END-2 夏の終わり、ふたりで見た試合
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照り返す日差しが、トラックを眩く照らしていた。
鳴り止まないアナウンス。靴音、歓声。
7月の最後の週、土曜日――通信陸上競技大会。
スタンドの応援席。
アルミのベンチに並んで座ると、熱がじわりと太ももに染みてきた。
先輩の隣。
少し汗ばむ腕が触れそうな距離で、トラックを見つめる。
スタートラインに立つ後輩の姿。
あたしがかつて立っていた場所。
走ることが、日常だった頃。
その頃の自分が、遠い夢みたいに感じる。
「……見てて、辛くない?」
ふいに、隣の先輩が聞いてきた。
その声は、風に混じって、少し震えていた。
「……悔しいです。でも、それだけ、好きだったんだって思えたから」
言葉にした瞬間、顔がじんわり熱くなった。
あんなに苦しかったのに。
もう無理だと思ったのに。
走ることが、やっぱり――好きだな。
スタートの号砲が胸に響いて、汗のにじむ首筋に風が触れた。
赤いトラックの上を、選手たちが駆けていく。
砂煙と、風のにおい。
「……来年のあたしは、強いですよ」
ぽつりと、ひとりごとのように呟く。
誰に聞かせるでもなく。
次の瞬間、あたしの右手に、そっと温もりが触れた。
「……ひなたが戻るの、待ってるよ」
――先輩の指先だった。
それは、たぶん世界でいちばんあたたかい約束だ。
「わたしも、一緒に歩むから。もう一度、生きていきなさい」
「……うん」
「ひなた、前を見て」
「うん」
「あなたなら大丈夫」
視界がにじむ。
でも泣いたら、何だか格好つかないから。
唇をきゅっとかみしめて、空を見上げた。
まぶしい夏の光。
白い雲が、風に押されて流れていく。
あの空の下で、また走れる日が来る。
明日は手術だ。
今では歩けるようにもなったのに。これで手術をすると、また歩けなくなる。何だかもったいない。
それでも――その先に光があるって、信じられるから。
ただぎゅっと、先輩の手を握り返した。




