7-1 “楽しみにしてる”の一言で人は簡単に爆発する(心が)
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夜。自分の部屋。
布団に寝転がりながら、借りた本を開く。
“激闘! たまごサンド探偵団・全国お弁当ミステリー編”
……意外と、面白いかも。
ページをめくって数分で、世界観に飲み込まれる。
主人公は、弁当屋の息子で、探偵団のリーダー・玉森ひかる。
舞台はどこか懐かしい、古き良き時代の商店街。
昼休みに仲間たちと弁当を囲むシーン。
たまごサンドの描写だけで、お腹がすいてくる。
「“黄身には、意思がある”。……へえ」
ページをめくる手が止まらない。
読みながら、じわじわ笑ってしまう。
でも、なぜか胸の奥がじんわり温かくなって。
九条先輩が、これを“好き”って言った気持ち、ちょっとわかる気がした。
……ふと。
本を顔の前に近づけた。
そっと、くん、と嗅いでみる。
少し甘くて、乾いた紙のにおい。
そこにうっすら混じるのは――石けんみたいな、涼しい香り。
(……あ)
いつも、すれ違うとき。
ふと横を通ったとき。
旧図書室で、この本を受け取ったときも――。
鼻先をかすめた、あのひんやりとした清潔な香り。
九条先輩の、匂いだ。
(や、やばい……っ)
本なのに。紙なのに。
ここに、先輩がいる気がして――。
ページをめくる手が、ぶるぶる震え出す。
あたし、今……とんでもないものを嗅いでしまった気がする……っ!!
ばくん、ばくん。心臓、再びの限界突破。
理性が負けてゆく。読書中に尊死しそうって、何この新ジャンル。
慌ててスマホを手に取る。
ちらっと見ると、もう22時を過ぎていた。
……どうしよう!!
(明日、先輩に貸す本が、……ないんだよぉ~~~!!)
現実逃避をしている場合じゃなかった。
頭を抱えながらスマホで検索する。”おすすめ 小説 中学生向け”。
いくつかタイトルは出てくるけど……読んだことのない本ばかり。
でも――。
先輩は言ってくれた。あたしに。
「……飛鳥ちゃんのおすすめ、楽しみにしてる」
はい、心臓爆発。
何回目だろう今日。
自分で言って、爆発するって何だ。
……あたしの読んだことのない本なんて、おすすめじゃない。
しかし、今さら買いに行けるわけもなく。
――どうしよう。ほんとに、どうしよう……!
この時間に連絡するのは、気が引ける。
けど――。
頼れる人は、ひとりしか思い浮かばなかった。
祈るような気持ちで、電話をかける。
……すぐに出た。
『おー、ひなた。どうした?』




