(小話)s-2 先輩の無表情嫉妬がだだ漏れ。可愛すぎて心臓が終わる(それでも見たいからまた死ぬ)
視聴覚室に入ると、先輩はいつもの席にいた。
薄暗い空間。机に手を組んで、静かに座って、窓の外を見ている。
――今日も、空気が違う。
「こんにちは、先輩。お待たせしました~っ」
声をかけても、返事はない。
いつもなら、目線くらいはくれるのに。……あれ、まぁ。
暗幕をがらっと開けた。
差し込む光にも、先輩は動じない。
お弁当を広げようとして、ふと気づいた。
先輩の、右耳が見えない。
いつもなら髪の隙間から、ちらっと覗くのに。今日は妙に、そっち側だけボリュームがある。
髪をかき上げずに、そのままにしている。
――わざとだ。
(あ、絶対……。昨日の机の件、まだ根に持っている……!)
心の中でごめんなさいって土下座しつつ、お弁当をそっと差し出す。
「今日の卵焼きは甘めですよ〜。ほらっ、どうぞ!」
返事なし。
でも、視線がちらりと、こっちに。
(あ、見た。見ましたね先輩!)
先輩の真正面に座って、にこっと笑う。
「……昨日、ちょっとだけ、拗ねてました?」
「拗ねてない」
即答だった。間髪入れずに。
その声、早口だった。
しかも。また、髪を耳にかけなおした。
……左側の。
(あーっ、絶対にわざとだコレ。真っ赤だから隠しているな……っ!)
「……ねえ、先輩?」
「なに」
「今日の髪型、可愛いです」
「……関係ないでしょ」
「ありますよぉっ。耳、真っ赤なんですから」
「――っ」
先輩が、視線をそらした。
でもちゃんと、お弁当には手を伸ばしてくれた。
お弁当のフタを開けようとする指先が、震えている。
開ける動作も、何故か慎重すぎるくらいで。まるで、中に爆弾でも入っているみたい。
(あっ、先輩……めちゃくちゃ動揺しているっ!?)
耳は見えない。
その代わり、隠しきれない首筋は真っ赤。
髪をかきあげるふりをして、また左側を隠そうとする。
何かもう、仕草が全部、可愛いの大渋滞。
そのくせ、顔だけはつんと澄ましているんだから。本当、ずるい。
先輩、やっと卵焼きをつまんだ。
ひとくち食べる。
もぐもぐ。咀嚼中。
(か~~~~わいい~~~~~!!!!!)
その横顔を見ながら、こっそり心の中で叫ぶ。
無表情だけど、ばればれですよ。先輩。
ほっぺたまで、色づいているから。
「先輩? あたし、力あるんですからねっ!」
「……うそ」
「ほんとです。ほらっ! 見てくださいこの腕。昨日だって、机ひとりでいけましたもん!」
すると先輩が、ぽつりと。
「……それなら、わたしじゃ、だめ?」
え?
「あの子のほうが……好みかしら」
それだけ言って、視線を落とす先輩。
お弁当箱の中の梅干しを、箸でつん、と突いて――ぱくり。
……え。
それって。
それってそれって。
「――可愛い……」
「……なに」
「い、いえっ、何でもないですっっっ」
お弁当の蓋で、自分の顔をぱたぱた仰ぐ。
ダメだ。今日の先輩も、破壊力がすごすぎる。
こんなに拗ねているのに、本人は絶対ばれていないと思っているんだ。
あんなにガードしていたのに。
仰いだ風で、もう、見えてしまっている。
耳の先まで、心の中、ダダ漏れですよ。
あたしも、ちゃんと伝えるつもりだ。
今度、机を運ぶときは。
ぜったい、先輩と一緒がいい。




