表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/50

(小話)p-1 恋の作戦会議 名前呼ばれただけで命が消し飛ぶ in 教室


「よしっ、それではっ!」


 れなこが勢いよく机をバンッと叩く。


「緊急・恋の作戦会議、はじまりはじまり~~っ!!」

「しーっ! れなこ声でかいっ!」


 れなこの口を押さえる。もがもがと暴れる。


「廊下に先輩いたら、ど、どうするの……!?」

「ぷはっ。それはもう、ひなたが心臓止めてくれるよねぇっ」

「やめて!? 死なない前提で話してぇ!?」


 教室の片隅、カーテンの影に隠れるように、三人で集まる。


「……てかっ、みかげ!」

「そ! れな一人じゃ足りないから、恋の参謀に声かけた♪」

「……いちゃ悪いのかよ?」

「そーじゃないけどっ! 嬉しいけど、恥ずかしいなぁ……っ」

「恥は掻き捨てだよぉ、ひなた!」

「それ使い方あってる!?」


 ホワイトボード代わりに、れなこがスケッチブックを広げる。


「まず作戦目標の再確認! 今回のミッションは――」


 れなこが赤のマッキーで大きく殴り書く。


《九条先輩に『ひなた』って呼ばせたい♡》


「……♡(はーと)がいらない」


 みかげの一声。


「いやいや、むしろ♡が本体でしょ~!?」

「違う! 本体は“呼ばれること”であって!!」


 あたしがすかさず軌道修正する。

 ぐぬぬ、とスケッチブックを抱え込むれなこ。

 マッキーでその"♡"を囲んだ。


「いいっ!? この♡があることで、れなたちの情熱が伝わるんだよぉ!!」

「情熱じゃなくて、オタク感が強すぎるんだよなぁ……」


 みかげがぺしっと軽くツッコミを入れると、れなこは「それはそれでヨシッ!」と謎のポーズを決めた。


「はいっ、それじゃ議題そのいち〜〜っ! "呼ばれたいシチュエーション"を考えようの会〜〜!」

「会って何!?」


 あたしが突っ込むと、れなこは「議事録いる?」と嬉しそうにマッキーを構える。


「……でも、どんな風に呼ばれたいかは、ちゃんと考えた方がいいよ」


 みかげの一言で、空気がぴたりと整う。


「そう、たとえばさ――」


 みかげがマッキーを取る。


《不意打ちで。ふたりきりで。後ろから抱きしめられながら、耳元で“ひなた”》


「……制服の袖をきゅっと握られて。引き寄せられて、ぽそっと。みたいな」


 ぼん、と心臓爆発。


「み、みかげ……? えっちだねぇ……?」

「ふ、不意打ちとか……。し、心臓の準備が……!」

「ひなたの心臓の準備が整うことなんてあるのか?」

「……そうだねぇ。たしかに、妥当かもっ! 推しって、油断した瞬間に全力でとどめを刺してくるものだし」

「やめて!? 先輩を"刺す人"扱いしないでっ!」

「じゃあ、"きゅん死♡"にしとく?」

「♡が余計〜〜!!」


 れなこはというと、すでにスケッチの端にイラストを描き始めていた。


「ねぇ、見て。これがひなたが倒れたときの構図ね。こう、九条先輩が心配そうにのぞきこんで。"……ひなた?"って!」


 スケッチブックに描かれた想像図は、なぜか血しぶきがハート型になっていた。


「流血表現、いらないよねっ!?!? 恋愛ってこんなに過激だったっけ!?」

「うーむ、アリだな。やるね、れな」

「やるねじゃなくて止めて!? ……えっ? あたし、血しぶき飛ばす系の人だったの……!?」




 チャイムが鳴る。

 あたしたちは、カーテンの陰から大急ぎで席に戻る。

 授業が始まり、静かになった教室。

 渡されたスケッチブックの中に、くっきりと残された、ひとこと。


《九条先輩に、ひなたって、呼んでもらう》


 たったそれだけの願い。

 でも、世界が変わるくらいの勇気が、いる。

 ――いつも、そうじゃないか。

 あとはもう……行くしかない。


 隣の席をちらっと見た。

 あたしを見返す、れなこの瞳が、炎のように燃えていた。

 背中を押してくれる声があるから。

 きっと、あたしは進める。


 作戦開始。目指すはただひとつ――。

 “推し”からの、名前呼び。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ