第6話:神国破壊⑥
大柄の男は振りかぶって右の拳を打つ。
狙いは、オウカの後頭部。
その気配を察知し、慌てて振り向く――演技をするオウカ。
(敵が視界に入ると同時に、赤マーカーが表示)
-ゴッ-
かろうじて顔の前に構えた左の掌が、男の右拳を受け止めた。
……のだが、右拳は止まらず 左の掌ごと そのまま顔面に叩きつけられた!
オウカは明らかにフラつき、視点は定まらない。
両手は、かろうじて顔面をガードしようと懸命に努力している、
……少なくとも、そう見える。
――男は畳みかける。
男の両脚の筋肉に力が入っていく――
直後、男の全体重を乗せた渾身の右の前蹴りが オウカのガラ空きの腹部へと叩き込まれる!
「ガハァッッ!」
オウカの全身に、前蹴りの衝撃が伝わっていくのが見て取れる。
同時に、オウカの体から絞り出された大きな うめき声が、会場内に響き渡る。
とうぜん男は、この機を逃さない。
男の脳裏には、制圧完了までの道筋が見えている。
そして、勝利を確信した。
あと数発叩き込めば 俺の勝ちだ……と。
――男は、認識した。
その目に映る世界が 180° 反転していることを。
え……なんだいコリャ。
酒を浴びるほど飲んだのは4日前、さすがに体内からアルコールは抜け……
- ダァンッ!-
何かが床に叩きつけられる音が、男の耳に聞こえた。
同時に 男の身体に強い痛みが走る。
『化勁』
オウカは、全身を鞭のように柔らかくしならせることで、腹部に叩き込まれた右の前蹴りの衝撃を全身に分散していた。
同時に、右の前蹴りを(わざと)食らい後ろへと吹っ飛ばされつつ、右手で男の右脚をつかみ、その筋繊維の流れに逆らわずに捻る。
つまり、蹴りに乗せられた男の全体重、その力の方向をズラした。
バランスを崩した男は、条件反射で左脚で無意識に自ら飛び――
――結果、男の巨躯が軽やかに宙を舞い、回転しながら地面に激しく叩き込つけられた――ということだ。
「ハァ……ゼハァ……カヒュゥ……」
男の渾身の前蹴りを食らったオウカは、倒れそうになりながらも、根性でなんとか立っている――演技をする。
――オウカは、以前 軍の上官との組手でボディーブローを食らった時のことを思い出している。
そして、その時の自分のリアクションを再現しようとしている。
数年前のことだから うろ覚えだが、確か 感じのこんなリアクションをしたなぁ……。
もっとも、その時は地面にブッ倒れて、呼吸も ままならず のたうち回っていたが。
それに比べたら、強めの腹部マッサージといったところか、今の前蹴りは。
――さて、地面と濃厚すぎるハグをした男は というと…
「ぐぅ……あああああ」
痛みによる悲鳴――ではない。
痛みを超え、自分を奮い立たせるための雄叫び。
外見に見合うだけのタフネスはあるらしく、平衡感覚も充分に戻っていないにもかかわらず、仁王立ちで組手続行の意思を示した。
(救護班は組手会場内に入ろうとしたが、不要と判断し 中央テントに戻った)
――オウカは、その様子を見て
「私も うかうかしてられないな……!よい好敵手になれそうだ」
……などと熱血なセリフを放つこともなく――
というか、赤マーカー消滅の確認後は特に気にも留めず、他の受験生たちの動向を注視していた。
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