9-2 この恋、尊すぎて寿命が削れる。心臓が先か、推しが照れるのが先か。
――夢を見ているんだ。そう思った。
だって連絡先なんて、交換していない。
登録した覚えもない。
……そんなはず、ないのに。
恐る恐る着信履歴を開くと、表示されたのは知らない番号だった。
じわりと胸が冷える。
やっぱり、何かの間違い?
だけど。
通知欄に浮かぶ、留守電の自動文字起こし。
無機質な一文に、視線が縫いつけられる。
"九条あまねです。夜分にすみません。飛鳥さんの……電話で、あってますか?"
見た瞬間、肺から空気が抜けていく。
――まさか。
本当に、先輩?
でも、どうして。どうやって。
頭が追いつかないまま、指先だけが先に動く。
震える手で、画面をスワイプ。
再発信ボタンに、そっと親指を重ねる。
……どくん、どくん、どくん。
呼び出し音がひとつ鳴るたびに、心臓が痛いぐらい軋んでいく。
そして。
『……はい、九条です』
まるでガラスの鈴が触れ合うような、澄んだ声。
電話越しでもすぐにわかった。
氷のように冷たくて、静かで――でも不思議と安心する。
あまね先輩。
その声は……ほんの少しだけ、震えていた。
「せ、先輩……! あ、飛鳥、です!」
自分でも驚くくらい、声が上ずってしまった。
「あの、そのっ、着信があったので……! お、折り返しましたっ」
空気がうまく喉を通らない。
というか鼓動がうるさくて、自分の声がよく聞こえない。
指先も、耳も、全身がひりつくみたいに熱くて、冷たい。
『……よかった。つながって』
――そのひと言で、また息ができた気がした。
さっき、雨の中で、数週間分の想いを吐き出したばかりなのに。
声ってこんなにも、気持ちを抱きしめてくれるものだったんだ。
長かった夜の息苦しさが、ゆっくりと蒸発していく。
『夜遅くに、ごめん。……かけ直そうか? 飛鳥ちゃんに電話代かかるよね』
「ふぇっ!? と、とんでもないです、先輩。いいんです、あたしに負担させてくださいっ!!」
絶対、途切れさせたくない。
『……でも』
「先輩からの電話、すっごく、すっごく嬉しいんですっ! 毎日でも、したいぐらいっ!!」
『……うん』
小さな間があった。
すぐに言葉が続かない。
先輩の息づかいが、わずかに乱れている。
「それで、えと……どうしたんですか? 先輩」
『……うん。……どうしてかな、うまく……』
先輩の声は、どこか迷っているようだ。
呼吸の奥で、言葉が揺れている。
『……うまく、言えなくて。ごめんなさい』
「……大丈夫ですよ。待っています、先輩。言えるときが来たら、教えてください」
静かに息をのむ気配がした。
そして、ほんの少し間をおいて――。
先輩は、慎重に、言葉を探すように。
『……、飛鳥ちゃんの、……たくて』
「え、……何ですか?」
よく聞き取れなくて、思わずスマホを耳にぎゅっと押し当てる。
『……声、き、きたくて』




