7-3-2 “好き”じゃ足りない想いを、大事に育てたい。
先輩が差し出しくれたのは、次の一冊。
“爆誕! 天むす探偵団・名古屋グルメ連続事件&しゃちほこ通りの罠”だった。
「わっ……ありがとうございます! “激闘”の次は“爆誕”なんですね? お弁当探偵団、どんどん熱量があがってますねっ!」
「次は”殲滅”とか来るかも」
「いやそれはもう、グルメでもミステリーでもないですよっ!? というか先輩、絶対次のタイトル知ってますよねっ!」
あたしが笑うと、先輩もくすっと笑う。
その小さな笑みに、胸の奥がじんわり温かくなる。
「今回の主人公、天むすですか。お弁当探偵団が好きになってきたから、ちょっとだけ浮気気分です」
「大丈夫。いつものメンバーもちゃんと出る。名古屋編の新キャラも、いい味出してる」
「へぇ〜。ひつまぶしとかも出てきたりします?」
「うん。名古屋グルメは、ほぼコンプリートされてる」
「いいですねぇ。あたし、名古屋に行ったことないんですよ。ひつまぶし、一度でいいから本場で食べてみたいなぁ~」
その言葉に、先輩は少しだけ考えるような表情を浮かべて、ぽつりと口を開く。
「……近くにも、うなぎ屋さんあるよ」
「えっ、それって“柳庵”ですか? 陸上部のみんなと、かき氷だけ食べに行ったことあります!」
「わたし、“柳庵”のかき氷は食べたことない」
「ええっ!? あそこの夏のやつですよ、ふわっふわの! 口の中で一瞬でとけて、頭キーンってなるやつ!」
「……頭キーンは、さすがに知ってる」
むぅ、と眉を寄せる先輩。可愛い。
「あそこのかき氷、気になってた」
「そうなんですねっ。……あの、トロピカルフルーツ味、おすすめですよ!」
「でも、ひとりで入るの……ちょっと勇気がいる」
その言葉に。
あたしの心が、ぐっと前のめりになる。
思わず、拳を握ってしまうくらいに――。
「……あのっ」
「……ねえ」
声が、ぴたりと重なった。
びっくりして、顔を見合わせる。すぐに、視線をそらす。
ひょっとして。
本当にひょっとしたら――。
"よかったら、一緒に行きませんか?"って、あたしが言ったら。
先輩は。
「せ、先輩の……おにぎり食べたいですっ!」
「――えっ」
しばし、沈黙。
視線がぶつかって、またそらして。
あたしたちの間に、ふわりと照れた空気が漂う。
「……ふふ」
その笑顔は、ほんのり目を細めていた。
「がっつかなくても、あるよ。用意してるから」
――"一緒に行きませんか"って、言いたかった。
でも、今じゃない。
この気持ちを、急いで台無しにしたくない。
いつか、きっと。
私服の先輩と並んで歩いて。
夏の午後にかき氷を食べて、頭キーンってなって。
"冷たいね"って笑い合う。
そんな日を、焦らずに迎えたい。
そんな日がきっと来るって信じている。
「……わがままでごめんなさい、先輩」
小さくつぶやいた言葉に、先輩は気づいたのか、気づかないふりをしたのか。
ただ静かに、おにぎりの包みを開いてくれた。
あたしの中にある気持ちは、きっと。
もう“好き”って言葉じゃ足りないくらいになっている、けど。
今はまだ、この関係を。
大事に、そっと育てていきたい。
先輩が、ほんのり目を細めて笑ってくれる。
今は、それで十分。
あたしにだけ、こんなにも表情を見せてくれる先輩。
それは、夕日の光よりあたたかくて――。
あたしの胸がまた、走り出しそうになる。




