0日目 <見えない答えと真実> =3=
「魔族の天敵か。それも魔王すら凌駕するというほどの」
「私もそこのメイドの話を聞くまできれいさっぱり忘れていたわよ。自分の性格のせいでもあるけどここまでボコボコにされるしね」
怪我をしているはずの腕を軽く回しながら言っているが、顔はだいぶ引きつっていた。痛いのを無理しているのだろうと思ったが心にとどめておいた。
「それにしても………あー。そういえば名前を聞いていなかったわね。私はそこのメイドが言っていたように暴力姫。あの魔王の妹、ヴェルシアよ」
「紫藤統耶だ」
「じゃあトウヤって呼ぶわ、代わりに私のことはヴェルシアでいいわ。それで本題だけど、近衛をほぼ壊滅状態にさせたのって」
「食べ物を粗末にしたバチあたりどもがどうした?」
「食堂で暴れていた近衛が度を超えた喧嘩をして、食べ物が乗ったお皿や飲み物の入ったコップを投げて台無しにした。ということになりますね」
メリアさんがそう付け加えると、『あー』とつぶやいた後ヴェルシアは頭を押さえた。
「それが入院の理由だとは思わなかったわ……誰も口を開かないと思ったら」
はあ、とヴェルシアは大きな溜息をはいた。
「ヴェルシアは近衛とやらの関係者なのか?」
「私の指揮する部隊よ。ということは『鬱陶しそうなのがいるな』っていう顔をしたのバカ兄とか近衛が原因?」
俺がこくりと頷くと、ヴェルシアは「ごめんなさい」と一言言って頭を下げた。
「トウヤ様。言い忘れていたのですが」
俺とヴェルシアが雑談をしている最中、メリアさんが思い出したように言った。
「魔王様が面会に来ていたのですが、どういたしましょうか」
「どれだけ待たせているの?」
「おおよそ一時間ほどです」
「………貴方もすごいわね。貴方が仕えているはずの主に対してそんな扱いで」
「厳密にいえば魔王様に仕えているわけではないのですが……それはさておきどうしましょうか」
ヴェルシアは俺を見る。
俺は首を横に振る。
ヴェルシアは恐らく冗談で親指を立てて、首を切るような仕草をすると、メリアさんは「畏まりました」と言って背を向けた。
直後、魔王の悲鳴らしき声が上がり、メリアさんが何かの首根っこを引きずって持ってきた。
「……メイドよね。貴方」
「そうですが、何か?」
顔色一つ変えず、しっかりとヴェルシアの目を見て断言する。
「魔王を引きずって持ってくるってどうなのかしら?」
「ですから、厳密に言えば魔王様に仕えているわけではないので」
「じゃあ、誰に仕えているの?」
「特に誰というわけではありません。私はまだ仕えるべき主を見つけていないので」
それからしばらくして魔王が妹に対して変態行為をしようとしたので、俺とメリアさんで止めた。
……魔王って、あそこまで威厳がないものだとは思わなかった。
あと、メリアさんって何者なんだろうと謎に思った。