第17話:最終目的⑥
――オウカは、空中を2回タップ。
ARレンズを通したオウカの視界に、仮想ディスプレイと仮想キーボードが出現。
空中で仮想キーボードをタイピングし、文章を打ち込んでいく。
[<緊急>賊2名が女性1名を人質にして金銭を要求。伝令を待つ]
送信。
このメッセージは、国衛隊の支給品でありWi-Fiマイコンであるベルト(厳密には ベルトのバックル)がARレンズとインターネット間を中継、
自動暗号化された上で国衛隊に送信される。
(GPS機能もついており、24時間 国衛隊に位置を把握される)
主人は続ける。
「店にそんな大金は無い。後から必ず払う。だから娘を解放してくれ!」
2人組の賊は、淡々とした口調で言葉を放つ。
「ダメだ。10分以内に要求額を用意しろ。できないなら、この場で殺す」
──平時の武器の携帯は、禁止されている。
つまり、手段は徒手格闘のみ……ではない。
この状況で使える武器……飛び道具が望ましい。
――道に転がっている小さな石。
「おい、そこの餓鬼!お前がこっちに来い!断るなら、こいつの喉を掻っ捌く!」
エレナを指差して、賊の1人が叫ぶ。
先程と打って変わって、声を荒げている。
――なんか、妙だ。
――エレナは、オウカに目配せをしながら 賊2名の方へ向かって歩き出す。
つまり、エレナが隙を作り その機に乗じて賊2名を制圧する、という意思の疎通――
――ガッ、という音。
賊の内の1名が、何かをエレナの足元に投げてよこしたのだ。
手錠。
チェーンはなく、左と右の部分が直接 繋がっているタイプ。
両手の可動域が、通常の手錠よりも更に狭まる。
賊2名を制圧する難易度が増す。
――何かが、引っかかる。
エレナは、時間稼ぎをする。
「え……これ……どうすればいいんですか?使い方が、わかりません……」
苛立ちながら、口頭で命令してくる賊の1人。
エレナは、わざとモタついて更に時間を稼ぐ。
騒ぎを聞きつけて、数少ない通行人たちが集まってきた。
――オウカの横に、蕎麦屋の店主が 立っていた。
「あ……」
気づいたオウカは、情けない声を出しながらそちらを見る。
じっ、とオウカを見据える店主の目が 何を伝えたいのかは、すぐに理解した。
”エレナ救出の為に、真の実力を出す事は許さない”
店主は、数秒間オウカの目を見据えた後、オウカから目を逸らし――数歩前に進んだ。
2人の賊は、そちらに視線を移す。
「その子は、国衛隊の正規隊員よ。人質なら ただの民間人の私の方が安心でしょ。
――あなたたちの目的が、お金であるなら。」
――オウカが感じていた引っかかりが、明確な違和感となった。
人質と赤の他人である通行人が、身代金を払ってくれるはずもない。
なのに何故、賊2名は不動産屋の店内から わざわざ出てきたのか?




