表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/50

(小話)n+2 「がんばったら、ごほうび」──その甘声で、一撃即死。(ごほうびをもらって再び臨終)


「……じゃあ、まずはここから」


 放課後。改めて、視聴覚室。

 先輩が、ノートにさらさらと問題文を書きはじめる。


「電車が時速xキロで走っていて、y分後にz地点を通過します。xを求めなさい」

「うぅ……、またxですか……」


 これって本当に数学?

 どうして数字が出ないで、アルファベットが跳ねてくるの?

 授業がこっそり語学に変わっているんですけど……っ。


「あの。あまね先輩……」

「……ん。どうしたの、飛鳥ちゃん」


 ノートから視線を上げた先輩と、すっと目が合う。


「xって……ペケ、って意味ですかね?」

「……え?」

「バツ印とか、不正解とか……。もしくは、宝の地図に書いてあるやつですか……!? “ここにバクダン埋まっています”的な……っ!」


 泣きそうな声で口走る。


「……じゃあ、xじゃなくて、罰にしようか」

「えっ?」

「“罰”を受けたいのかなって、思っただけ」

「えええっ!? な、な、何でですかっ!?」

「だって飛鳥ちゃん、さっき“覚えることから全部逃げました”みたいに言ってたよね?」

「ちょ、それはっ、悪意のある意訳ではっ……!」


 あたしが言ったのは、“覚えるべきことが記憶から逃げ出した”ってだけで……!


「逃げたのは記憶じゃなくて、飛鳥ちゃんでしょう?」

「ひぃぃ……!」

「ちゃんとできる子だもんね。……もう、逃げちゃダメ」

「うぐぅっ……」


 先輩の言葉、ぜんぶ真っ直ぐに刺さる。

 ぐぬぬ……、悔しい……。

 でも、好きだから、従っちゃう……っ。


「これからは、忘れた分だけペナルティ。いいね?」

「ぺ、ペナルティって何するんですか……っ!?」

「……たとえば」


 ノートの上を、先輩の指が軽く、とん、とんと叩く。


「ひとつ忘れるごとに、”わたし問題”をひとつ。オリジナルで」

「オ、オリジナル!? せ、先輩問題って何ですかっ!?」

「ふふ。出題者の気分次第。……わたしの学習範囲から選ぶかも」

「そ、それ、絶対こっちの出題範囲に入ってません~~~っ!!」


 びくびくしながら様子をうかがうと。

 先輩はふと、ノートから視線をそらして――。

 口元を、少しだけゆるめた。


「……焦った顔、かわいい」

「い、いじわるですっっ!!」


 ――今日は、完全にペースを奪われている……っ。

 先輩の笑みは、からかうようで……それでも、やっぱりやさしくて。

 長いまつげの下、その頬に、かすかに――色が差した。

 ……気がする。

 ずるい。

 そんな顔、見せられたら……あたしまで。

 ほっぺたが熱くなるに決まっているじゃないですか……!!


「飛鳥ちゃんが、真面目にがんばったら……」


 すっと、空気が変わる。

 声は低く、凛としたまま。

 くすぐるように、どこか甘く。


「――そのたびに、ごほうびをあげる」

「……へっ……ごほうび……?」

「がんばった人には、それなりの評価を」


 そっと言葉を落とす、その声が。

 あたしの耳の奥まで、ぞくっとかすめていった。


「ごほうびって……たとえば……?」

「内緒。でも、飛鳥ちゃんが喜ぶもの」

「せ、先輩、それは……!」


 先輩は、何も答えず――ただ、妖しく微笑む。


(む、無理……集中なんて……できるわけ……っ)


 頬の熱を押さえるように、深く息を吸う。

 でも、冷めない。

 心臓が、きゅうっとつままれて。なのに、ばくばく鳴っている……。

 もう、わけがわからない。


「……じゃあ、ひとつ目の“わたし問題”、出すね」


 さらさらと、ノートにペンが走る。

 先輩は斜めにページをこちらへ向けた。


【問題。

 “あなたが、いちばん好きな匂いを、できるだけくわしく答えなさい。”】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ