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3-1 “赤くなったら終わり”って言ったのに、先輩、赤くなっているんです。


 うぐぉ……。

 翌朝、筋肉痛に襲われた。

 身支度すらまともにできない。

 最近はハードな練習でも平気だったのに。

 ……あれはもう、運動じゃなくて、自ら引き起こした事故だ。

 朝練がないのが、せめてもの救いだ。


 何とか登校して、二階の昇降口へ通じる階段が見えてきた。

 延々と続くピラミッドに見えた。地獄の石段だ。


「おっはよぉ〜、ひなたっ! 昨日はすっごく頑張ったねぇ〜!」


 れなこの能天気な声が背後から飛んでくる。


「お、おはよ……。いててて……」

「ちょ、何そのペンギンみたいな歩き方〜!?」


 手すりにすがって、よろよろと階段を上る。

 一段ごとに太ももが悲鳴を上げる。これ、ほんとに昨日と同じ階段?


「限界だよぉ!? 今日は休んだら~?」

「あ、あたしの限界なんて……っ。こんなもんじゃない……っ」


 れなこは一瞬きょとんとしてから、ケラケラ笑い出した。


「ひなた、やっぱ青春してる~!」

「してないからっ! うがっ、あいたたた……」


 全身に痛みが走る。もうっ!


「昨日の放課後、なーんかあったでしょ~?」

「な、ななななんにもないしっ!!」


 声が裏返る。れなこがニヤリと笑った。悔しい。


「ふくらはぎバキバキ歩行でも、学校に来てんだもんねぇ〜。ガッツだよ、ガッツ!」

「そ、そりゃ来るでしょ。生徒なんだから……」

「……言わないでおこうと思ってたけどぉ~」


 れなこが意味ありげに覗き込んでくる。


「顔、ゆるんでるよぉ〜? ひなた♪」

「……はいぃ?」

「昨日のすっごい走りのときも、今の顔も。同じ~っ!」


 はにかんだ笑顔で言うだけ言って、


「絶対いいことあったやつ~♪」

「……なっ!」


 何を、そんな。

 れなこはにっこり笑って、スタスタと階段を上っていった……。


「まっ、待ってよっ! いいことなんて、ないしっ! ぎゃぁぁいたたた……っ」

「バキバキマンのひなたなんて、怖くな~いよぉっ」


 どれだけ言い返しても「へっへ〜んっ」と押し切られる。

 結局、階段の途中で置いていかれた。


 ……いいこと、なんだろうか?

 昨日のこと。

 自然とあの光景が思い出される。

 真っ赤な耳。

 額を押さえて、うるうるの目でこっちを見上げた、あの顔。


(……あんな可愛いの、ずるいってば……っ!)


 バキバキの脚に鞭打って、階段を駆け上がる。

 何とかホームルームには間に合った。

 でも先生の話はまったく頭に入ってこない。

 授業中も、昼休みも、頭の中でぐるぐる回っているのは――。

 げんこつ級のデカおにぎり。

 もぐもぐ。

 ……口元の米粒。

 九条先輩。


(……先輩っ!)


 でも、あたし、逃げたんだよ。

 何も言えずに……。

 ……。

 ちら、と隣を見ると、案の定、れなこがニヤニヤこっちを見ていた。





 今日。

 もう一度だけ、向き合うと決めた。

 あんなふうに逃げたことを、ちゃんと謝りたい。

 もし会えたら、今度こそ――呼ぶ。

 ”九条先輩”って。

 ……たぶんそれが、あたしの”限界”の、もうちょっとだけ先。

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