(小話)n+1 「がんばったら、ごほうび」──その甘声で、一撃即死。(ごほうびをもらって再び臨終)
給食を食べ終えてすぐ、カバンを抱えて駆け出した。
「ちょっ……また!? ひなた、好きがだだ漏れだよぉ〜」
「漏れていいのっ! 今は緊急事態だからっ!!」
目指すは――視聴覚室。
勢いよく扉を開けて、飛び込む。
「た、助けてください~~~っ!!」
昼休みの視聴覚室は、ほの暗くて、しんとしている。
その奥に、ひとりだけ――先客がいる。
静かな視線が、こちらを向いた。
教科書を読んでいた先輩が、ぱちりとまばたきをした。
「緊急事態発生ですっ! テストが、テストが、テストがぁぁぁ~~っ!!」
机を挟んで、先輩の正面に回り込む。
勢いのまま、突っ伏すように机をばしばし叩いた。
「覚えるべきこと、全部、記憶から逃げ出しました~~~っ!!」
……叫び終えて、そっと顔を上げると。
先輩は、目を瞬かせて、きょとんとしていた。
教科書に下敷きをはさみ、静かにページを閉じる。
「……落ち着いて。まだ試験範囲、終わってないの?」
「終わっていません! ていうか、そもそも始まっていませんっ!」
ばっ! と勢いよく、カバンから問題集を取り出す。
「見てください、これ! 全ページ、未解決事件なんです……っ!」
ぱらりと開いて、ぷるぷる震える指でページを示す。
「“xを求めよ”って書いてあるのに! 答えを見たら、"x+1"って何なんですかっ!? xの正体を、誰も知らない……っ」
「……それ、"x を使って表しなさい"だから。そこまでを求めるのが問題」
「問題が……問題すぎるんです~~っ!!」
椅子に座って、ぺたんと机に伏して。じたばた足を動かす。
「点数とれなかったら、社会的に消滅です……あたし……!」
だって、補習になったら、部活の練習に出られない。
陸上部のみんなに、置いていかれる……!
「ひゃ〜、もう無理です〜〜〜!!」
「飛鳥ちゃん落ち着いて」
「勉強したそばから忘れていくんですっ! これは記憶の反乱です!! うう……」
ぐすんと鼻をすする。
すると、先輩がほんの少しだけ、口元をゆるめた。
「……じゃあ、一緒に解こうか」
ふんわりと。
まるで風が吹いたような声で言った。
「……いいんですか?」
「飛鳥ちゃんが、消滅しちゃったら……ちょっと困るし」
その声は、まるで救済の鐘のよう。
――母性。包容力。
背後に後光がさして見える……っ!
今のは、完全に……やさしさが、溢れてました……っ!!
「せ、先輩……っ!」
がばっと起き上がる。感極まって、詰め寄る。
「女神! 知恵の女神様っ!! どうか、あたしに……知恵を授けてください~~~!!」
「……あまり近いと、集中できない」
「す、すみません……っっ」




