9-1 この恋、尊すぎて寿命が削れる。心臓が先か、推しが照れるのが先か。
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シャワーの熱が、芯まで冷えきった身体をじんわり溶かしていく。
まるで逆流した血液が、ゆっくりと流れなおすような、くすぐったい感覚。
あたし、生きている。
パジャマに着替えて、髪を乾かす。
用意してくれた夕飯には、どうしても箸を伸ばせなかった。
お母さんが心配そうにのぞいてきたけど、顔を見られるのが恥ずかしくて、ただ小さく首を横に振った。
自室に戻り、ベッドに倒れ込んで、布団を引き寄せる。
本も、スマホも、手にする気になれない。
瞼を閉じればすぐに浮かぶ――あのときの、全部。
……夢みたいだ。
でも、ぜんぶ、本当だった。
胸の奥が、まだ、甘く痺れている。
さっきのことが、何度も何度も、頭をめぐって止まらない。
雨音にかき消された息づかい。
びしょ濡れの制服。
肌の冷たさと、ぬくもり。
至近距離で感じた、心音。
――だって、先輩の胸に、顔を、埋めた……。
(う、うわあああああ~~~~~!!)
枕に顔を埋めて、ばたんばたんと転がる。
「ひなた~? 大丈夫なの? 夜なんだから静かにしなさい!」
「う、うるさいなぁっ! 今、すっっっごく大事なことしてるのっ!! 放っといてよぉ~~~!!」
布団をもっと深くかぶる。
呼吸が浅い。
心臓が、騒音レベルで暴れている。
でも――なんだろう。泣きたいわけじゃ、ない。
耳が覚えている。あの低く澄んだ声。
細くて華奢な、腕の中。
大雨が打ちつける中、あたしを包んで、守ってくれた。
未だ鼻に残る、特別な香り。
先輩だけの匂い。
……先輩のおっぱい、ぽよんってしてた。
(なになに何考えているの!?!?)
違うちがうっ! 落ち着けあたし。
あの胸は、柔らかくて。やさしくて。
びしょ濡れだったのに、ちゃんと包んでくれて。
……結構、たわわだった。出るとこ、出ているんだな。
……。
(だ、だめだ……っ、思考が……無限ループに突入してる~~~っ!!)
どんな方法でも止められない暴走モード。
目を閉じても開けても、先輩しかいない。
――明日、先輩に会える?
どこで、ふたりきりになれるかな。
「……会いたいです、先輩」
逃げても逃げても、心が戻っていく場所は、たったひとつ。
ぽすんと、布団に沈み込む。
◆
スマホが、ぶぶっと震えた気がした。
顔をあげて、眠たい目をこじ開ける。
不在着信が一件。
ぼんやりと滲んだ視界に、“九条あまね”の文字が映った。




