第10話:神国破壊⑩
―――― ”候補生として不自然な強さを隠す”
不測の事態に目を見開いたオウカの思考から、1つの制約事項が一時的に忘却された。
-バチィィッ-
オウカは 右の裏拳で、少年の右の拳を弾き飛ばし――
――そのまま顔面に掌底を叩き込んだ。
-ドッ-
不安定な体勢のまま、掌底を顔面に撃ち抜かれた少年の身体は、面白いくらい勢いよく後ろへと吹っ飛んでいく。
同時に、視界の端――
全速力で接近してくる大柄の男の姿、および 新しく表示された赤線マーカーを確認。
――遅い。
一気に間合いを詰めて――
……いや、必要ない。
オウカの左側から、それは全速力で近づいてくる。
――華麗に宙を舞う 美しい両脚が、オウカの視界に入った。
同時に、緑マーカーも。
- ドゴォッ!-
大柄の男の頭部の右側に、横一文字に伸びた女の身体。
見事なドロップキックを炸裂させた――狂時計の針。
その見開かれた両目を血走らせながら、緑マーカーを従えながら、
大柄の男と仲良く そして勢いよく、オウカの視界の右側へとフェードアウトしていく。
左回転の勢いを持続させるオウカ。
オウカの視界に入るのは――
力尽きて横たわる背の低い男(赤マーカー消滅)と、精悍な顔つきで闘う4人。
そして、再び視界に入る3メートル先の少年の姿。
この時点で、オウカが少年の顔面を撃ち抜いてから 0.2秒が経過。
――0.3秒経過。
後ろへ吹っ飛んで行く少年の眼前――にオウカはいた。
先程の 体重を乗せなかった掌底と違い、全体重を乗せた右の突きを少年の顔面へと放つ――
”候補生として不自然な強さを隠す”
――オウカの思考に1つの制約事項が想起された。
同時に右の突きを中断。
反動で、右拳に乗せられていた全体重がオウカの全身へと移行――推進力となって全身が加速してしまう。
左足で踏ん張って勢いを止め――
間に合わない!
-ガドォッ-
なんとも不細工なショルダータックルが成立。
両者の身体が宙を舞い――そのまま地面に叩きつけられた。
-ダァン- -ダァン-
同時に右側から、ドロップキックで吹っ飛んでいった2名が同様に叩きつけられた音が響く。
痛々しい二重奏――
――体温で物理的に熱い2組のカップルたちは、すぐに起き上がろうと努力する。
オウカは反射的に、間髪入れず立ち上がった!
……が、平衡感覚が戻らず千鳥足……の演技。
少年が、立ち上がるのに苦労しているからだ。
辻褄合わせの為、接戦を装わなくてはいけない。
――右側から、殴打音が断続的に聞こえてくる。
視線をそちらに移すと、長い黒髪を揺らしながら馬乗りで大柄の男を殴る、女の姿。
――再び、視線を正面に戻す。
その後ろで、精悍な顔つきで戦い続ける4人の候補生たち。
……その上に、赤マーカー2つ・緑マーカー2つ、が表示されたからだ。
加えて、その光景を遮るかのように、少年が ぜえぜえ…と肩で息をしながら立ち上がったから。
オウカの裏拳を食らった その右手は、赤く腫れあがっている。
再び相対する2人。
少年は、呼吸を整えながらオウカから見て右側へと歩き出す。
――BGMが鳴り響く。
女が奏でる、一方的な殴打音……精悍なる4人の候補生たちの、息切れした呼吸音……。
協奏曲の中――
否。
狂想曲の中、社交ダンスでも始めるかのように……いや、それよりも大分大きく ぐるり、と迂回する少年。
(大柄の男の赤マーカー消滅を、視界の端に確認)
”精悍なる4人を、オウカの視界から外す”
その意図が、あからさまに伝わってくる。
ジリジリ、と間合いを詰めはじめる少年。
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