(小話)n+3 「がんばったら、ごほうび」──その甘声で、一撃即死。(ごほうびをもらって再び臨終)
【問題。
“あなたが、いちばん好きな匂いを、できるだけくわしく答えなさい。”】
「…………」
……。
「え、え、えええぇぇ!?!? な、な、何ですかこれっ!? 数学はどこへ~~っ!!」
「解答は記述式。空欄は埋めないと、減点になる」
減点って何!? どういう採点基準なの!?
でも、先輩は至ってまじめな顔。目がふざけていない。
「い、いちばん好きな匂い……えっと、えっと……!」
答えに困りながら、視界の端――すぐ隣にいる先輩をちらりと見る。
かすかに漂う、あの、冷たい朝みたいな、澄んだ匂い。
香水とかじゃなくて、すごく自然で、近づくとふわっと包まれる。
……無理……。書けない……!
「……な、ないしょですっ!」
「減点」
「えぇぇぇ!?!?」
小さく笑う先輩。その頬が――また、少し赤くなっている。
このやりとり、まさか楽しんでいる?
「じゃあ、罰ゲーム」
「ひぃっ……! ど、どんな……?」
覚悟して身を固めると。
先輩は指先で、あたしの前髪に触れた。
――軽く、ひと撫で。
「……くせっ毛、今日も跳ねてる」
「えっ、えええええっっっ!!???」
な、何、今の……!
罰じゃなくて、何なのっっっ!?
言葉が出ない。
っていうか心臓が、完全に停止しかけた……っ!
そんな混乱の中で、先輩がすっと姿勢を正して――。
「……がんばる人のごほうび、教えるね」
真顔の先輩。
でもやっぱり、どこか、ぞくっとするほど甘い。
「……ご、ごほうび?」
心臓のドキドキが止まらないまま、聞き返す。
なぜか視線を落とす、先輩。
潤んだ唇をそっと開く。
吐息混じりの声で、甘く、静かに言う。
「……飛鳥ちゃんの好きなところ、みっつだけ言ってあげる」
「へあっ!?!?!?!?」
何それ、え!?
絶対に解きたいけど、そもそも数学が基礎からわかんないんだってば!?!?
もう、とろけそう……っっ!!
もはやひとつも解けていないのに。頭が真っ白になる。
「……でも、答えられなかったら、減点は減点。さらなる罰」
「そんな……そんなの、正解しても不正解しても死ぬやつじゃないですか~~~っ!!」
机に突っ伏して、足をじたばたさせる。
だけど――ちらっと顔を上げると。
先輩は、うっすらと笑っていた。
赤くなった首筋を、そっと手で隠すようにして。
「問題。x+1は、3になる。このとき、xの値は何?」
「ええと……ええと……! さ、さん、からいちを、ひいて……に!」
思考がグラグラに揺れながらも、必死に解いた。
問題の数字より、視界の端にいる先輩のほうが何倍も強敵すぎて、ぜんぜん集中できないけど……!
「……正解。xは2」
先輩が、こくんと頷いた。
ただそれだけなのに、何だろう、すっごい充実感……!
「じゃあ、ごほうび。ひとつめ」
えっ。本当に言うの?
冗談じゃなくて!?
先輩は、ちらっとこちらを見ると、またすぐに目を伏せて――。
「……がんばってるところ、好き」
「――――っっ!!」
心臓、止まった。
たぶん今、完全に止まった。
声にならない悲鳴。喉に詰まって、机に突っ伏して、あたしは叫ぶ。
「むりむりむりむりむりむりっっっ!!!」
「まだ、あと二つあるよ? 次の問題……」
「やめてぇぇぇ~~~~!! 命が足りません~~~~~!!」




