四話 おかえり
こつこつ書いてます。感想、評価ぜひお願いします。
「おかえり」
俺たちが再度ダイニングテーブルに席につくと、彼女は少し気まずい雰囲気で一度咳払いをした。
「すみません。タチキさん」
「…リヴェリス、かな?」
「はい。私です」
「失敗した?」
「失敗しました」
俺は頭を抱えた。手伝えることがあるなら手伝いたいが、今の俺にできることは何もない。技術や問題が向こうの世界のものなので、こっちの世界である俺が力になれることはないのだ。
「全く同じだよな。俺の部屋に戻ってきた」
「はい。なぜか、あなたの部屋に戻ってしまいます。これは今までにない現象です」
「そうなんだよな…うーん」
俺は腕を組んで考える。しかし考えても仕方がない。俺に解決策はないので、人差し指を出した。
「もう一回やってみたら?」
「そう何度も何度もやると疲労がたまります。この召喚魔法は、連続で行うものではないのです。申し訳ないですが、私自身かなり疲れています」
様子からはそう見えないが、どうやら魔法を使うにはそれ相応の代償が必要なようだ。俺はちらりと時計を見る。13:33と針は示していた。
「疲れているのか。ならしばらく休んだ後、また試してみよう。そこのソファでゆっくりしてていいから」
俺は彼女に休憩スペースを与えることぐらいしかできない。盗人でもないわけだし、彼女が勝手に帰ってくれるならそれでいい。
先ほどの食器を洗おうと思い席を立つと、言い忘れたことを思い出した。
「あ、そうだ。俺に敬語なんて使わなくていいから。堅苦しいのは苦手だし、そもそも俺が敬語使ってないわけだし」
「そう、ですか。…そう、ね。わかったわ、敬語はなしで」
「うん、それじゃ」
キッチンに向かおうとすると、彼女も席を立った。
「タチキ…さん」
「淳宏でいいよ」
「アツヒロ…。もしよかったらなんだけど、この世界、折角だから見てみたい…の」
「見てみたい?」
「外の景色を。この世界が気になるの」
彼女は少し申し訳なさそうにそう頼んだ。だが俺はふと考える。
確かに、この日本ではない外国に行ったとしても、もしくは異世界に行ったとしても、その場所がどういう雰囲気なのか気になるはずだ。
「そうなんだ…。別にいいけど、そっちの世界は大丈夫なの?」
「ん?どういうこと?」
「だって…リヴェリスって騎士なんだろ?ならそっちの世界で戦う人なんだよな」
「まぁそうなるわね。でも大丈夫よ、向こうの私の部下たちが色々とやってくれてるはずだわ」
「そうなんだ…それでいいのか」
どうやら彼女は結構楽観的な性格かもしれない。確かに、彼女が焦っている様子は今のところ見ていない。その性格は俺にとって少し羨ましかった。
「じゃあ、行ってみようか。ちなみにここの町は柊ヶ丘町だよ。そんな都会じゃないから、あまり見ても楽しいところはないかもしれないけど」
「私にとっては何でも新鮮だから、どんな場所でも楽しみよ」
砕けた言葉を喋る彼女は先ほどより明るく見える。騎士となると、「ーだ」「ーだろう」と少し力強い言葉かと思っていたが、普通に女の子の言葉遣いだ。
俺は自室に戻って、財布を入れたショルダーバッグをポールスタンドから取ろうとする。
「あちゃあ…」
俺の部屋の棚と椅子はめちゃくちゃだった。それを見た彼女は、姿勢を少し低くして後ろに下がった。
「ごめんなさい…アツヒロ」
「いや、まぁ仕方ないよ」
何が仕方ないのかわからないが。
「また新しいものを買うきっかけができたとでも思えばいいんじゃないか」
すると彼女は着ているローブの前を少し開き、腰の留め具から、小さな革の巾着を外した。
使い込まれた革袋で、口は紐で絞る簡素な作りの財布のようだ。
「私が買うわ。お金ならある」
自信満々に巾着を俺に見せびらかす。
「ちょっと硬貨見せてみて」
巾着を開けると、一枚の銀の硬貨が出てきた。俺は手に取る。知らない人物が彫られ、その裏には知らない文字が描かれていた。おそらく向こうの世界で数字を表す文字なのだろう。
「これだけの量があれば、椅子や棚くらい買えるわ」
「いやな、リヴェリス。日本円じゃなきゃ買えないんだよ」
しばらく俺たちの間で沈黙が流れた。




