の手の温かさを感じながら、眼前の老人が紡ぐ話に耳を傾けていた。

私は色々な事を知っている。

魔王とは、人間にとって悪の体現である存在。

勇者とは、魔王を倒せる唯一の人。

それが彼なのだろうか。

だとすると、私は。

「あぁ、伝説の剣じゃ。間違い無かろう」

ゆっくりと頷く老人に、私ははっきりと自分が何なのかを認識した。

伝説の剣。

それが、私なのだ。

それはつまり。

「お主にはまだ荷は重いかも知れんが……じゃが、隣国では既に魔王が原因の被害が多発しておる」

老人は言葉を続けて、それから彼と、その友人を見た。

「向かうのじゃ、魔王討伐へ。アレス、スタン、任せたぞ」

私の柄を握って、緊張からか小さく震えている彼の名は、アレス。

今もどこか緊張感の無い、とっても熱い手の持ち主だった彼は、スタン。

彼等は顔を見合わせると、アレスは緊張しながらも、スタンはどこか挑戦的に、老人に向かって頷いてみせた。

「うむ、まずは国王に会うがよい。…と、その前にこれを渡そうかの」

老人は二人を見て満足そうに頷くと、今度はゆっくりと立ち上がって、奥の部屋へと消えていった。

しばらくして戻ってきた彼の手には、一つの鞘が握られている。

「儂が使ってた剣の鞘じゃが、長さも丁度良い筈じゃ。剥き身では何かと困るからの」

「あ、ありがとうございます!」

アレスが頭を下げながら受け取った鞘に、私はすんなりと体を収める事が出来た。

初めて入る剣の鞘だけど、不思議と居心地は良くて。

滑り込む様にして収まったその包みは、昔ここにいた剣の温かさが伝わってくるようで、なんだか落ち着く事が出来た。

こうして、私達はアレスの村の村長の家を後にした。




春先のまだ少し冷たい風が、柄を撫でていく。

彼は、王様に向けて道を歩いていた。

私は鞘の中で、色々な事を考えた。

私は知っている。

伝説の剣は、魔王を倒す為の鍵である事。

他の武器では魔王の余りに強靭な生命力を削る事が出来ないという事。

私は知っている。

伝説の剣とは、勇者が握って魔王に向けて振るう物。

それなら私は、誰かを斬らなくちゃいけないんだという事も、気付いていた。

本来、剣はそんな事考えちゃいけないんだろう。

だって、その鋭い剣先も、堅い刀身も、装飾の施された柄さえ、誰かを斬る為に作られた物なのだから。

それでも、私は。

「…嫌、なんだけどな」

ぽつりと、私の心を読んだみたいにアレスは呟いた。

「……分かってるって。どうせ、『斬りたくない』とか言うんだろ?」

スタンが呆れた様に、でもどこか嬉しそうにそう言った。

アレスも、私と同じ気持ちだったの?

誰かを、斬りたくない。

誰かを、傷付けたくない。

例え私が剣であっても。

そう思うのは。

「やっぱり、駄目だよね」

アレスは、諦めた様にそう言った。

「……僕は、勇者に選ばれたんだから。誰かを斬らなくちゃ、いけないんだから」

そう。

私は、伝説の剣だから。

勇者の為に振るわれ、魔王の為に振り下ろされる。

誰も傷付けないなんて事は、許されない。

私も、分かってるけど。

「…………そうかな」

スタンはそう小さく呟いたみたいだけど、アレスは聞いてないみたいだった。

ただ、私の柄に触れて。

弱々しく、握り込んだだけだった。

再び冷たい風が吹いてきて。

その風に乗った一枚の花弁が、優しくゆっくりとアレスの手の隙間から私の柄へと降り立った。

更新です。

間を開けたのに文章少な目ですみません。

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