プロローグ
――魔王城 謁見の間――
そこは、薄暗かった。部屋の両にある燭台には紫の炎が燃えており、向き合う親子を照らしていた。
「どうした 出来損ない」
そう言ったのは、魔王。黒服に黒いマントを身に着けた彼はプルプラダイアモンドの玉座に座り、向かいの者を――息子を見つめていた。
「っ親父、俺と――縁を切ってくれないか」
まだ人族でいう20にも満たない青年、彼の発した一言は、父の眼を鋭くさせる。
「俺と縁を切ることが、何を意味するか分かっていないようだな」
赤い瞳は息子を緊張させる。燭台の炎が揺れた。
「覚悟はできてる。魔族全体と縁を切るつもりだ」
彼が父親を睨み返したその時、炎が消えた。
暗闇の中、代わりに魔王の手の中に紫炎が握られていた。
「それを俺は、わかっていないといったのだ。魔族全体と縁を切るとはつまり」
魔王は息子に紫炎を向ける。同時に、彼の身体が紫色に包まれた。
「っ⁉」
「その装備、魔力をすべて搾り取られる」
彼は紫炎に包まれながら、装備―――彼にだけ使用の認められるパンドラ・ソードや、邪悪なオーラを放つ棘首輪など、その他衣服をすべて失っていった。塵のように、空気中に消えていく。
はじめは驚いていたが、やがて目を瞑ってあきらめた表情になる。どうやら痛みなどはないようだ。装備がすべて消えると、彼の身体から膨大な紫の気が出てくる。魔力だ。
「なあ、親父」
紫炎に包まれたまま、彼は父親をにらみつける。魔王はというと、軽蔑したような目で息子を見つめながら、その魔力を搾り取っていく。言葉を遮ることはなく、じっと見つめている。
「たとえ何もかも吸い取られたとしても..........必ずお前を幽世に連れて行ってやる」
「やってみろ、息子......いや、忌まわしき人族よ。」
集めきった魔力を、魔王は左手に握りしめる。
パチンッ
指を鳴らすと、光に包まれて息子が消えた。燭台の炎が戻る。
「..............................」
静まり返った部屋の中、魔王は自分が消した魔族の立っていた場所を、ただ見つめていた。