(小話)p-1 恋の作戦会議 名前呼ばれただけで命が消し飛ぶ in 教室
◇
「よしっ、それではっ!」
れなこが勢いよく机をバンッと叩く。
「緊急・恋の作戦会議、はじまりはじまり~~っ!!」
「しーっ! れなこ声でかいっ!」
れなこの口を押さえる。もがもがと暴れる。
「廊下に先輩いたら、ど、どうするの……!?」
「ぷはっ。それはもう、ひなたが心臓止めてくれるよねぇっ」
「やめて!? 死なない前提で話してぇ!?」
教室の片隅、カーテンの影に隠れるように、三人で集まる。
「……てかっ、みかげ!」
「そ! れな一人じゃ足りないから、恋の参謀に声かけた♪」
「……いちゃ悪いのかよ?」
「そーじゃないけどっ! 嬉しいけど、恥ずかしいなぁ……っ」
「恥は掻き捨てだよぉ、ひなた!」
「それ使い方あってる!?」
ホワイトボード代わりに、れなこがスケッチブックを広げる。
「まず作戦目標の再確認! 今回のミッションは――」
れなこが赤のマッキーで大きく殴り書く。
《九条先輩に『ひなた』って呼ばせたい♡》
「……♡(はーと)がいらない」
みかげの一声。
「いやいや、むしろ♡が本体でしょ~!?」
「違う! 本体は“呼ばれること”であって!!」
あたしがすかさず軌道修正する。
ぐぬぬ、とスケッチブックを抱え込むれなこ。
マッキーでその"♡"を囲んだ。
「いいっ!? この♡があることで、れなたちの情熱が伝わるんだよぉ!!」
「情熱じゃなくて、オタク感が強すぎるんだよなぁ……」
みかげがぺしっと軽くツッコミを入れると、れなこは「それはそれでヨシッ!」と謎のポーズを決めた。
「はいっ、それじゃ議題そのいち〜〜っ! "呼ばれたいシチュエーション"を考えようの会〜〜!」
「会って何!?」
あたしが突っ込むと、れなこは「議事録いる?」と嬉しそうにマッキーを構える。
「……でも、どんな風に呼ばれたいかは、ちゃんと考えた方がいいよ」
みかげの一言で、空気がぴたりと整う。
「そう、たとえばさ――」
みかげがマッキーを取る。
《不意打ちで。ふたりきりで。後ろから抱きしめられながら、耳元で“ひなた”》
「……制服の袖をきゅっと握られて。引き寄せられて、ぽそっと。みたいな」
ぼん、と心臓爆発。
「み、みかげ……? えっちだねぇ……?」
「ふ、不意打ちとか……。し、心臓の準備が……!」
「ひなたの心臓の準備が整うことなんてあるのか?」
「……そうだねぇ。たしかに、妥当かもっ! 推しって、油断した瞬間に全力でとどめを刺してくるものだし」
「やめて!? 先輩を"刺す人"扱いしないでっ!」
「じゃあ、"きゅん死♡"にしとく?」
「♡が余計〜〜!!」
れなこはというと、すでにスケッチの端にイラストを描き始めていた。
「ねぇ、見て。これがひなたが倒れたときの構図ね。こう、九条先輩が心配そうにのぞきこんで。"……ひなた?"って!」
スケッチブックに描かれた想像図は、なぜか血しぶきがハート型になっていた。
「流血表現、いらないよねっ!?!? 恋愛ってこんなに過激だったっけ!?」
「うーむ、アリだな。やるね、れな」
「やるねじゃなくて止めて!? ……えっ? あたし、血しぶき飛ばす系の人だったの……!?」
チャイムが鳴る。
あたしたちは、カーテンの陰から大急ぎで席に戻る。
授業が始まり、静かになった教室。
渡されたスケッチブックの中に、くっきりと残された、ひとこと。
《九条先輩に、ひなたって、呼んでもらう》
たったそれだけの願い。
でも、世界が変わるくらいの勇気が、いる。
――いつも、そうじゃないか。
あとはもう……行くしかない。
隣の席をちらっと見た。
あたしを見返す、れなこの瞳が、炎のように燃えていた。
背中を押してくれる声があるから。
きっと、あたしは進める。
作戦開始。目指すはただひとつ――。
“推し”からの、名前呼び。




