夏休みの思い出〜さくら公園のプール その1 『学校の不満』
僕の少年期。それは思い出したくもない黒歴史(ホラーとも言う)だった。
あの頃僕の住む街は人口が爆発的に増加していた。
人口減少、過疎化が叫ばれる今じゃ考えられない現象だが、確かに市役所の都市整備の手当てが追いつかないくらい、後から後から人が移住してきていた状況にあったのだ。その影響をモロに被っていたのが僕たちの世代だった。
当時小学生だった僕の成績は中の下、先生の評価はすこぶる悪い。(但し、下の下では断じてない!僕の下にはまだ数人居たし。・・・そう思っていたのは自分だけかもしれないが。)要は他の劣等生集団の中のひとりと見なされていたくらいだから。実際僕は俗に言う悪ガキたちと昼休みになると一緒に仲良く連んで遊んでいたのでそう思われていても仕方ないが。
もちろん当の本人である僕は自分がバカだったのは認めるが、悪ガキだったとは毛ほども思っていないし。
それはそうとして・・・・僕が通う小学校が一度代わっている。学校を変えているじゃなくて。そう、転校ではない。
だから!!別に僕の一家が引っ越して転校した訳ではない。もちろんそんな劣等生の僕に悲観して、親が強制的に転校させた訳でもない。(そんな理由じゃ情け無さ過ぎるっしょ!)
その真相は、僕の通う校区も周囲同様、人口増による学童増加で小学校の許容能力を超えたために急遽こしらえた新造校舎に集団移行したためだった。(ね、僕のせいじゃないでしょ?)
そんな事情で僕の住む街は雨後の筍のように新造校舎(新しい小学校)があちらこちらに産まれていた。
でも急ピッチで同時進行的に校舎が建てられたために、その内容は必要最低限以下だった。戦争直後の瓦礫の中の青空学級よりマシな程度であった。
校舎に体育館が無い!プールもない。校舎前に在りがちな花壇も、行進や学校行事で必要な音楽等の合奏用楽器も無い!他にもあらゆる面で無い無い尽くしだった。
特に体育の授業などは雨の日や冬期間、玄関を入って下駄箱の後ろのちょっとした玄関ホールと言える場所を使って跳び箱だの、でんぐり返し等、マット運動をするのがセキの山だった。(新興都市だったから、土地だけは余っていたので)ただ比較的広いグランドだけはあった。故に球技や陸上の体育授業のグランド使用可能な時期は、晴れた日の冬季以前の秋季まで(積雪前)限定である。・・・・と言っても積雪期は北の最果ての地なので一年の半分(10月中旬から4月下旬まで)に及び、決して無視できない不便さなのは分かって欲しい。
話を戻す。
劣等生で運動音痴の私は、跳び箱に失敗して勢いよく転び、新築のツルツルしたコンクリート製の床(コンクリートの上にペンキ(?)塗料(?)が塗られているため、ピカピカでツルツルだった。)に膝を強かに打ち、泣くつもりもないのに自然と目から涙が出てきたのを覚えている。(男の子の沽券にかけて言うが、絶対に声をあげて泣いてはいないから!)
何が言いたい?
自分はそれ程弱虫だったと独白しているのではない!
敢えて言い訳すれば、体育館ではないせいで床が木製ではなく、鉄筋コンクリートの床であったため、(用途外使用)真冬の凍てつく環境では助走で踏切台の前だと滑り易いし、転ぶとかなり痛い!つまり、劣悪な環境で授業を受けていたと言いたいのだ!
え?他の男子はそんな失敗をしていないだろだって?あぁ、そんなドジ、僕だけだよ!悪いか!
だけど脇で見ていてクスクス笑う女子どもを尻目に、涙と膝を擦る情けない男子を思い浮かべて欲しいし、やり場のない怒りと無様さも察して欲しい。
では本題に移る。
僕の住む街の教育環境は決して良いとは言えない。(えっ?もっと劣悪な環境のところは星も数程ある?贅沢な事言ってんじゃない!って?)ちょっと待って!僕が言いたいのは次の問題にあるんだ。
その問題とは夏の授業にも使うあのプール。
僕の学区周辺にはプールが一箇所だけある。
あるなら御の字だろ?そうだけど・・・・。贅沢かな?
そのプールはさくら公園と言う間口500坪程の小さい市営の公園で、ブランコとジャングルジム、砂場とシーソーで面積いっぱいの子供対象・小規模の場所の隣の敷地に存在したコンクリート製で屋外にある縦25m、横10mの僕の知らない昔から存在していた古いプールだった。
そのプールを僕たちは「さくら公園のプール」と呼んでいる。
このさくら公園プール。もちろん屋根もないし年中野晒し、吹き晒しで、真夏のプールシーズンに水を張った状態を見ると、蛾や蝶や蝿やトンボ等の得体の知れない虫が無数に浮いているし、プールの横壁や底には緑色の水藻がが蔓延り、見るからに超不衛生であった。
今、アナタ、『うわッ!』って思った?
いくら塩素のタブレット状の大きな粒を大量に投入していても、今時の子供たちなら絶対に入ろうとはしないだろう。(ケッ!今じゃ最近の設備の整り恵まれて且つ、衛生的な屋内温水プールだって?フン!一昨日来やがれ!)
そんな基準外の劣悪プールでも僕らにとっては貴重であった。
この地域一帯にはプールといえばここしか無く、水泳の授業には校舎から小学生の足で片道徒歩10分以上かけて移動しなければならない。
しかもここを使うのは我が校だけではない。近隣3〜4校が共同で使用するのだから大層な人気である。
だから夏休みのプール開放日も3〜4日に一度、しかも半日のみの当番日しか泳ぎに行けないのだから、とても貴重であったのだ。例えその日が生憎の土砂降りであっても肌寒い日であっても、その寒さで唇が青くなり全身ブルブル震えていても構わず泳ぎに行ったものだ。年に数日しかない短い暑い夏のプールは、長い冬を越してきた僕らにとって、それほどの憧れと憩いの場所と時期。そのプールは無くてはならない所であった。
僕には夏休みの宿題を早めにしようとする優等生的殊勝な心掛けは全く無くとも、プールの我が校当番日にワザワザ泳ぎに行く皆勤賞ものの根性だけは正々堂々と立派にある、たくましい男子であった。
そのプールの何処に問題が?
アンタ、バカ?
だから僕がさっきから必死で言ってるでしょ!こんだけ劣悪なプールを題材に強調したホラー小説だよ。今に凄惨で悲惨な大事件が起きるって思わない?
ホラホラ、嫌な予感しかしないっしょ?
つづく