表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/50

9-2 この恋、尊すぎて寿命が削れる。心臓が先か、推しが照れるのが先か。

 ――夢を見ているんだ。そう思った。

 だって連絡先なんて、交換していない。

 登録した覚えもない。

 ……そんなはず、ないのに。


 恐る恐る着信履歴を開くと、表示されたのは知らない番号だった。

 じわりと胸が冷える。

 やっぱり、何かの間違い?

 だけど。

 通知欄に浮かぶ、留守電の自動文字起こし。

 無機質な一文に、視線が縫いつけられる。


"九条あまねです。夜分にすみません。飛鳥さんの……電話で、あってますか?"


 見た瞬間、肺から空気が抜けていく。

 ――まさか。

 本当に、先輩?

 でも、どうして。どうやって。

 頭が追いつかないまま、指先だけが先に動く。

 震える手で、画面をスワイプ。

 再発信ボタンに、そっと親指を重ねる。


 ……どくん、どくん、どくん。

 呼び出し音がひとつ鳴るたびに、心臓が痛いぐらい軋んでいく。

 そして。


『……はい、九条です』


 まるでガラスの鈴が触れ合うような、澄んだ声。

 電話越しでもすぐにわかった。

 氷のように冷たくて、静かで――でも不思議と安心する。

 あまね先輩。

 その声は……ほんの少しだけ、震えていた。


「せ、先輩……! あ、飛鳥、です!」


 自分でも驚くくらい、声が上ずってしまった。


「あの、そのっ、着信があったので……! お、折り返しましたっ」


 空気がうまく喉を通らない。

 というか鼓動がうるさくて、自分の声がよく聞こえない。

 指先も、耳も、全身がひりつくみたいに熱くて、冷たい。


『……よかった。つながって』


 ――そのひと言で、また息ができた気がした。

 さっき、雨の中で、数週間分の想いを吐き出したばかりなのに。

 声ってこんなにも、気持ちを抱きしめてくれるものだったんだ。

 長かった夜の息苦しさが、ゆっくりと蒸発していく。


『夜遅くに、ごめん。……かけ直そうか? 飛鳥ちゃんに電話代かかるよね』

「ふぇっ!? と、とんでもないです、先輩。いいんです、あたしに負担させてくださいっ!!」


 絶対、途切れさせたくない。


『……でも』

「先輩からの電話、すっごく、すっごく嬉しいんですっ!  毎日でも、したいぐらいっ!!」

『……うん』


 小さな間があった。

 すぐに言葉が続かない。

 先輩の息づかいが、わずかに乱れている。


「それで、えと……どうしたんですか? 先輩」

『……うん。……どうしてかな、うまく……』


 先輩の声は、どこか迷っているようだ。

 呼吸の奥で、言葉が揺れている。


『……うまく、言えなくて。ごめんなさい』

「……大丈夫ですよ。待っています、先輩。言えるときが来たら、教えてください」


 静かに息をのむ気配がした。

 そして、ほんの少し間をおいて――。

 先輩は、慎重に、言葉を探すように。


『……、飛鳥ちゃんの、……たくて』

「え、……何ですか?」


 よく聞き取れなくて、思わずスマホを耳にぎゅっと押し当てる。


『……声、き、きたくて』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ